夏の小さなイベント。

今週は撮影や原稿の入稿があり、海外から遊びに来て連絡をくれたどうしても会いたい友人がいたり、語学学校の授業があったり。時間的につなわたりな1週間でした。

月・水・木は子どもの部活があって、お弁当を作らねばならない。納めなければならない原稿の調べ物やファクトチェックをしていたら、想定よりもだいぶ時間がかかってしまって、子どもが学校に出発する時間なのにお弁当はまだ冷めていない。保冷剤をいれるにしても、外はかなり暑いので、熱々のままの牛丼を持たせるのはよろしくない。もう少し冷めてから、お弁当袋に入れたい。夏休み期間中でもあるし、あとで学校に持っていけばいいか、と判断。

「お昼までに学校に持っていくわ」と子どもを送り出し、またパソコンに向かう。プリントした紙に書き込んだメモをもう一度見直して、細かな部分を書き直す。編集の方に送信をして、洗濯機をまわし、シャワーを浴びると時間は11時すぎ。出発しないとランチタイムに間に合わない。どうせ汗で流れてしまうからと、眉毛、マスカラ、チークと最小限のメークをして髪をむすび、お弁当箱を手に家を出る。外は灼熱。帽子をかぶってくればよかったと後悔してももう遅い。サンダルでペタペタと駅に向かって走っていると、2分後には汗がだらだらと落ちる。電車のクーラーになんとか生かされて、駅を降り、子どもの学校まで7分ほどまたペタペタと走る。コンビニに寄っていたら12時を回ってしまいそうだけれど、ペットボトルを凍らせた飲み物も買って入れておいてあげよう。午後の練習の合間の休憩時間にちょうど半分くらい溶けて、いい飲み頃になるだろう。「もうすぐ着くよー。」とLINEを入れると下駄箱のところで子どもが待っていて、じゃと手を降ってすぐに校舎に戻っていく。

ミッション終了。ほっとして汗をぬぐい、校庭を歩いていると野球部が練習しているグラウンドでは自動で水が散布されていた。サッカー部の部活は終わったようで、ゴールが寝かされていて、白いグラウンドに落ちる木陰がとても静かだった。

浜田山の駅に向かう途中のファミリーレストランで、続きの原稿に取り掛かる。さっきまであんなに太陽がぎらぎらしていたのに、右半分の空がみるみる暗くなっていく。ピカッと雷が光って、どしゃぶりの雨になった。もう少しでびしょ濡れになるところだった。窓の外で激しく降る雨の音を聞きながら、またパソコンに向かう。

ちょっと休憩とスマホを手に取ってXのアプリをタッチすると、その日は「土用の丑の日」でうなぎについて書かれた投稿がじゃんじゃん流れてくる。そうか、今日はうなぎのお弁当にすればよかった。

子どもが帰ってきて、次の部活の予定を確認している時にふと思いつく。金曜日になれば原稿も終わっているし、その日の撮影は遅くまでかからない。子どもが部活から帰ってくる時間に合わせて、うなぎを食べに行こう。子どもが大きくなってしまってからは「〇〇食べにいこっか」と誘うと、家で食べる方がいいなと外食を断られることの多いのだけれど、うなぎは2つ返事でOKになった。

お弁当で買って帰ったり、家であたためて食べることはあっても、子どもと一緒に鰻屋さんに鰻を食べに行くということはほとんどなかった。近所においしい鰻屋さんはあるかなぁとぽちぽち検索していると、灯台下暗し。代々木上原駅のすぐ裏手に「鮒與(ふなよ)」という鰻屋さんがあって、とても評判がいい。2016年にはミシュランにも選ばれているそうだ。近くを通っていて、うなぎのいい匂いが時折していた認識はあったけれど、店にお邪魔したことはなかった。

夜の営業は17時〜19時。鰻が売り切れると早く閉まる日もあるようだ。17時30分に駅で待ち合わせをして、お店に向かう。心なしか子どももやる気。ガラガラっと引き戸を開けて先に店の中に入っていく。ぷ〜んと甘辛いタレの焦げた匂いが漂ってくる。私は直前まで行っていた撮影で、少々お腹がいっぱいの状態。せっかく楽しみにしていた鰻がおいしく食べられなかったら悲しいと思っていたけれど、タレの香りをかいだら全てが取り越し苦労だったことがわかる。

メニューは、鰻のサイズが1/2の並、2/3の中、1尾の上、1尾と1/2の特上。白焼きの御重もある。骨の唐揚げも食べてみたいということで、注文。「肝吸いも飲んでみる?」と子どもに訊くと即答でうんという返事。やはり、うなぎパワーは人を前のめりにさせるようだ。好きなサイズを注文していいうよと伝えてぎりぎりまで悩んでいたのだけれど、最終的には中をチョイス。まずは骨の唐揚げがやってきた。見た目は完全に酒飲みのあて。母はビールを頼んでしまったので、ばっちりのつまみに嬉しい状況だったのだけれど、果たして高校生の口にはどうだろう。しばらく様子を見ていると、お店にあった「美味しんぼ」を読みながら、ひとつ、またひとつとポリポリ骨を口の中に運んでいく。塩気のちょうどいい骨の唐揚げは、丸い小皿からあっという間になくなっていった。

うなぎを待っている間、何度もお店の電話が鳴る。「はい。中ひとつ、上ひとつですね。ご住所は」出前もやっているんだ。その昔、築地の市場で売っていた竹の籠に出来上がったうな重を入れて出前にでる光景が何度も続いた。

「お待たせしました!」焦げ目の美しい照り照りの鰻がやってきた。「いただきます」きれいに両手を合わせて、御重の蓋を開ける息子。この香ばしいかおりには自然と手を合わせたくなるよね。ふっくら、ほくっと焼けた鰻を一口。顔がほころぶ。合間で肝吸いをすする。「どう?」と訊くと「うん」と深くうなづいた。いいお出汁、気に入ったようです。「来てよかったね」半分鰻を食べたことろで、残りの鰻に山椒をふり、掻き込む。お腹がいっぱいに満たされて、ふくらはぎのあたりから上半身にむかってぐぐぐと力が湧いてきた。

今年は8月5日にも土用の丑の日がある。「夏の間にもう一回食べに来よっか」どんぴしゃりの日にはならなそうだけれど、部活をがんばる子どもに鰻パワーを注入する日を作ろう。

小さなイベントだけれど、夏の楽しみがまたひとつ増えました。肝心の鰻のお味は、もちろん抜群でした。

水分が一瞬で蒸発してしまうような暑さが続いておりますが、みなさま体調を崩さぬようお気をつけください。今週も1週間、おつかれさまでした。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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