沈黙する被害者たち。

あけましておめでとうございます。飯塚です。

新年早々、祝賀ムードではないですね。

2024年、元旦早々の能登地震、アイルランドの国営放送のニュース番組でもトップ扱いに。(ちなみに翌日は羽田空港のニュースがトップでした))

改めて自然災害が多い日本、と思い知る。

日本にずっといる人は気づかないかもしれないけれど、地震、津波、火山の噴火、大雨洪水、台風、大雪、と自然災害のデパートみたいな国、世界でもそんなにない。

地震が多い我が地元仙台。震度3くらいのは頻繁に起こるので息子も11月に初めて「揺れ」を体験して怖かったよう。

東日本大震災の津波跡地。津波の10ヶ月後の状態。

震災時は本当に美談だけなのか。

最近、ニュースはいつもTwitterが一番早い。

瞬く間に拡散される現場の人達が発信する緊迫感に満ちた生の声をリアルタイムで見られるのだから。

今回の地震も倒壊した建物の下敷きになった方々やその家族が住所と救助要請のツイートを一斉にしていました。

そのツイートが収まり二日目は

「避難所のレイプや性被害に気をつけて」という注意喚起が激増。

その殆どが、阪神大震災や東日本大地震の時にレイプを見かけた、被害にあいかけた、という具体的な話。

震災の後によく

「日本人は災害の大混乱の中でも秩序を守り思いやりを忘れない」

的な報道が目立ち、私自身もそれを信じたいとは思っていた。

ところが現場の方からは美談はあまり出てこないどころか耳を疑う惨状が。

東日本大震災の時は東京に住んでいたけれど、実家の仙台で出回る噂、真偽が不明ではあったけれども暗澹たる気分になる話も多かった。(ちなみに私の家は津波の地区からはかなり離れています)

被災地は実家からは遠い。2012年はフルマラソンの練習中だったのでここまで往復した。(片道約15km)

それらは報道はされた記憶がない。

阪神大震災の数年後、神戸で家が全壊した方とご一緒したことがある。

震災の話になると彼は表情が一変し、

「あんなTVの美談なんか嘘やで。うちは奥さんレイプされかけて女は絶対に一人にしたらあかんと思った。近所もそんなんばっかりやったけどな、そんな生々しい話は他人には話せへん。人間なんかいざとなったら汚い生き物なんや、というのを震災で嫌と言うほど思い知ったわ」

と吐き捨てるように呟いた。

世間で絶賛されている「震災で日本人は助け合った」という美談とかけ離れた現実に、彼は辟易していた。

そんな事を露ほども知らない若かった私はただただ言葉を失い、彼の暗い眼差しとその言葉だけがざっくりと記憶に刻まれたのだ。

実際、助け合い、励まし合い、譲りあった人達もいた一方で、掠奪や暴行、性被害に遭われた方は確実にいた。

石巻の高台から。

火事場泥棒。

被災地の性被害。

警察が殆ど機能しない地に犯罪を犯しに遠征する、とも言われている。

現地の人は蓋をされた黒い現実を知る必要があるし、それを女性や子供達に伝える義務がある。

性被害の8割は報告されてない。

性被害の話というのはなぜか表に出ない。

Twitterに溢れている過去の震災で起きた性被害の話、ずっと言えなかった話、時が経って言えるようになるくらいにその蓋は重かったのだろう、と胸が締め付けられる思いがする。

私もどうして、言えなかったのだろう。

幸いにしてあれは“未遂“なのだから痛くも痒くもない筈なのに。

中学校一年生の時に車に連れ込まれそうになった体験を、私自身、大人になるまで誰にも話せなかった。

あれは、冬の寒い日曜の午後。

中学校の剣道部の部活動の帰り道だった。

学校が特に遠い訳でもないのに、大学病院の駐車場を近道にしていた。

車も人も多い平日とはうって変わって誰もいない土日の駐車場。

子供の頃から知っている場所、誰も居なくても平気だ、と思っていた。

いつものように一人で歩く私、ふと後方の人の気配がするのに気付き振り返ると男性が立っている。

20代、だろうか。

細身で長身の男は微笑みながら

「道に迷ってて、〇〇はどう行けばいいかわかるかな?」

と近づいてきた。

「この道をまっすぐ行って…。」

説明しようとした私の顔を覗き込む男の顔が不必要なほどに近いのを不審に思っていると、男は

「お姉ちゃん、歳いくつなの?」

と聞く。

「チュウイチ…」

「えー、中学生?大人っぽいから高校生くらいかと思ってたよ。あのさ、ちょっとその説明じゃわかんないからやっぱり車乗ってくんないかな?」

と言いながら、男がスッと手を伸ばして私の腕を捉える寸前、私はバッと振り返って咄嗟に走った。

幸い、病院の門はすぐの場所だった。

後ろで男は何か叫んでいた気がする。

病院の門さえ出れば、大通り。

車や人の往来があるから大丈夫なはずなのにそれでも止まらずに必死で走った。

リレーの選手には一生選ばれないレベルで脚が遅いのを自覚しているからか、振り返らずに一目散で。

走って2分で家に着くほどの距離だ。

腕を掴まれなくて良かった、と、大きく深呼吸をしながらやっと家の前についた。

吐く息は白かった。

心臓がドクドクした。

涙は出なかった。

そのまま、何事もなかったように家のドアを開けた。

「ただいま」

それまで味わった事がない恐怖心は、なぜか親にも友達にも話すことはなく、そっと蓋をしたままにした。

ただそれ以来、もうその駐車場の近道は二度としなくなった。

今思えばちゃんと親や学校の先生に伝えるべきだったのだろう、と思う。

男は誰でもよかったはずだ。誰か車に連れ込める女の子を物色していたのだろう。

私の後に被害者が出なかっただろうか、などと考えたのはそれからずっと後の事。

男の子でも性被害に遭います。

時が経ち子供がいる今、そして、長男が離れて暮らす今、私は子供達の安全を考える。

彼を物理的に助けられない私は自分の話をそのまま伝え、更に付け加える。

「大人が本当に困っていたら、まず子供には助けは求めない。道に迷ってる、とか車が壊れた、のを子供が助けてくれる筈はないから。だから大人が周りにいるのに、わざわざ子供に話しかけて助けを求める人はおかしい人だよ。

そういう人がいたら無視していい。周りの人に助けを求めていい。その人に失礼かな、とかそんな心配はしなくていい。とにかく逃げて。お店に駆け込んでもいい。誰か人がいるところに行くんだよ」

もしも。あの時私が逃げ遅れて車に連れ込まれレイプされていたら、この話を子供に話したり、この場に書けるだろうか。

きっと出来ないだろう、と思う。

性被害の難しさ。

本当に被害に遭った人は蓋を開けられない。声をあげられず泣き寝入りする。

だから実態が不透明。

被災地で実際に性被害に遭った人達は、ニュースで避難所を見ながら癒えない心の傷がまた抉られているのだろう。

無知な男性陣は

「被害の声が上がらないんだから男を加害者扱いするな!」

「そんな何年も前の話をなぜ今更するんだ」

酷いのになると

「男も大変なんだからレイプくらいされても我慢しろ」

などと言う。

彼らは被害者の恐怖心や、「話せない思い」など察しがつかない。

自分達は安全だから「知らない」。

石巻にて。

助かった命、性被害に晒さないで。

今のTwitterの騒ぎ、そして阪神大震災の話をしてくれた人から察するだけでも「被災地で性被害は横行してる」はず。

避難所には「無防備な子供や女性」目当てに不審者が潜り込んでいる可能性も高い。

女性も子供(男の子も)も単独行動は避けてトイレも誰か同伴して弱い者が性被害に遭わないようにして欲しい、と思う。

また、今後被災地はボランティアが必要でしょうが若い女性ボランティアは性被害に遭われる確率が高い、とも聞きます。

インフラが整わない場所、特にトイレがない場所で女性がボランティアするのは危険。女性はボランティアではなくても違う形で被災地を支援した方がいいそうです。

真冬の厳しい寒さの中、救助を待つ人達が一人でも多く救われますように。

また被災者の方々に1日も早く心休まる日が来る事を願っています。新年早々暗い話題でしたが被害者が増えない事、また被害者が救われる世界である事を願っています。

元旦はアイルランド名物のソーダブレッドを初めて焼きました。来週からはそんな呑気な話を書きます。

西果て便り

(毎週木曜日更新)
世界放浪の後にヨーロッパの西端アイルランドに辿り着く。海辺の村アイリッシュの夫、と3人の子供達(息子二人、娘一人)と暮らしています。