人が発酵する場所。

今年4月、小田急線の下北沢と世田谷代田の間に生まれた「BONUS TRUCK」。小田急線の地下化に伴い、元々線路だった場所に新しく小さなまちができました。

飲食店、コワーキングスペース、本屋、カフェなどが軒を連ねる
仲良しの長屋のような場所。(実際の建物は2階建なのだけれど)

その中の1軒。カレー屋さんADDAの夜のメニューのお手伝いをand recipeが担当させていただきました。そんなご縁もあったのに、なかなか足を運べていなかったこの場所に、今週やっと行ってきました。

ADDAのオーナーでもある伊藤総研さんチームから、BONUS TRUCKの中にある発酵デパートメントの「山賊の宴ディナーを食べに行きませんか?」とお誘いをもらったのです。

日本中にこんなに面白い発酵の文化があるのだということを教えてもらった発酵ツーリズム展。昨年渋谷のヒカリエで人気を博したその展示で、鼻をだいぶ控えめに近づけながら嗅いだ、奈良漬やくさやの匂い。五感で感じる発酵の展示からは、その土地の生活を感じることができる。日本を再発見していくような体験でした。

そんな展示から生まれた「発酵デパートメント」の事業。お店で食べられる発酵づくしの「山賊の宴ディナー」。

ここ数ヶ月、SNSに「山賊ディナー」の写真が時折流れてきて、気になっていたんです。家では絶対に味わえない、これでもかと発酵の技術を駆使したお料理が出てくるらしい。

食事だけを予約してお酒は自由に選べるコースと、食事にぴったりのお酒をお店でペアリングしてくれるコースがあるのですが、もちろんオススメのお酒を提案してもらう方が面白い。迷わず、ペアリングコースをお願いしました。

山賊の宴というと。ギャートルズに出てくるような、骨つきのかたまり肉がずらりと並ぶ。がしがし肉をがっつきながら、大きな柄杓で樽からお酒をどんどん呑む。キングダムに出てくる楊端和。その脇を固める毛皮に身を包んだ屈強なメンバーがずらっと頭に浮かんでしまいました。
出てきたお料理もお酒も、実際はもっと繊細なものだったんですけれど、マインドセットとしては完全に山の民が住むほこらをイメージ。

料理の中に盛り込まれた情報量は、キングダムの世界観に負けじと半端ない。そして、出てくるお食事とお酒の種類も。発酵料理の山の頂を見るには、覚悟してのぞまねばならない。

まずは、山梨のロゼワイン「ふいちもう」からスタート。
山梨県牧丘で作られた巨峰とベリーAを使った2018年のワイン。
日本で一番ワインを作っている場所は、山梨県なんだそうです。
国産ワインを探そうとすると、確かに山梨のものに当たる確率が高いとはうすうす感じていましたが、85万人の都市に100軒のワイナリーが存在する。そして、山梨県の中でも甲州市には、30000人弱の人口に対して50軒のワイナリーがあるらしい。そんなお話をのっけから伺って、すでに情報のお腹は五合目くらいまで登ってしまった気分です。山梨県、富士だけに。

「今日はワインも日本酒も出てきますが、全て国産のものでまいります」

おお、楽しみが増します。
最初のロゼは、クセが強くない。さらっと飲めてしまう綺麗な味。

ワインといえば、ぶどうに酵母がくっついて発酵するとできる飲み物ですが。
そもそも発酵ってなんでしょう。そう思った時、小倉ヒラクさん著の「発酵文化人類学」をひらくと明解な答えに出会えます。

発酵とは、人間に有用な微生物が働いている過程のこと。
その裏側にあるのが腐敗で、人間に有害な微生物が働いている過程のこと。
ものが腐って食べられなくなってしまうのはこちらですね。
どちらも、人間目線の話なのだけれど。

動物と植物と微生物。微生物は、地球上に存在するもっとも繁栄している生き物。そんな微生物たちが、人間の都合だけれど有用に働いてくれて、おいしくしてくれた飲み物や食べ物を今日はガッツリいただくわけです。

ロゼってジュースみたいにスッとお腹におさまっちゃうので危険なんですよね。
すでにふわりといい気分になったところで、1の皿のアミューズ登場。
うずらの卵を味噌玉と酒粕の床につけた、ちょっとチーズのような味わいの前菜。小さなスプーンにのっている卵をつるり。
何種類もの香りが口の中いっぱいに広がります。

続いて2の皿はスープ。乳酸発酵させた姫筍と酵母発酵をさせた青梅、みょうが、くこの実が入ったサムゲタンのようなスープ。米麹がとろみの正体なのだそう。スープの上澄の方と底で味が違うので、最初は上から。次に底の方からすくって味の違いも楽しんでくださいね、と丁寧な説明が入る。うん、確かに酸味の濃さが違う。

スープとのペアリングには、WAKAZE Foniaという日本酒が熱燗でやってきました。この日本酒は東京、三軒茶屋の酒蔵。くんくん匂いをかぐと、出汁の香りがする。かつおと昆布の出汁がブレンドされた日本酒が目の前に。
それはおいしいに決まっているわけです。日本酒とかつおと昆布の出汁って和食の基本じゃないか。ダブルスープのようなペアリング。

2皿目で、すでにお腹の山も頭の山も7合目ぐらいまできちゃいましたね、なんて初めましての内装デザイナーさんとおしゃべりをしていたら、容赦なく3皿目がやってきます。

山盛りのモッツァレラチーズと4種のお醤油。
グリルした甘いキャベツとにんじんきゅうりなどのスティックと一緒に登場したのは4種のみそ。

スポイトで少しずつ醤油をとってチーズにかける。この日は、愛知県の白たまり、東京のキッコーゴ濃口醤油、岐阜県のたまり醤油に石川県のいわしいしるが登場してきました。
どのお醤油も華やかだったり、濃厚だったりおいしいものばかりだったけれど、一番驚いたのはいわゆる魚醤の「いわしいしる」。ナンプラーのような臭みはなく(あの臭みがおいしいということももちろんあるけれど)とてもきれいな味で、いわしの旨味が上品に口の中に残る。
こんなにきれいな味の魚醤が存在するんだということを初めて知った夜でした。

ペアリングのお酒たちがまたおそるべし。この醤油と味噌のテイスティングに合わせて、赤ワイン、日本酒、ピノノワールを使った先ほどとは違うロゼが出てくる。
ここでやっと気づいたのです。この酒量、イメージ通りの山賊っぷりじゃないか。テーブルの先に長澤まさみさん演じる楊端和が見えてきたぞ。いえいえ、決して泥酔してはいません。まだ気は確かなんです。

味噌と野菜と醤油とチーズ。部屋とYシャツとわたしよりもひとつ多い、テイスティングラインナップ。このつまみでずっと呑めますね、って味噌をちびちび味わっていたら、メインディッシュがやってまいりました。

うずらの粕漬け、醤油かす漬け。スペアリブ、鯛の熟れ酢揚げ。かんずり、甘夏を使った発酵ソースつき。グリル野菜たち。ドーン。
またお酒も出てきましたよ。「フジッコのお豆さん」のフジッコさんは、とてもおいしいワインを作るワイナリーも持っているのだそうです。「NOANOA」という名前のしっかりとした赤。ヒラクさん曰く、ボルドーワインと見分けがつかないほどのクオリティ。たしかに、フルボディーに近いどっしりとした味わい。がしがし食べる、野性味あふれるお肉に合う。
そして、愛知の日本酒も登場した!

この後、焼きおにぎり、デザートと続いたのですが、大満足すぎる情報量とごはんの楽しさ。
きっと戦いを終えた山の民が輪になって食事をとるときには、こんな風にお酒を楽しみながら、長い戦の労をねぎらったのだろうな。楊端和の手には赤ワインがきっとよく似合う。

お米と麹、ぶどうと酵母。おいしい発酵料理とお酒の組合せ。微生物がもたらしてくれる発酵という作用は、それを口にする人間自体の心と体をおもしろく元気にして、また次に進む活力を生んでくれる。頭とお腹のフル回転。微生物のはたらきには、人自体も発酵させる力が宿っている。

発酵ディナーの山の頂に到達したのかどうか。ほろ酔いではっきりしない頭ではあるけれど、これだけ心が満たされているのだから、きっと登頂成功なんだろう。自分の発酵が足りないときには、また山賊ディナーにパワーをもらいに来よう。

ヒラクさん、発酵デパートメントのスタッフのみなさま。心もお腹もいっぱいになった夜でした。ごちそうさまでした。