ソンマッ。

韓国語を習い始めて、単語の存在とその意味を知ったとき、
忘れたくないなと何度も何度もノートに書いた言葉が二つあります。

一つは「コンブハダ」。
韓国語の学習を始めたことを話したときに、編集をやっていた友達がプレゼントしてくれた茨木のり子さんの著書『ハングルへの旅』。
茨木さんが最愛の旦那様を亡くしたあと、立ち直るために始めた新しいことが、50歳で学習をスタートした韓国語だった。単語をひとつ覚えることは、前へ前へと進まなくては出来ないこと。語学を選ぶ時に、ドイツ語にしようか、ハングルにしようか迷ったけれど、隣の国の言葉を選んで良かったということが書かれています。
その本の一節に出てくる単語が「コンブハダ」という動詞でした。

コンブ=工夫 ハダ=する。
工夫する=勉強するという意味になる。
(日本語の「工夫する」にあたる韓国語は、よく考える、思考を巡らせる、考案するという意味の言葉が使われています)

勉強することとは。わからないことが出てきた時、なぜこうなるのか疑問に思った時、今まで持っていた知識をつなぎ合わせて答えに辿りつこうとしたり、調べたり、誰かに聞いたり。わからないことを分解して、あれとこれとをつなげたり。実際にその場所を見に行って、また考え直したり。頭の中に「!」が出るまで、あれやこれやと工夫することを繰り返すのが勉強だ、と静かに感動した最初の韓国語が「コンブハダ」でした。

工夫して、勉強を続けると、以前は空っぽだった「韓国語」という頭の中の箱に、新しい言葉がどんどん詰まっていく。勉強が楽しいという感覚を久しぶりに思い出させてくれたのが韓国語だった。

もう一つの言葉は「ソンマッ」。
渋谷の道玄坂、坂の途中の雑居ビル。4階にあった「新大久保語学院」という学校で毎週土曜日に韓国語を学習していました。わたしに新しい言葉を教えてくれたノ・インジョン先生は一橋大学の大学院生で。なんでもはっきりものを言ってくれる裏表のない人だったので、年齢関係なく仲良くなりました。思えば、会社を立ち上げる直前に、一番熱心に学校に通っていたので、会社のことを一番相談したのもインジョン先生だった。「会社の名前、何にするんですか?」と先生にいわれて、ごはんのレシピ、旅のレシピ、生活や楽しみにまつわるレシピに関わることをやっていく会社になると思うというところから「and recipe」という名前が決まったのでした。
90分2コマの授業の中では教科書に載っていることだけでなく、雑談や先生が持ってきてくださるオリジナルの資料の中で韓国の文化について教えてくれることもたくさんあって。韓国の食材や食べ物について話をしていた時に出てきた言葉が「ソンマッ」でした。

ソン=手 マッ=味。菜箸やスプーンで食材と調味料を和えるのではなく、手で和えることで味の染み込み方がかわってくる。日本でいう「おふくろの味」に近いもの。韓国料理は手で混ぜる、和えることでおいしくなっているんですよ、という話を先生に聞いてから、食堂にいくとついついお母さんたちの「手」を見てしまうようになりました。おいしい味があの手から染み出している。
ソンマッ。なんていい言葉なんだろう。

日本でもおにぎりはソンマッですよね。ギュッギュッとごはんを握る度、おいしい何かが手からお米に伝わっている。糠漬けもソンマッだ。ハンバーグやつくねもソンマッですね。

今日もキンパの材料になる大量の人参を千切りしながら、ソンマッのことを考えていました。
釜山のチャガルチ市場の地下にあるタミャン食堂。お母さんたちはお元気かな。お母さんたちのソンマッから出来上がるおかずはどれもおいしくて、朝からお腹いっぱい食べてしまう。もやしのナムルはタミャン食堂のものが最高なんです。釜山名物のおでんの煮付けも薄味で朝に優しい。太刀魚の揚げ焼きと白身のチリチリ焼けた目玉焼きをご飯にのせて、海苔でくるんで頬張る時が釜山のお母さんたちの朝ご飯を味わう一番おいしい瞬間。

思えば食材を手で和える行為は、おいしくなぁれと何度も何度も食材にに話しかけていることなんだよな。

衛藤キヨコとの旅、釜山海雲台にて。

代々木上原のhako galleryで開催されているカメラマン衛藤キヨコさんの写真展「旅のいただきます。」にて、本日と明日、弊社and recipeが韓国料理をお出ししています。衛藤キヨコさんは、よく一緒に韓国に行く旅の仲間です。釜山のお母さんたちのようなソンマッはなかなか出すのが難しいけれど、and recipeのソンマッがつまったキンパやチヂミ、チキンなどご用意しています。韓国で出会ったマッコリの中で、一番おいしい(と思っている)福順都家の生マッコリもございます。衛藤さんの撮影した韓国のおいしい写真をご覧いただきながら、お食事をしていただけます。お時間ございましたら、ぜひ遊びにいらしてくださいませ。


衛藤キヨコ写真展「旅のいただきます。」
hako gallery 東京都渋谷区西原3-1-4
営業時間 11:00〜20:00
(24日、25日and recipeが韓国料理をお出しします。両日とも15:00〜17:00はドリンクのみ。)


って最後は、宣伝になってしまいましたが、ソンマッを味わいに旅に出られる日を心待ちにしています。(2020年の気になるものは「旅」のことしかないとも言える…)