お隣り(の国)まで、ちょっと配達に行く。

半年があっという間に過ぎたなと思っていた2024年ですが、もう8月も終わり。
暑い日もまだ続いておりますが、早朝に散歩をしていると蝉の声はすっかり消えて、秋の虫の声が聞こえるようになりました。

7月の初め、夏の日常食を訪ねる取材で訪れた釜山。取材に協力をしてくださったお店に、8月6日に発売となったdancyu9月号『 もっと!韓国日常料理』をお届けをすべく、短い旅に出てきました。

釜山ももう秋の匂いがするかなと街を歩いていると、台風の影響もあってか日本のような湿度の高さ。日差しはまだ夏の強さも含みつつ、夕暮れ時に吹いてくる風はちょうど夏と秋の交差する温度。

釜山に行くと必ず訪れるチャガルチ市場のタミャン食堂。第二、第四火曜日が定休日で、ちょうと旅の日程がそこにあたってしまった。雑誌を渡しに行くことも大事な目的だったけれど、何よりここで朝ごはんを食べることが釜山の旅の大きなおたのしみ。共に旅をしているおかっぱ衛藤キヨコもがっくり肩を落とす。

気を取り直して、凡一にある「60年伝統ハルメクッパ」まで。お昼時は順番を待つ人が店の外に列をなすお店がどうにも静かに見える。定休日は日曜のはず。まさかの2連敗かとドキドキ店に近づくと、店内は朝ごはんにデジクッパをすする人たちでいっぱいだった。取材時はどうにも気が急いて、ゆっくり味わうことのできなかったスープをゆっくり体に流し込む。ぐらぐらと煮立て続けると白濁した豚特有の臭みのあるスープになってしまうところ。この店のスープは澄んでいる。やわらかく煮えた豚肉ももちろん主役なのだけれど、旨味の染み出したスープを味わうためにこの店に来たくなる。まずは調味するものを何も入れずに、そのままのスープの味を堪能する。豚肉のほのかな甘味が口の中を潤す。次にセウジョ(エビの塩辛)を入れてまた一口。塩気が入るとまた味がぐっと引き締まる。スープに浮かぶよく煮えた豚肉の上にタテギをのせ、辛みと甘みを足しながらまたスープの味を変えて楽しむ。最後は釜山のデジクッパに欠かせないジョングジと呼ばれるニラをたっぷりスープに投入して、スッカラに全部乗せ。豚肉、スープ、ニラを大きな口を開けてスッカラで運ぶ。ニラのピリッとした辛味とパワーの溢れてくる香りがスープと相まって、体が一気に目覚める。

デジクッパのデジは豚、クッはスープ、パはごはんなのだけれど、韓国ではスープにご飯が投入されて運ばれてくるものと、スープとご飯が別々に運ばれてくる「タロタロ」というメニューを選ぶことができる。いろんな食べ方でひとつひとつの素材を楽しんだり、味変をたのしみたい場合はぜひ「タロタロ」別々を注文することをオススメする。

あたたかいスープでお腹を満たして、7月頭の取材では大変お世話になりましたと雑誌を渡すと「うちにこの雑誌もうあるわよ」と以前渡した前の号のdancyuを出してきてくださった。「あぁ、これは違う特集なのね。あ、思い出した!あの席に座っていたでしょう。あの時は3人だったよね。もう一人男の人がいて。」と糸をたぐり寄せるように取材時のことを思い出してくださるお母さん。dancyuを見て来ましたと、店に食べに来てくださった日本人のお客さんが〇〇人いたんですとニコニコ話してくださる様子を見ると、直接出来上がった雑誌を届けに来てよかったなと思う。

以前、SAKRAJPにも書いたことのある「因縁」。韓国語でイニョンと読む。この漢字を見ると日本人はインネンとネガティブな方の意味に捉えてしまうけれど、韓国では「ご縁」を意味する言葉になる。ソウルももちろん大切な大好きな場所ではあるのだけれど、釜山に来ると毎回やっぱりほっとするねと、おかっぱキヨコと話す。因縁(イニョン)を感じる場所なのです。ぱっと心を開いてくれる明るい人たちがそう思わせるのか、抑揚のある慶尚道の方言が安心をさせてくれるのか。その理由はまだわからないけれど、釜山の金海空港に到着するといつも「ただいま」と心の中でつぶやく。

あたたかくておいしい釜山。SAKRAJPでもまだまだ紹介したいお店がたくさんあります。じっくりゆっくり紹介をしていきたいと思います。

8月24日分の更新が、すっかり、たいへん遅くなってしまい申し訳ありませんでした。もうただただ、申し訳ないの一言でございます。

釜山のおいしい話。8月31日の更新分で、もう少しつづけさせてください。すぐお目にかかります。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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