NO検索の旅。
同じ場所を旅する場合でも、泊まるホテルが変わると歩く地域が変わる。歩く地域が変わると1本の通りの差で出会うことのできなかったお店に会える。
今週は旅の相棒・衛藤キヨコと釜山に来ています。8月15日(火)から8月27日(日)まで浅草にある「梅と星」さんで行うイベントのため、旅慣れた場所にやってきました。
今回、宿を取ったのは地下鉄1号線の南浦駅と中央駅のちょうど真ん中。4年前、台風の時期に一度宿泊したことのある釜山タワーのふもと、大通りに比べると小高い場所にある「タワーヒル」という名のホテル。
荷物を部屋に入れてから、すぐに散歩に出かけました。金海空港に到着したのは14時15分。ホテルに到着したのは時刻は15時すぎ。ランチの時間はとおに過ぎているけれど、お腹はすいている。カルグクス、ピンデトック、ヌタウナギなど。訪れたことのない店に行ってみようと、事前にあれこれ検索をしていたのだけれど、まずはぶらぶら。二つ先の釜山駅まで歩くことにしました。駅の真向かいにはチャイナタウンがあり、ずっと気になっていた馬家餃子の揚げ餃子を食べに行くのもいい。ランチ後の休憩時間はなく、通しで営業していることは事前にリサーチ済み。
釜山駅までは、駅前の大通りを歩けばわかりやすく短い時間で到着できるけれど、急ぐ旅ではない。1本裏の通りを、のんびり歩く。ホテルの前の坂を下ってすぐ、こざっぱりとしたそばとうどんの店に出会いました。
私たち日本人が韓国に来て、なかなか選択しないジャンルの食べ物。店内のお客さんは一組のみ。大して意識をせず、店の前を通り過ぎようとしたところで、厨房が目に入る。低めのコック帽にオレンジのラインが入ったおそろいのエプロン。付け合わせのたくあんは着色された黄色ではなく白。すぐに提供できるようにカットされ、きれいに積み上げられている。オープンな厨房の前に店内のアジュンマが集まっている光景は、キヨコの大好きな景色。「ちょっとみてみて!」そう声をかけると、やはりカメラを構えました。アジュンマたちの後ろ姿を撮影して、歩きだそうとしたところで一人の店員さんと目が合った。「어서 오세요!(オソオセヨ)」いらっしゃいと言われたら、このまま素通りはできない。「これもご縁だから入ってみる?」こちらで、遅い昼ご飯をいただくことにしました。
店の名前は「중앙모밀(チュンアンモミル)」。チュンアンはこの地域の名前である「中央」、モミルは「そば」を意味している。メニューを見ると一番上にそば(2枚)8000ウォン、海老天うどん7000ウォン、鍋焼きうどん6000ウォン、いなり寿司4000ウォン、のりまき4000ウォンと日本でもお馴染みの名前が並んでいる。
二人とも「鍋焼きうどん食べたいね」と意見が一致。もうひとつは、お店のおすすめを何か頼んでみようということになりました。
「일본사람이에요(イルボンサラミエヨ)?」「네(ネー)」日本人ですか?はいと答えると、日本語がとても堪能なお母さんがわたしたちのテーブルを担当してくれることになりました。
「おすすめを教えてください」
「日本の人が釜山に旅行に来たら、そばはあんまり食べないですよね。でもうちのそばは日本のものとはちょっと違っていておいしいんですよ。だしも日本の味とちょっと違うと思います。鍋焼きうどんを頼むなら、もう1品はそばはどうですか?わさびじゃなくて、このからしをだしに入れて食べるの。」
各テーブルに並ぶ調味料入れには、お酢と和がらしがひとつずつ置かれていました。
私たちよりも前に店内に入っていたお客さんのテーブルに運ばれてきた、おいなりさんとのりまきの乗ったお皿をじっと眺める。
「おいなりさんとのりまき、半分ずつで一皿にもできますよ」
「鍋焼きうどんとそば、おいなりさんとのりまきの半々を頼む?」
「そうしよう。」
これで、注文します!食事がやってくるまでに10分はかからなかったと思う。まずは白いたくあんが運ばれてきた。その後すぐにやってきたのはそば。日本人の認識しているそばよりもつるっとした麺で、少し弾力のある冷麺の麺に近い感覚。
「たくあんにはお酢を少しかけて、そばのだしにはからしを入れてくださいね」
辛味の柔らかいからしのソースが、このそばには確かに合う。辛味よりも香りを味わっている感じ。お酢をかけたたくあんは甘酸っぱくてすっきり。ポリポリ食べ続けてしまう。
「はい、どうぞ」
一口サイズの三角のいなりずしとゴボウ、にんじん、ほうれん草、大根、卵焼きの入ったのりまきが四角いお皿にのってやってきた。
「キンパっていうより、ほんとに日本ののりまきだね」
上品に味つけられたそれぞれの素材が口の中でちょうどよく合わさる。
「そっか。キンパは酢飯じゃないけど、これは酢飯だから日本ののりまきの味がするんだ」
お寿司のセットのあとにやってきた鍋焼きうどんの汁を忙しくすすりながら、のりまきを頬張るキヨコが発見する。
卵、春菊、青ネギ、油揚げ、オムクの入った鍋焼きうどんを食べ進めると、ピンクで縁どられた蒲鉾が鍋の底からひょっこり出てきた。
「蒲鉾は、日本の蒲鉾とおんなじ味がする」
韓国に旅に来ると「汁、飲みたいねん」が合言葉のキヨコは、あいかわらずおだしを口に運び続けながらシャッターを押している。
日本にあるメニューなのに、日本で食べるものとはちょっと違った雰囲気のそばとうどんとおすしのセット。
「どうしてそんなに日本語がお上手なんですか?」
「私、日本で暮らしていたことがあるんです。日本人の友達もいっぱいいるんですよ。」
きれいに食事を平らげたあと。厨房の手前に整頓されたお皿とたくあんの写真を撮りに行くキヨコ。お店の責任者のオモニに、顔は写さないからここを写真に撮っても大丈夫ですよねと、写真を写すことを許可してもらえるように、丁寧に説明してくれるお母さんの韓国語が聴こえてくる。
検索で星が5つのお店に行くのももちろん悪くはないのだけれど。NO検索で出会えたいいお店は、やっぱり旅の一番の宝物だ。味と人の맛집(マッチプ)。味と人のおいしいお店。おかげでいい旅のスタートを切りました。
日本より少し遅れて梅雨に入った韓国。気まぐれにぱらりと傘がいらないくらいの弱い弱い雨が降って、アスファルトを濡らす。明るい時間が長く、日が落ちるのは午後8時前。流れの早い雲の合間に日が差して、茜色にタワーを照らしていました。
みなさま、どうぞよい週末をお過ごしください。