鱈とさんま。
先週の週末、気仙沼斉吉商店の和枝さんとオノデラコーポレーションの紀子さんと
ソウルの友人ダソムのアトリエに行ってきました。
目的は、さんま節を使ったお料理を中心としたワークショップを2日間行うこと。
ワークショップ1日目は、ソウルのお母さんと気仙沼のお母さんによるレシピの交換がメインでした。ダソムが小さな頃に一番好きだったというお母さんのプゴックッ。日本から観光でソウルを訪れる人々には、地下鉄2号線市庁駅のすぐそばにある武橋洞プゴグッチッで飲むプゴックッが一番有名かもしれません。プゴ(북어)とは鱈のこと。干し鱈の出汁に豆腐や卵の入ったスープは、お酒をたくさん飲んだ次の日のヘジャンクッ(해장국)として韓国の人たちに親しまれています。ヘジャンは漢字から来ている言葉で「解酲」を韓国語で読んだもの。酲は音読みで「よう」と読むことを今回初めて知りましたが、二日酔い、酔うを意味する漢字というわけで、ヘジャンクッは酔い覚ましのスープを意味するわけです。
干し鱈のスープに合わせ、和枝さんが作ってくださったのはさんま節の出汁で炊く秋野菜の炊き込みごはん。朝早くに和枝さんと紀子さんとホテルを出発し、清渓川沿いを散歩しながら東大門まで。途中、広蔵市場を見学だけと思ったけれど、食いしん坊の旅は素通りというわけにはいきません。麻薬キンパとおいなりさんと食して、朝の腹ごしらえを完了。東大門市場で販売している布団や布を眺めながら、地下鉄1号線に乗り、京東市場に向かいました。
市場でお二人に見ていただきたかった、味のしっかり濃い韓国の野菜たち。和枝さんが最初にこれ!と注目されたのは、天然のしいたけでした。まるまる太った、肉厚のしいたけ。香りもいい。次は、2日目に使う里芋を探します。韓国でトランと呼ばれる里芋、なかなか売っているお店がない。そういえば、韓国で里芋を食べたことが一度もなかったかもません。根菜類を売っているお店をひとつひとつのぞいていくと、ありましたありました。大きいサイズの里芋と小さいサイズの里芋を2種類買うと、店のお母さんが皮を剥いた真っ白のツルニンジンを一人1個ずつ分けてくれました。
「そのままかじってみて。梨の味がするから」
韓国でトドクと呼ばれるツルニンジン。焼いたり、和物にしたり。漢方の薬剤としても使われるというツルニンジンは胃、肺、脾臓、腎臓などを丈夫にしてくれる働きがあるらしい。みずみずしい根っこをカリッとかじるとふんわり口の中に薫る香りは確かに梨のよう。
「これ、明日のお料理にも刻んでちょっと入れたいね」
トドクは和枝さんの閃きを引き出したようです。
続いて、根菜類のコーナーにならぶレンコンも購入。これで、本日作る野菜の炊き込みご飯の材料はばっちり。あとは葉物野菜とお肉を買ったら、市場でのミッションは終了。
韓国で葉物野菜といえば、せり。斉吉さんの運営されているレストラン「鼎」で食べたせりの鍋は、今までで食べた鍋物の中でコイケの人生史上トップスリーに入るおいしさでした。根っこまでおいしくいただく鍋、次はいつ食べられるかな。せりマスターの和枝さんに、韓国のせりを味わっていただきたくて、以前から韓国のせりのおいしさについて熱弁をしていたのですが、今回韓国のせり=ミナリをお料理をしていただくことが叶いました。しっかりと太いミナリの茎を見るやいなや、「韓国のミナリはどうやって育っているんですかね」と栽培方法に興味深々の和枝さん。ハングルでミナリ(미나리)栽培方法と検索をすると、出てきました。和枝さんの取引をされている仙台のせりは水耕栽培。韓国のミナリは、土の上でスクスクと育っておりました。だから茎がこんなにしっかりと太くて、根っこの部分はカットしてあるんだねとうなづいていらっしゃる。
チャンナムル(참나물)と呼ばれる三つ葉も購入。三つ葉も茎のしっかり具合と葉っぱの大きさに驚かれている。韓国の三つ葉のナムル、おいしいんです。
煮物にする鶏肉とさんま節でつくる豚汁のための豚バラ肉を購入し、買い物は終了。市場の地下にある大好きな食堂「安東チッ」で白菜のジョンとビビンバ、カルグクスを食べ、お二人の称賛を聴きながら、アトリエに向かう。
「わぁ!こんにちは!」と挨拶も早々に、ダソムのお母さんが作るプゴックッの準備に早速取り掛かる。干し鱈を水に浸し、まずは皮を剥ぐ。その後に手で身を剥いでいく。
「小骨を取りながらあまり細かく裂きすぎないようにします」
今日は2つのプゴックッを作ってくださるらしい。ひとつは玉子とねぎの入ったもの。もうひとつは豆腐と細くきった大根を入れたもの。韓国のスープは、味の決めてにみじん切りのニンニクがたっぷり入っていることがほとんどだと思っていたけれど、お母さんのプゴックッにはニンニクをいれないのだそう。胃にもお腹にも優しいスープに仕上がるわけです。
市場にならぶ鱈を見て「韓国はスケトウダラが多いのかな、マダラが多いのかな」とおっしゃっていた紀子さん。プゴックっはスケトウダラの干物を使っているのだそうです。グルタミン酸とイノシン酸がたっぷりの鱈。幼い頃は鱈の鍋がそんなに嬉しいメニューではなく、鱈を食べる時はむしろポン酢の味で食べると思っていたけれど、韓国のプゴックッを食べてから、鱈こんなにもおいしい出汁が出ているのだと、今までわたしの体の血となり肉となってくれた鱈たちにお詫びをしたい気持ちになったものでした。
ダソムのお母さんのプゴックッ。卵とネギだけをいれた優しい味のバージョンももちろんとてもおいしかったのですが、「煮込んで溶けてしまってもいいの」と言いながら細く細く切っていた大根の味が染み出したバージョンにびっくり。大根と鱈の旨味と甘味の調和に、豆腐の大豆の香ばしさが香って、スッカラがスープをすくい続ける滋味深い母の味でした。
プゴックッがぐつぐつ煮える間、さんま節の出汁で仕込んだ秋野菜の炊き込みご飯もいい香りを漂わせていました。「おいしいレンコンも梨のような味がするんだよねぇ」と買い出しの時におっしゃっていた和枝さん。レンコンを切りながら、端っこをひょいと渡してくださる。そのままかじってみると、こちらもツルニンジンと同じく甘く、水分もたっぷり。「このレンコンも梨みたいですね」力をもっている野菜の存在感はやっぱりすごい。しいたけ、レンコン、里芋、油揚げの入った炊き込みご飯。ストウブの蓋を開けた時のみんなの歓声は、韓国でも日本と同じ。「わぁ〜!」と手を叩いて、鍋から立ち上がるのさんま節と野菜の香りをみんなで吸い込んでいました。
韓国の鱈と日本のさんま。どちらも他の食材ひとつひとつをつないでくれる、円陣を組んだ時の両手のような優しい存在。似ていないようで似ている、似ているようでやっぱり違う二つの国のごはん。心のこもった、子どものほっぺたを温めるお母さんの手のひらのようなやわらかい味のお料理は、お腹も心もあたためて、食卓の会話の花も咲かせてくれました。
その日の朝まで知らない人同士だったお母さんと紀子さんが、お別れの時にはハグ。台所で並んで料理をする和枝さんとダソムのお母さんは通訳をしてもしなくても十分に通じ合っているように見えました。気仙沼とソウルの心と胃袋がつながった日。この先も、このご縁が永く続いていきますように。
今週も1週間おつかれさまでした。はっきりしない天気が続いておりますが、みなさま良い週末をお過ごしくださいませ。