新しい選択。

20年数年つとめた会社を来年卒業して、新しく自分の会社をスタートするという友達から連絡をもらい、とても久しぶりにご飯を食べました。

子供の夏休みに恒例になった、朝の散歩の時間に見つけ、気になっていたワインバー。照明の暗いお店を選んでしまったけれど、前から伝わってくる空気はなんだかとても清々しくて、話を聞いているとこちらも自然と笑顔になる。

3日前に会社も登記を済ませた。事業の内容も決めて、映像も撮ったり小さく準備を始めているという。

「会社の銀行口座を作るのって、簡単じゃないんだねぇ。」

請求書がないとだめとか、HPもまだ作成中だからその実態がないとだめとかいろいろあることをやってみて知ったという話を聞きながら、なんだか自分も初心にかえるような気持ちになった。

何が食べたいと強く主張するタイプではなかった友人が、「これ、食べたい!」と言って注文したヤリイカのマリネが届く。ともだちが新しい場所に向かう門出を祝うごはんなんですとシェフに伝えたわけではなかったのだけれど「山盛りにしちゃいました。勢いよく崩して、クスクスとよく混ぜてお召し上がりください。」と言ってにこりと笑ってくださった。崩してしまうのがもったいない美しさだねぇといいながら、豪快にスプーンとフォークをもってプレートの上を混ぜ始める友はなんだか楽しそう。

一緒に仕事をしている時も、あっという間に仕事を片付けるスピード感のある気持ちの良い人だったけれど、自分の場所を作ったらますますスピードに乗って、いろんな問題の解決策を考えて、前に進むのだろうなと頼もしく話を聞く。

「今までの人生を振り返ると、自分で決断をして何かをすることがなかったように思って。声をかけてもらって会社に入ることが決まったり、社内のプロジェクトの場合でも、一緒にやろうと声をかけてくれる人がいたからチームに加わっていたんだよね。思えば自分で決断をして何かを始めるのは、今回が初めてなのかもしれない」

声をかけてもらったとしても、会社に行こうと思ったのは自分で決断をしたからだし、自分で決断をしてやってきたことが一個もなかったということは決してないと思うのだけれど、今回の決断をした後に、誰かにこれからの話を楽しそうに話すことができるということは、きっといい選択だったんだねと言って、レモンサワーを一口飲んだ。

本人は自分のことだからあまり気がついていなかったのかもしれないけれど、友人はよく新しいプロジェクトに呼ばれる人だった。何か一つの役割をもってチームに来て欲しいというよりは、この人がいてくれたらプロジェクトがうまくいく、チームがうまく回る。良い雰囲気ができてみんなが助け合える。そう思って声をかけられている存在だった。名前をつけることが難しい役割。友人がとても得意なことも別にあるのだけれど、そのこととは一旦横に置いておいてチームにいて欲しいと多くの人が思う存在。

「一年後は、どうなっているかなぁ。わ、このイチジクおいしい」

シャルキトリの盛り合わせの上に乗っていたイチジクに感激している友人。こんなにひとつひとつの食べ物に言及するタイプだったかな。そういえば、さっきはクスクスって何でできているのかにも興味を持っていたし、なんだか今までと違う視点でご飯を食べているような気がする。

1軒目のワインバーから、甘いものを食べに2軒目に移動をする。コーヒーでもジンジャエールでもなく、めずらしく中国茶のメニューを見ている友人。

「こういう時にも、今まで頼んだことのないものにチャレンジしてみようと思って。」

自分の人生は自分が決める。カフェでお茶をするにしても今まで飲んだことのないものを選んでみるという新しい体験を選ぶ。そういうモードがとってもいいなと思った。ミルクティーを頼みかけた自分も、横から中国茶のメニューを見て注文を変えてみる。

アイスとホットの中国茶をそれぞれ飲み、アイスクリームとチーズケーキをそれぞれに食べながら、思い出話にも花が咲く。でも話の大半は、新しくスタートする方のこと。

心もお腹もいっぱい。また時間を少しあけて、話を聞けることを楽しみにバイバイと手をふる。

週の頭に風邪をひいて、頭に霞のかかっていたような10月の3週目でしたが、新しいところに向かっているポジティブなパワーを持った友人のおかげで、こちらも力が湧きました。

みなさま今週も1週間おつかれさまでした。よい週末をお過ごしくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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