待ち焦がれた夏の食卓。

ファーマーズマーケットで寿司屋を営む夫は、夏の間はボートを出して釣りに行き、獲れたロブスターや蟹を寿司ネタにしてお客様に提供しています。
今年も4月以降、捕獲したロブスターは通算15匹ほど。去年はおそらく4カ月で30匹くらいは獲っていたはずなので今年は不漁気味です。

今年は全体的に不漁、特に毎度お馴染みのあれがなかなか釣れないのです。よく釣れる年などは5月くらいから始まるのに。
今年釣れたのは通算2尾だけ。それらも寿司ネタ行きで我々の食卓にはまだ上がらず。

夫は仕事の合間、高潮で風がない日(この条件がなかなか揃わない)海に出るものの、空っぽのバケツを片手に憮然と帰宅する事が続きました。

7月某日、風がやっと止み、久しぶりに夕食後にボートを出しに外出。帰宅したのは日も暮れ始めた21時半頃。
なんと、手にした大きなバケツには丸々と青光りした身が溢れんばかりに突っ込まれてる。

遂にこの時が来たー!!
家族全員が待ち焦がれていた夏の魚、鯖がやっと食卓に上がるのです。

ロブスター、偶然にも長男が幼い頃と今の次男(2歳)がモンスターと呼びます。
2年前の出来事。スパイダークラブです。
朝起きてこれらがキッチンのシンクにあったらわりと仰天する。
2020年7月某日、大漁、豊漁、ヒャッホウ。

海の男の夏の楽しみとは。

アイルランドは島国ですが肉食率が高く魚介嫌いな人は割と多い印象です。

ロブスターや蟹はフランス辺りに輸出というのが一般的。
アイルランド産のマグロのほとんどが日本行きとも言われています。牡蠣や帆立も美味しいのにアイリッシュの人はあまり食べないようです、もったいない。

でも鯖は違うのです。
釣りやすいこともあり、別格で地元民に愛されている。
海沿いの村ではボート所有率はかなり高いです。お金持ちの方は立派なのを、そうでない方はそれなりのを(もちろん我が家は後者)。

鯖を狙って夏は皆ボートを出します。
運が良ければ釣り糸垂らしてほんの数秒で一気に5匹も引っかかることも。それが続くとものの数分で大漁に。獲り過ぎた鯖は近所の人や親戚にお裾分け。この辺りでは鯖は釣るかおこぼれをもらうか。

夫も鯖はお金を払って買うものではない、とよく話しています。

むっちりと太った青光りする新鮮な鯖。
確かにアイルランドの夏はたいして暑くもならないのですが、でもやっぱり鯖を食べると夏だ!と幸せを感じます。

秋の日本人の秋刀魚愛に近いかもしれません。

5月に釣りに行った際に1尾だけ釣れた鯖。
この時はこの後ジャンジャン釣れると思ったんだけどな。

焼くのか、煮るのか、揚げるのか、シメるのか。

アイリッシュの鯖の調理は極めてシンプル。

オーブンでグリル、またはフライパンで焼くだけ。天気がいいと友人や家族と庭でバーベキューをするのも一般的。

我が家は、鯖の竜田揚げが大人気。漬けだれには朝から漬け込んで味を染み込ませます。
変化をつけて野菜と共に南蛮漬けもたまに食べたい。
あとは味噌煮や南インド風ココナツミルクカレーなど。

息子が好まなかったパン粉の香草焼きはまたいつか忘れた頃に出してみよう。

夫は張り切って寿司業用にシメサバを用意します。
あの鯖の脂ののった身に酢は合います。

旨いものはなぜか高カロリーという世の残酷さよ。
マーケットで夫が売っているお寿司。シメサバの青色が入るとバランスが良い。
卵焼きの卵もうちの鶏さんたちの卵です。

我が家の定番ランチは思い出の旅飯。

翌日のランチは暗黙の了解でサバサンド、が我が家のおきて。
とりあえず、近くのスーパーにバゲットを買いに行ってきます。

サバサンドはイスタンブール、思い出の味。

海沿いの大きな橋のたもとに屋台がいくつか出ていて、鯖が大きな鉄板一面に並べられています。
通り中に香ばしい匂いが漂うのだからこれを無視できる日本人は稀ではないかと思う。
思わず目線を奪われたところで、すかさず威勢の良いお兄さんが横から声を掛けます。

「サバサンド!サバサンド!」

日本人観光客がいかに多いか、そして彼らが
「わぁー、見て、サバサンド!美味しそう〜。」
などと言い、そのまま席についたのでしょう。
「私、あれ、サバサンド、プリーズ!」
みたいにオーダーしたんでしょうね。

トルコ人のお兄さんは日本人観光客から日本語名「サバサンド」をマスターしたに違いない。

お兄さん、それは正しい商法だ。

私も迷わず席につきました。
昼間からトルコのエフェスビールと共に頂きました。

バゲットに玉ねぎのスライス、レタス、塩胡椒した厚い身の焼き鯖がのってます。食べる前にレモンをぎゅっと絞るだけ。

文句なしに旨いに決まってる。
美味しいものはビールまたは白飯が合う、この法則通りでした。

これにすっかり病みつきになり、こちらに来てから鯖を釣る度に自分でも作るようになったのです。

なぜだ?トルコのサバサンドの写真は見当たらず。
こちらは先日の我が家のサバサンド、トルコのレンズ豆スープと共にいただきました。

この夏、あと数回は贅沢させて。

夫によると昔は夏の鯖釣りは簡単すぎるくらい毎度大漁だったようです。

ですが、今年も含めて近年は不漁続き。夫のする昔話はすでに伝説の話にしか聞こえないような状況です。

息子達はボートに乗って釣りをするのが大好き。
特に鯖大好物の長男は自分が釣れた鯖だと食事に半端なくテンション上がります。

とりあえず、来月いっぱいまで週に一度は鯖祭りが出来るといいのですが、どうなることか。

特別な機会にしか行けない高級レストランやホテルで美味しい物を食べる贅沢。

今の私の生活ではそれはなかなか出来ないけれど自給自足の食卓はまた別の意味でとても贅沢な物。
海の恵みがある夏ご飯は特に私達の生活をより豊かにしてくれます。

とりあえず。
夏よ、まだまだ続いてくれー。

ロブスター、茹でる前は赤くないんですよ。
なんちゃって自給自足飯。
鯖竜田揚げ、ケールと人参胡麻和え、ズッキーニのソテー、ケールの千切り、キャベツとコールラビとにんじんのコールスロー、しそ味噌巻き、もずく酢、卵と天然海苔のスープ、にんじんの葉ふりかけご飯。緑ばっかり。
全ての野菜と海藻、卵、鯖は自給自足。でもご飯と味噌汁の位置が逆じゃないか!!恥ずかしい。良い子は真似しないように。

西果て便り

(毎週木曜日更新)
世界放浪の後にヨーロッパの西端アイルランドに辿り着く。海辺の村アイリッシュの夫、と3人の子供達(息子二人、娘一人)と暮らしています。