雑談という名の会議。

お二人に最初にお会いしたのが2011年。
それから、もう13年の月日が流れているだなんて。あの時保育園に通っていた息子が高校生で、和枝さんにはお孫さんができて。「13年は長いような短いような、どちらとも言えますね。」そんな話をソウルに来る前にオンラインミーティングで話していました。

気仙沼斉吉商店の和枝さんと、オノデラコーポレーションの紀子さんとソウルに来ています。

和枝さんと紀子さんは仙台の空港から、私は成田から。ぴったり同じ時間に仁川空港に到着する飛行機で移動。ソウルに到着後、メッセンジャーで「到着しました!」「じゃぁ、荷物のピックアップのところで待ち合わせね」とやりとり。スーツケースを手にとって、お二人を探す。和枝さんには東京でお会いしたり、オンラインのミーティングでもPCの画面を通してお顔を拝見していたのだけれど、紀子さんにお会いするのはたぶん3年ぶり。キョロキョロとお二人を探していると、見たことのあるシルエットが。少し距離があるけれど、あちらもこちらに気づいてくれた。お互いブンブンと手をふる。

「こいけさーん!」

スーツケースをガラガラ引っ張って走る。ハグ。
長くお会いしていなかった紀子さんとの時間が一気に戻ってくる。「元気だった〜?」「紀子さんは?」言葉が一気に溢れてくる横のベンチで、和枝さんはお仕事の電話中。この感じ。気仙沼にいるみたいです。

以前SAKRAJPにも書いた、和枝さんと友人ダソムとの釜山・統営への旅のあと。ダソムがソウルに開いたアトリエに、和枝さんをお連れしたいと話していました。みんなのタイミングがあったこの日曜日に、斉吉さんのさんま節を使ったお食事を韓国の方々に紹介するイベントを行うことになりました。

ソウル到着のあと、当初はみんなで京東市場に行って、イベント用の食材を買いつつ市場で晩ごはんの予定でしたが、入国審査に思ったよりも時間がかかってしまい、市場は店じまいの時間に。わたしが簡単なものを作るから、夕食はアトリエで食べましょうかとダソムが連絡をくれました。

地下鉄2号線の梨大駅を降りてすぐ。ギャラリーやドラマの脚本家の事務所などが集まるビルの3階。テラスがあって気持ちのいいダソムのアトリエに到着。荷物は私が上にあげるので、先にアトリエをご覧になっていてくださいと和枝さんと紀子さんに告げて、1階からスーツケースを運んでいると、上の方から「わ〜〜!」という感嘆の声が降ってきました。その幸せな声の大きさに、階段の途中でこちらまで笑ってしまう。

ロメインレタスとかぼちゃとセロリに豆腐で作ったキッシュを合わせたサラダ。豚肉のスユク。トマトとモッツァレラチーズの乗った炊き込みご飯は、最後にふりかけてくれたバルサミコのおかげで「ハチミツの香りがするね」とご飯をのせたスプーンを鼻に近づけた和枝さんが研究者モードに変身。スユクを茹でたあとの豚肉のスープにはネギと胡椒をふって、シンプルにいただく。

「なんでこのスープ、こんなに澄んでいるの?」

「豚肉を取り出したあとのスープを一回冷蔵庫に入れます。しばらくすると、脂だけが固まるので、上積みをきれいに取り除いて、食べる前に温めるとこのような透明なスープができるんです。お味は大丈夫ですか?」

「おいしい〜〜〜!」

和枝さんと紀子さんの大合唱が続く。

何よりもお二人が感激していた1品はヨルムキムチ。韓国で夏によく食べられている水キムチで、若大根を漬けたもの。冷たくひやして、漬け汁も一緒に楽しむ食べ物。

「通常は唐辛子の粉の入った、赤いヨルムキムチを食べることが多いのですが。私が光州にいた時に、唐辛子粉の入っていないヨルムキムチに出会ったんです。それがあまりにおいしくて、その食堂のお母さんにどうやって作るんですかと聞いてみたら、食堂のお母さんだけじゃなくて、そこにお客さんできていた別のお母さんたちまで一緒になって、光州ではヨルムキムチはこうやって作るのよと作り方を教えてくれたんです」

ヨルムキムチと気仙沼のあざら(冬に塩漬けにした白菜を、春になって魚のあらや酒粕と合わせて煮込む気仙沼の郷土料理)の作り方をミックスしたら、新しいあざらができそうだよね。おいしいおいしいとヨルムキムチの漬け汁を飲み干しながら、和枝さんと紀子さんは休むことなく雑談という名の会議を続けている。

この感じ、なんだかとても懐かしい。震災の後、気仙沼にお邪魔している時に、この「雑談という名の会議」が繰り広げられる瞬間に立ち会うことが何度もありました。

おいしいもの、面白い人やものに出会ったら、それをすぐ気仙沼の何かに置き換えて考えてみたり、気仙沼の何かや誰かとミックスさせて、新しい面白いものやおいしいものができていく過程が、久しぶりに今まさに目の前で行われている。

今日インスピレーションを受けた新しいあざらが、来年の春には食べられるのかもしれない。
気仙沼のおかみさんたちのスピードの速さは、韓国の人たちと似ている。

「ダソムさんに気仙沼に来ていただいて、ヨルムキムチのワークショップやってもらうのもいいね!」

ヨルムキムチの入っていたグラスを眺めながら、最後まで雑談という名の会議が続く。

一気にギアの入るこの感じ、最高だ。日曜日のイベントもパワフルでおいしい時間になりそうです。

到着した瞬間のソウルは少し汗ばむ気温でしたが、土曜日の朝は秋の風が吹いて、朝焼けがきれいです。今週も一週間おつかれさまでした。たのしい週末をお過ごしくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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