アイスクリームと記念日。
「8日、ちらっと会える?」
旅の相棒衛藤キヨコから連絡がきて、夕方からは大丈夫だよと返事をしました。
「かあちゃん、ミニお疲れ様会。」
なんと。子供の高校受験が終わったかあちゃんのお疲れ様会を開いてくれるという嬉しいメッセージ。がんばったのは子供本人でございまして、かあちゃんは何もしていないのですが。でも、そんな心意気が嬉しくて、たのしみにしてるねとメッセージを送る。
約束の日。目黒で取材の立ち合いを終えて、山手線沿いの坂をゆっくり登る。雪が降ったり、午後は晴れたり、三寒四温。春に向かう2024年は、どちらかというと五寒二温くらいの割合だと思うのは、わたくしだけでしょうか。
ひやりとする風が吹いていても、やっぱりお日様が出ている日は気持ちがいい。坂を登り切った目黒駅前の空には、ひとつだけぽっかりと白い雲が浮かんでいました。
家と事務所のちょうど間くらいに、2022年の10月にできたkasikiというお店で待ち合わせ。なんだか素敵なお店ができたなぁと、ガラス窓をちらりと覗くのみ。若い人でいつも賑わっているお店に、入るのは今回が初めてでした。
「先にやってるよ。」
「おー、もうすぐ行きます。」
先にお店に着いたキヨコは、もう飲んでいる様子。「はなえの好きなものしかないお店だったから」そう言って、撮影でお店に訪れたの日に予約をしてくれたようです。kasikiさんは、ワインとアイスクリームのお店なのです。なんて夢のような組み合わせなんだ!
事務所に一旦荷物を置いて、代々木上原から幡ヶ谷の駅に向かう坂をさっきよりも早足で登る。少し息の切れてきた辺りで、お店に到着しました。
店内にはキヨコの他にも二組のお客様。思い思いにアイスクリームを楽しんでいらっしゃる。
「このワイン、おいしかったよ。」
ドイツやフランス、日本のナチュラルワインも並んでいる。どれもパッケージのお顔が魅力的。一杯目は、キヨコが飲んでいた白ワインをいただく。
「アイスクリームは、3個入りをもう注文しちゃった」
ひとつからセレクトできるアイスクリーム。メニューにはなんとも魅力的なラインナップが並んでいます。いちごとローズマリー。オレンジとクローブ。黒ごま塩メープルなどなど。季節の果物とハーブを使ったアイスクリームは、他では出会うことのできない味。キヨコとかぶらない3つの味をチョイスしてアイスクリームが届くのを待つ。
アイスの中に見え隠れするハーブが、ワインを口に運ぶ速度を上げる。アイスクリームとワイン。時間差で食することはあっても、同時に楽しむ体験ははじめてかもしれない。
店主の藤田さんは黒髪のボブがとても似合う、凛としたあたたかみのある方。ナチュラルワインの説明をしてくださるときのお話の速度が心地良い。「あ、ではそれをいただきます」と、二杯目はドイツのリースリングのワイン。相方、最後は赤ワイン。三杯目のグラスを注文。
「赤もおいしいよ。これ、はなえも好きな味じゃない?」
うんうん。ほんのりの渋みと出汁のような旨味。甘いものを合わせるのもグーだけど、赤かぶのお漬物食べたくなっちゃうね。
アイスクリームを3個とワインを3杯平らげると、すすっとレジに向かうキヨコさん。
「ごちそうさまでした」ペコリと頭を下げると、オーナーの藤田さんとキヨコが目配せをして、がさごそと紙袋に白いボックスを詰めている。
月末に予定している取材の打ち合わせのため、二人で事務所に戻ろうと荷物を手に取ると。
「はい!がくに合格おめでとうのお祝い。」
かあちゃんおつかれさまの会だけではなく。息子の高校合格祝いにアイスクリームのケーキを注文してくれていたのでした。
予想外の予想外に、なんだかほろりと来てしまう。丁寧に書かれたケーキの説明書。上から、煎茶とレモングラスのアイスクリーム、カカオクランブル、ラム漬けのレーズン。ヴァローナチョコレート、苺と杏仁のアイスクリーム、苺のソース、アールグレイのスポンジ。文字を追っていくだけで、幸せな気持ちになる。
8〜10日ほど前に予約をしていただくとケーキがご用意できますと、レジの横にお知らせがある。3月8日スケジュール空いてる?とキヨコが連絡をくれた時、このケーキも注文をしてくれていた。子どもが小さな時から、一緒にごはんを食べたり、お笑いのネタを見てくれたり。年末にはピザを頼んで、一緒にM-1を見たり。第二の母のようにいつも気にかけてくれていた子どもの喜ぶ顔を考えて注文してくれていたこと。合格したー!とキヨコに報告をしてから、何か贈り物をと考えてくれていた時間の全部まるごとありがたくて、2024年の3月8日はキヨコと息子のサラダ記念日ならぬ、アイスクリームケーキ記念日と手帳に書き込みました。
夕食が終わった後、デザートがあるからねと話をして、蝋燭に火を灯したアイスクリームのケーキと共に、改めて合格おめでとうの会。キヨコに動画のメッセージを送り、こどもの様子を実況中継。
「苺の部分がおいしい。甘すぎない上の部分も。」
ちょっと照れながら、真ん中に挟まっていたホワイトチョコレートをカンカンと叩く。
みんなにお祝いしてもらって嬉しいね。
来年の3月8日、みんなのスケジュールが空いていたら、一緒にアイスクリームを食べに行こう。その時はわたしがごちそうしようと心にきめて、残りのケーキを大事に冷凍庫にしまう。
代々木上原の街では、早咲きの寒緋桜の蜜を吸いに来ためじろに2回ほど出会いました。まだまだ寒い日が続いておりますが、春がそこまでやってきますね。