本を贈る。

誰かにとって、ちょっとしんどいことが起きた時、直接自分の言葉で何かを伝えるよりも、別の人の言葉を借りた方が良いこともある。心からそう思えたのは、時間が少し経った後だった。

マネージャーをしている幡野さんのワークショップ、3月最初の開催日、お手伝いをして下さっている編集者の辻さんが、ポプラ社さんから新しく出版される本をプレゼントしてくれた。

『嫌われる勇気』の著者・古賀史健さんの新しい本。タイトルは『さみしい夜のページをめくれ』。自分を知る、自分自身との人間関係を構築するために、まずは日記を書いてみるということが自分を助けることになる。ゆっくりと、その人のスピードに合わせて「書く」ことで、自分の頭で考えることに向かわせてくれる本『さみしい夜にはペンを持て』中学生・タコジローの物語シリーズの2冊目だ。

さみしい夜のページをめくれ』では、本を選び、本を読むことを通じて、自分がどこに向かうのか、何を選択していくのか。新たな本に出会い、物語を読むこと、著者と対話をすることで、自分自身を選び直すことができるようになる。今回は本と出会うこと、読むことがテーマの1冊だった。

本をいただいた日に、喫茶店で早速ページを開く。主人公のタコジローに、今度はどんなことが起きるのか。この本が「読むこと」についての本だということを知らずに、読み始めた。ページをめくっていくと文字の色が変わった箇所があって、『夜を乗り越える』という大好きな本の一節が登場した時に、目からこぼれ落ちるものを押さえられなくなった。だめだ、これは外で読んではいけない本だ。

ページのいつどこで感情が込み上げるかわからないから、外で読むのは危険だなと思いながらも、先が気になる。読みたくなったらいつでもページを開けるように、結局カバンに入れて持ち歩き、SAKRA.JP火曜日担当のニホンコンこと香織さんと韓国語のレッスンの日になった。まずは自分たちの近況を話し、そしてやっぱり子供たちの話題になる。

いつも明るくパワフルなニホンコンが、慎重にゆっくりと話し始めたのは、子供たちの成長の過程と向き合う日々の中で、わたしたち親ができること、何か問題があった時にどんな言葉をかければいいのかということ。そして、かけた言葉がそれであっていたのか、言葉をかける以外の方法もあったんだよね、そんな話だった。

年の近い子供を持つ私も、ちょうど同じように、かけた言葉が正しかったのか、あの時はただ聞くだけの方がよかったのではないか。そんなことを行ったり来たり、考えていたタイミングだったので、大いに共感をしながら、ニホンコンの話を聞いていた。子供たちと30以上も年の離れたわたしたちも、同じように悩んだり、わからなかったりするよねと。

うなづきつつ、耳を傾けつつ。話を聞く以外に友人と友人の子供たちに何か渡せるものがあるとしたら何だろう。なかしましほさんのレモンクッキー、ソウルでみつけたおいしい海苔、つるつるの食感にびっくりする稲庭中華そば。でも、今回はなんだか違う。そう思いながら、カバンに入っていた『さみしい夜のページをめくれ』のことを思い出した。

まだ全部読んでいない本なのに、この本をプレゼントするのが今の最適解な気がした。作者の古賀さんの言葉、そしてこの本に出てくるたくさんの著者の言葉を、想いのままに受け取ってもらうのが一番なのではないかと。

「泣いちゃうかもしれないから、電車で読むのは気をつけてね」そう付け加えて、本を渡す。その足で新宿のブックファーストに向かい、自分用に新たに1冊『さみしい夜のページをめくれ』を購入して、残りのページも一気に読んだ。この本の中から、どんな手紙を受け取ってくれるかはわからないけれど、やっぱりこの本を渡してよかった。そう思った。

本を読み終えてから、ふと考えた。タイトルがなぜ『さみしい夜はページをめくれ』ではなく、『さみしい夜のページをめくれ』だったのだろう。「は」ではなく「の」であること。君があなたがさみしい夜は、何かの本を開いてページをめくるといいよではなく、君のあなたのさみしい夜のページをめくる。

もしかしたら同じような問題で悩み、同じような壁にぶちあたった誰かが、本を通じて、君にあなたに宛てた手紙を受け取ることができるかもしれない。小さな一言と目があったら、留まっていた時間がまた動き出すかもしれない。あなたの人生の物語のページを、めくることができるかもしれないよ。そんな意味が「の」に込められているのかもしれない。そんなことを考えた。

著者の古賀さんに訊いてみたい気持ちもあるけれど、訊かずにそのまま、自分が古賀さんから受け取った手紙を大事に取っておくことにした。

すぐに質問せずに、自分が受け取ったものを、まるごとしばらく大事にしてみる。そんな考えに至ったのも『さみしい夜のページをめくれ』を読んだおかげなのかもしれない。

桜の木がだんだん白から緑に変わっていって、やっとスウェットでお散歩ができる季節になってきましたね。皆様ゆっくりと、良い週末をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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