美しい手の人に会いました。

8月に行うイベントのため、先週金曜日から今週の月曜日まで、旅の相棒キヨコと韓国全羅南道の木浦へ行ってきました。

旅の3日目。木浦から出ているフェリーに乗船すると、済州島まで4時間半で行けることがわかりました。旅の予定を急遽変更。木浦から済州までの船は、平日だと夜1時と朝9時の2本。済州から木浦へ戻る船は、夕方5時の1本。私たちが移動する日は日曜で、夜1時に出港する便はなく。朝の9時に木浦を出発して、13時30分ごろ済州に到着。滞在時間はおよそ2時間半。それを面白いねとのっかってくれる旅の相棒のおかげで、短い時間ではありましたが20年ぶりに済州島に降り立つことができました。

一度だけ訪れた済州島はテレビ番組のロケで、季節は秋か冬だった気がします。明確に覚えているのは、幻の魚と言われている「魚鬼」の刺身を食べたこと。刺身をサンチュで包み、コチュジャンをのせて食べる食べ方にまだ慣れていなかった頃。ごま油と塩をつけて食べるのはおいしいと感じた記憶がうっすらあります。食べても食べてもなくならない量の「魚鬼」。魚に鬼と書いてなんと読むのでしょう。釣り好きの方はきっとすぐに読める漢字なんだと思いますが、私はもちろん読むことができませんでした。

日本でも聞いたことはある魚の名前。答えは「イトウ」。ロケの際にも、日本ではあまりお目にかかれない魚だけれど、ここ済州では食べることができるんだよと教えてもらった記憶があります。

4時間半の船の旅は、思っていたよりもずっと快適。エコノミーのチケットは片道32,300ウォン。本日のレートで3547円。船の中には食堂やコンビニ、小さなゲームセンターもあって子供たちで賑わっています。エコノミーの船室は10数人が雑魚寝をするスタイルで、私たちが到着した時には、すでに毛布をかぶってお休みをしている方もいました。

食堂でごはんを食べて、全羅南道に浮かぶたくさんの島を見ていたらあっという間に済州島に到着。電車やバスと違って、われらが船内を自由に歩き回っている間も、船は移動をしてくれている。マッサージチェアに座って英語の本を読む人。朝からビールのロング缶がどんどん開いていくテーブルも。隣の席のアジュンマからは、おいしそうなキムチを山盛りお裾分けしてもらったり。これからチェジュにキャンプに行くというアジョシは、熱心に島の名前を説明してくれたり。

船がチェジュに到着する直前に、車を搭載している階に降りていったキムチをくれたアジュンマが、ひとつ上の階にいた私たちに手を振ってくれました。「これ、わたしのキャンピングカーなの!」旦那さんと友人と。4人でキャンプをするというアジュンマの車。

「誰が運転するんですか?」

「わたしもこれ、運転できるんだよー!」

大きな声でやりとりをする。木浦の人々はこんな風に済州を楽しんでいるんだ。俳優ソン・ドンイルが相棒キム・ヒウォンと、ヨ・ジング、イム・シワン、コンミョン、ロウンとシーズンによってかわる末っ子俳優と一緒に、キャンピングカーで韓国の様々な場所を旅する『車輪のついた家』のリアル版。木浦も海の街だけれど、済州の美しい海をどんな風に感じているのだろう。

短い滞在時間、まず目指したのは済州で一番大きな「済州東門市場」。フェリー乗り場からも近く、タクシーで10分ほど。ゲートには1、2、3、4と番号がふられているので、各々買い物をして、あとで合流する際の待ち合わせもしやすい。

市場を短い時間練り歩いたあと、ゲートの1番にたどり着くと入り口に一番近いお店に人が並んでいました。時刻は14時30分ごろ。昼食の時間をすぎて、食べ物の屋台はどこも静かなのに、そのお店だけはひっきりなしに人が集まる。

最初に見えたのは、お店のおかあさんのきれいに結った髪の毛。韓国の市場のおかあさんたちの定番アジュンマパーマではなく。銀色の髪をくるっと夜会巻きにして、まとめている。どうやらここはおでんとホットクの店のようで、その場でおでんを食べていく人や、ホットクをかじる人。土産に大量にホットクを買って帰る人など様々。

きれいに結った髪の毛のあとに目に止まったのはお母さんの手。餅米粉や小麦粉を使った生地に、黒砂糖やシナモンを合わせた餡を入れて、多めの油で揚げるように焼くホットク。この店では生地を手で丸めたあと、砂糖とシナモンをそのまま生地の真ん中に練り込み、油たっぷりの鉄板で焼いていました。

次々に入るホットクの注文。顔はお客さんの方を向きながら、手は休むことなく動き続ける。ホットクを注文して「ここで食べていきます」と伝えると焼き立てのホットクを二つ折りにして紙コップにぽんとさしてくれました。熱々のホットク。おかあさんの手は、わたしの手とは段違いに熱の伝わる速度が違うんだろうな。香りすぎない程度のシナモンの量が嬉しい。さらさらの状態だった砂糖は、生地の真ん中で蜂蜜のようにとろりと溶けていく。外側はさっくり、中はもちっとしていて、思わず「もう一枚!」と注文したくなる味。熱い熱いといいながら、ぺろりと平らげました。

大好きな韓国語のひとつに「손맛(ソンマッ)」という言葉があります。손=手、맛=味で直訳すると「手の味」になるのだけれど、お袋の味に近い意味を含んでいます。美しいお母さんの手の味、ソンマッのホットク。やっぱりもう一枚、食べておけばよかった。

短い滞在時間でも、また行きたくなる理由のできた済州への旅でした。

今日は息子の中学最後の運動会。梅雨の合間、これから気温が上がっていきそうです。

今週も一週間おつかれさまでした。みなさま、どうぞよい週末をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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