起こらなかった奇跡。
おはこんばんちは。飯塚です。
アイルランドにやっと夏が来ました。
晴れて気温も上がった週末。
友人家族と今シーズン初の夏の遊びに興じた私達。
水温はまだまだ低いけれど子供達は気にせず水遊びをしたり。
夏の陽気がいつまで続いてくれるかわからない。とにかく晴れてるうちに生き急ぐように海遊びをする。
だからやめとけ、って言ったのに。
一般的に誰もがダメだと言う通説、ありますね。
例えば、キャバ嬢やホストに入れ込み一見恋愛関係っぽくなったところで実は金を毟り取られるだけ、や
他人が持ってきた儲け話や投資は怪しい、とか。
また、周りが言う「あの男はやめておけ」というのはほぼ当たっている。とか。
けれども、周りがいくら「やめておけ」と言おうと、若者は自分だけは大丈夫、なんて思うんだな。
私は特別なんだ。
とか。
みんなはそんな事言うけど私だけはわかってる。
はたまた、「でもそれって100%じゃないじゃない」なんてね。
藁をもすがる思いで「やめておけ」という忠告に耳を傾けず、数%の奇跡を信じる。
実際には「私だけはわかってる」どころか「私だけが現実を見てない」のだけど。
その代償は意外にも大きかったり。
今日はそんな経験を家族全員でしてしまった話です。
スズメもツバメも住み着く我が家。
以前、我が家の雨樋に巣を作り続ける愚かなスズメの話をしました。
我が家の庭にもスズメの餌台があり、だいたい毎日午前中に餌をおくようにしています。
スズメだけでなくいろんな野鳥が餌をついばむ様子を見るだけで心が和む。
ペットがいない我が家、窓から見る野鳥が癒しみたいなもので。
ツバメもアフリカから戻ってきて、忙しなく飛び回る。屋根には必ずスズメがいる。
よく晴れた土曜日、夫は自分の仕事場に息子達を連れて行き「ボート作り」に出かけた。
その数十分後、私は娘を連れて公園に行く事に。
家を出て車に乗る直前、思わず足を止めた。
地面に小さなスズメがいるではないか。
「うわー。可愛い」
どう見ても赤ちゃんスズメ。顔も身体も見慣れたスズメとは違いまだ小さい。
困った。こういう時はどうしたらいいのか。
夫に電話をする。
「スズメの赤ちゃんが車の前の地面にいるの。どうしたらいいの?触ると人間の匂いがつくから触れちゃいけないんだっけ?」
「えー。触っちゃいけない、みたいのは信憑性ないと思ってるんだけど。どこの巣から落ちたんだろうな。巣はそこら中にあるよね。置きっぱなしにしたらカラスに食われるよな」
「だよね。カラスに食べられる。どっか置いておこうか」
これで電話はきり、お腹すいてるかな、などと思いながら鳥の餌場用の餌を置いてみる。
しかし数分で動きだし茂みの中に隠れ見えなくなってしまった。
まだ羽は飛べるほどは成長してないようだった。
とりあえず公園行こう。車をだし公園でほんの数分だけ遊ぶも娘は「みんなのところに行きたい」などと言い出す。
夫の仕事場に向かう。
到着すると息子1号が駆け寄る。
「スズメの赤ちゃんは?」
「え?持ってきてないよ。垣根の下に逃げちゃって見失った。」
「え〜、連れてきたかと思ってたのに」
「そんな事しないよ」
「まだいるかなぁ」
「たぶんいるんじゃない。あの状況だと飛べないと思う。」
「え〜、じゃ僕帰りたい!」
「お父さん!ぼくもう帰りたい!」
子供達、もうすっかり頭の中はスズメの事でいっぱいなのだ。
というわけで車で五分の我が家にまたすぐ戻り垣根の下を捜査。
まだまだ小さく壊れそうな生き物だから細い棒を優しく振り、スズメが出てこないか目を凝らす。
「出てこないね。どっか行っちゃったかな。また後から出てくるかな」
一旦家に入り、私は私で家の事をし、子供達は思い思いに遊ぶ。
たまに庭に出て「いるかな?」などと探してみる。
子供達もそわそわしながら外と中を行ったり来たり。
野生動物を保護するな、というのは承知してますが。
そんな中、ついに
「見つけたよー!」
息子1号が嬉々としてスズメを手のひらに載せてきた。
ああ。やっぱりさっきの子だ。
うわー。やっぱり小さくて可愛い。
え〜っと。連れてきたとはいえ、どうしようか。
夫は早速ググる。
買い物の時に使うプラスチックのバスケットに新聞紙を裂いて敷き詰める。
スマホを読みながら夫の第一声
「まず、生き延びる可能性はほぼないって。」
えー、でも元気そうだよ。
指を近づけると大きな口をぐわっと開けるスズメちゃん。
お腹すいてるかな。
餌はどうすればいいかな。
「捕まえた虫だってさ。ドッグフードもいいらしい。パンはあげちゃダメだよ。ミミズもあんまりよくないみたい。」
「よし!捕まえてこよう」
小さなタッパーを片手に庭に飛び出す男児達。
コンポストの中にうじゃうじゃいるわらじ虫を早速捕まえてきた。
すぐに生きたままの虫を与える。大きな口を開けるスズメちゃん。
とはいえ、タイミングが合わなくて落としてしまう。
やっと口の開きがあった。
虫をそのまま飲み込んだ。
「わー。食べた、食べた。」
「かわいい」
夫、スマホを読みながら
「餌は20分おきにやらないといけないって」
男児達はまた虫を取りに外にかけだす。
私はスズメを眺めながら一人で考える。
土日はいいけど平日は私が餌やらないといけないのか。虫捕まえて20分おきは厳しいなぁ。ドッグフード、お隣さんからもらってこようかな。
男児達は甲斐甲斐しく餌を探し、くちばしに運ぶ。
「名前は何にしよう」
「スズメだからスズちゃんは?」
「スズちゃん!いいね」
「スズちゃん。ご飯だよ」
スズちゃんに触れたら必ずハンドソープで手洗いも欠かさない。
夜になると男児達は
「スズちゃんのバスケットを子供部屋におきたい」
などと主張したけれどあえなく却下。
名残惜しく「おやすみなさい」をした。
張り切って5時半起きで虫探し。
朝、まだ6時にもならないのに、ゴソゴソと物音がする。
息子はすでに起き出しどうやら外を行ったり来たりしているようだ。
ぼんやりとベッドで起きているとニット帽を被り温かいフリースを着た息子1号がドアを開けて覗き込む。
私の顔をみて
「5時半に起きて虫とってきて食べさせたの。もう三匹も食べたよ。凄く元気で可愛いよ。ウンチは3つあるよ」
と報告する。張り切っていて喜びが隠せない。
日曜日の朝といえばいつもソーセージやベーコンをグリルで焼くアイリッシュブレックファーストだ。
夫、朝ごはんを用意しながらちょくちょくスズちゃんを覗き込む。
息子2号は嬉しそうに
「スズちゃん、バスケットの中をジャンプして飛び回ってる」
と言う。
「そうだ。今日は夫の両親宅でお昼ご飯を食べるんだよね。スズちゃん、連れて行かないとだめなのかな。」
「あー、そうだな。餌やらないといけないから車に積まないとなぁ」
うちの子達と年の近い甥っ子くん達、騒ぐだろうなぁ。
息子1号は
「餌やりちょっとだけやらせてあげよう」
なんて偉そう。
ほんの数十分で。
朝10時、日本にいる私の両親とSkypeをする時間。
回線が繋がる。前日にスズちゃんの写真を送っていた。
「スズメの赤ちゃん、まだいるの?元気?」
「いるよ。元気だよ」
と言いながらバスケットを見たら、ほんの30分前と全然様子が変わっていた。
あれ?元気じゃないよね、どうしたんだろ。
さっきはバスケットの中をジャンプしていたはずなのに、今は脚が弱っているのか立てないらしい。
異変に気づき男児達は泣きそうになる。
「ねぇ。お父さんに見せようよ」
日曜日の朝食後はいつも昼寝をする夫を起こそうとする。
「いや、別に動物の医者じゃないんだから何も出来ないよ」
息子を制する。
「じゃあ、動物病院連れて行ってよ」
「日曜日閉まってるしスズメの赤ちゃんなんて診てくれるかな」
Skypeの向こうの母も
「動物病院連れて行ってあげなさいよ」
こういう時、どうすればいいのだろう。
スズちゃんは明らかに「容態が急変」していた。
私がSkypeで母と話している間に男児達はなんとかしようとしていたけれど、なす術などない。
息子2号は半泣きになりながら、スズちゃんを手のひらに載せてリビングにくる。
顔にスプーンで水をかけてみたけれど。
ぐったりとうな垂れたスズちゃんのつぶらな瞳はもう開かない。
息子2号は肩を震わせながら自分の部屋に駆け込んでしまった。
テーブルの上に横たわるスズちゃんをそっと持ち上げてみる。
もう心臓の鼓動はなかった。身体の温かみもなくなりつつあった。
「死んじゃったんだ。かわいそうに」
脚の色も変わり硬直していた。
まだSkypeで繋がる母も驚きを隠せない。
子供達の部屋に行くと2号は部屋の隅でうずくまりながら、1号は布団にくるまり二人揃って声を殺して泣いていた。
「かわいそうだね。悲しいね。あんなに元気だったけど死んじゃったんだ。やっぱりスズちゃんにはお父さんとお母さんがいなきゃダメなんだね。あなた達は頑張ってお世話したけど仕方ないよ。昨日ダディが最初に言った「生き延びる可能性はほぼない」ってことなんだよ。」
今まで見たことがないほど男児達が悲しそうに泣く。二人を見ていたら私までもらい泣きしてしまう。
私達は悲しみの涙を殆ど流すことない生活をしているのだ、などと改めて思い知る。
Skypeは泣きながら回線をオフにした。
「お墓を作ってあげようね」
と言うと、男児達は涙を拭い肩を震わせながら部屋から出てきた。
黙々とするべきことをする男児たち。
家庭菜園用のスコップをビニールハウスからとってきて土を掘り、スズちゃんを埋め、土をかける。
2号が庭の隅からレンガを一つ運んできた。それを見た1号はそれを取り上げて家の中に入って行った。
油性マジックを探してレンガに石碑を書いていたのだった。
2号は花を探し始め、二人揃って庭の中から色とりどりの花を摘み、お墓の前にたむけた。
悲しみに明け暮れ始終ずっと肩を震わせ涙を流しながらも、自分達で全部考えてきれいなお墓を作れるのだ、この子達成長したなぁ、と一人でしみじみとお墓の前に立ち尽くす。
お墓を作り終えた男児達はリビングでまだ嗚咽が止まらない。
「かわいそうだね。悲しいね。」
とだけ言いながら背中をさするしか私にはする事がない。赤ちゃんスズメ、虫の餌は親鳥から与える時は吐き出して柔らかいのをあげるのかなぁ、なんて今更考える。
実は以前鶏を飼っていた我が家。
2年飼った6羽の鶏がある日突然キツネに食べられて死んだのだけれどあの時は男児達は涙がなかった。3歳だった息子2号、当時はまだ理解できていなかったのだ。鶏は全てキツネに持っていかれてお墓は作っていない。
「たった半日しかお世話してないけれど、それでもこんなに悲しいなんて、ペットを失うなんて耐えきれないほどに悲劇だよね」
「もうさ、スズメや鳥は拾ってこないようにしようね。こんな悲しい思いするのもいやだし、もしかしたら外にそのままいた方が生き延びたかもしれないし。」
男児達も頷く。
やっと落ち着いた6歳の男児が口を開く。
「来年、同じ日にお墓を掘って骨を取り出して部屋に飾る」
おお、そうか。
予想外すぎる発言に驚く。
子供の無邪気な発想を否定してはいけない気がしながらも「来年までに気が変わりますように」と内心そっと祈る。
やっぱり、奇跡は起きない。
調べてまず最初に書いてある「拾ったスズメが生き延びる可能性は低い」を信じて世話などはしてはいけないんだ。
男児達は今もたまにスズちゃんの話をする。
今はお墓の前にも鳥の餌を置いている。