感情を思い出す装置。
『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』という本が出ます。来週の水曜日、11月15日に全国の本屋さんに並びます。この本の著者は幡野広志さん。2018年5月から小池がマネージャーとしてお仕事をご一緒させていただいている写真家さんです。幡野さんは文章も書く写真家さんです。
幡野さんとの出会いをプレゼントしてくださったのは、前職ほぼ日の糸井さんと永田さん。「ある人の仕事を、ちょっと手伝ってもらえないか」。そんなご連絡をいただいて、まずは幡野さんのスケジュールの交通整理をすることから、お手伝いが始まりました。そこから、気仙沼、ネパール、熱海など。旅をご一緒する機会がありました。気心の知れたメンバーでの旅。気がつくとみんなカメラを持っている。それぞれのタイミングでカメラを構えて、それぞれに写真を撮っているのですが。写真家である幡野さんが、一番さらりと軽やかに写真を撮っている。日常の身体の動きに、自然に組み込まれているように。さっと構えてさっと撮る。旅のリズムを写真で遮るようなことはない。そんな流れるような動きを、周りにいるメンバーは、それぞれに気にかけていました。さっと構えたレンズの先に、どんなものがどんな風に写っているんだろう。ネパールに行った時も、熱海にご一緒した時も。幡野さんのnoteやSNSを通して、当日幡野さんの見ていたものが写真と文章になってあがってくると、旅を共にしていたメンバーがそろって「わぁ」と感嘆の声を漏らす。「わぁ」までが旅のワンセット。
同じように、とまではいかなくても、そのエッセンスを少しでも知ることができたら。振り返る時間も含めて、旅がもっと楽しくなるんじゃないか。旅とごはんを生業としている我が社and recipe。写真のワークショップをご一緒していただくことはできないか。幡野さんにご相談をしたのが2022年の秋の終わりでした。そこから、ちょうど1年ほど。写真家として歩んでこられた幡野さんの道のりとワークショップを元にした『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』という本が、ポプラ社さんより発売になります。
ワークショップで幡野さんは、技術的なことを教えることはあえて最低限に留め、「いい写真てなんだろう」を考えることにたっぷりと時間を割いていらっしゃいます。いい写真てなんだろうということを考えていくと、自分の好きなものってなんだろうに辿り着きます。好きな時間、好きな場所、好きな動き、好きな手触り、好きな光、好きな温度、好きな匂い、好きな味。自分もカメラを持ち歩き、写真を撮る枚数が増えて、写真を現像している時間に感じる幸せの元はなんだろうと、ワークショップの会場で繰り返し思いを巡らせていました。
好きだから選んでいるはずのものも、自分の好きに目を向けなければ、なんとなく通りすぎてしまう。現像をしている時間は、そんな自分の好きにもう一度気づくことのできる時間でした。写真から匂いはしなくても、写真から音はしなくても。カムジャタンを食べた時に背中越しに聞こえてきた、鍋をカチャカチャ洗う音が心地よかったこと、レジで会計をする時のお母さんのメガネがカッコよかったことを一瞬で思い出すことができる。写真にはカムジャタンしか写っていなくても、直接そこに写っていない部分まで(写っているともいえるのだと思うけれど)何年経っても思い出すことができる。自分の好きを何度も感じ直すことのできる装置なんだ。自分はこういう瞬間が、こういう場面が好きだった。そうだったそうだったと、自分と対話をすることのできる時間。あの時はちょっと疲れていた、あの時友達がこんな話をしてくれたことが今につながっていると、その時にした会話まで耳の奥に聞こえてくる。写真を撮る、現像する、見る、考える、書くことを通して。過ごしてきた時間が愛おしくなる。そんな体験を写真を通して、自分自身もたくさんすることができています。
本にサインを書きながら「あぁ、緊張する」と何度も何度もおっしゃっていた幡野さん。写真家が写真の本を書く。わたしたちが想像していた以上に、自身と向き合う大変な作業だったことを実感する。
ワークショップを重ねてくださって、これから写真を始めたい、今よりもう少し楽しく写真を撮りたい人たちに向けた本を作ってくださったことに改めて感謝をしながら、サインの入った本を受け取り、インクが本つかないように1枚1枚薄紙を挟んでいく。
ワークショップを始める前。こんなことを始めようと思うんですが、興味をお持ちいただけそうでしょうか。面白いと感じていただけたら、本にすることを相談させてくださいとお声がけをしたポプラ社編集担当の辻さん。即答で「ぜひ!」と気持ちの良いお返事をくださって、チームに加わってくださった辻さんがサインの入った本を箱に詰めていく。ワークショップにもほぼ皆勤賞。ご自身もたくさん写真を撮るようになった。そんな辻さんの写真、とっても素敵なんです。編集者が文字を追うように光を追っていらっしゃるのか。辻さんの写真を見ていると、その先になにか物語が続いているように感じます。
お仕事も忙しい中、お手伝いを引き受けてくれた篠原くん。ワークショップの第一回目の参加者で、その後ワークショップのお手伝いやラジオの編集も手掛けてくれている狩野くん。ワークショップの会場を提供してくださった梅と星の順平くんと瑶太くん。いつもありがとうございます。そして、ワークショップにご参加いただいた、たくさんの皆様のおかげでこの本が来週本屋さんに並びます。ご参加をいただき、ありがとうございました。(ワークショップのお申し込みをいただけなかった皆様、申し訳ありません。これからも続けて参りますので、お時間の合うタイミングがございましたら、ぜひまたご参加、ご検討くださいませ。)
写真を撮ることが楽しくなって、毎日の生活がちょっと違って見えてくる。そんなきっかけをくれる『うまくてダメな写真とヘタだけといい写真』。ぜひ、お手にとっていただけたらチーム一同嬉しく思います。
毎週更新をしている「気になるもの」。これがあるから写真を撮るのが楽しくなった。「気になるもの」の更新があることにも、感謝感謝でございます。
SAKRAの更新をしていると、高校受験の内申点に関わる3日間のテストが昨日終了、開放感に満ち溢れた息子が「塾の前に友達とカラオケに行ってくる!」と、イヤホンをさっと首にかけて出発していきました。朝からカラオケ、いいじゃんいいじゃん。いってらっしゃい!
うきうきした足取り、写真にとっておけばよかったな。
なんだかはっきりしないお天気が続きますが、どうぞたのしい週末をお過ごしくださいませ。