いい緊張感。
「魚を食べる海外の街で、今までより集中して魚を中心とした料理を勉強したいを思っているのですが」と気仙沼の斉吉商店和枝さんからメッセージをいただいたのは昨年の12月中旬。
これとこれを組み合わせされるなんて!と、いつもおいしい提案をしてくださる和枝さんにうなってばかりだった記憶。素人の私から見るとは、もう充分に魚のことを知り尽くしていらっしゃるように見えるけれど、和枝さんが見ていらっしゃる目線の向こう側は、まだまだ遠く長く続いていらっしゃるようだ。
フランスのマルセイユ、ポルトガルのポルト、ノルウェイのベルゲンなど。私はまだ訪れたことはないけれどきっとおいしい刺激がたっぷりの港町が世界中にある。新しいことを考えていらっしゃる和枝さんからの真剣なご相談。ヨーロッパのこんな場所に行かれたら、新しい発見があって良さそうですよねなんて、自分がわからない場所のことを簡単におすすめできない。
美味しい魚がいて、いい出会いが必ずあって。和枝さんの目がキラキラっと光る瞬間を見ることができそうな場所となると。自分が自信を持ってご案内ができのは、やはり韓国ということになる。
フライトの時間は短いし、なにより韓国へは旅に行きやすくもなった。まず手始めに、韓国最大の魚市場がある釜山へご一緒するのはどうでしょうかと連絡をすると、ぜひ!ということになった。
そんな流れで、昨日から3泊4日で釜山と統営の旅がスタートしています。
釜山でアーティストレジデンスを開いていた友人のダソムに今回の旅の話をすると、その時期はスケジュールが空いているから一緒に行けるということになり、頼もしい旅のメンバーが増えた。和枝さんからこんな話をいただいてね、と報告をするとそれなら自分は写真を撮りに行くと手を上げたand recipeの山田も加わって総勢4人での旅。
東京からは和枝さんとコイケ。出張先の福岡から山田は船で釜山へ。ダソムはソウルからKTXで移動。16時ごろ到着する東京組の時間に合わせてホテルに集合。1月に取材でお邪魔したペクファヤンコプチャンで夕食を食べる予約入れるため、店主の娘さんのスンウォンさんにメッセージを送るとばっちり席を取っておくねとすぐに返信がやってきた。
成田から釜山までは、今回久しぶりのKOREAN AIR。LCCのフライトは成田の第三ターミナル発が多くて、第一ターミナルの北ウィングから出発するのは久しぶり。ベトナムへ飛んだ時の成田第二ターミナル、南ウィングは搭乗口までの道のりがとてもとても長かった。たまたまタイミングがよかったのだとは思うのだけれど、北ウィングからの出発はチェックインカウンターも出国審査も拍子抜けするほどするすると移動できてしまって、フライトまでの時間、ベンチに座って和枝さんとゆっくりお話をする余裕もあった。
2011年の6月に初めて気仙沼にお邪魔して和枝さんにお会いしてから、和枝さんと二人だけでお話しする機会はそう多くはなかったと思う。釜山に到着するまでのフライトは、和枝さんが何か新しいことを始める前の気持ちについて伺うことができる、自分にとっても貴重な時間になった。
現在のこと、今やるべきことに集中力を最大限に発揮しながら、並行して少し先のやるべきこと、誰かに喜んでもらえることを常に考えていらっしゃる和枝さん。
ほぼ日時代、イベントや新しいお仕事について相談にいくと、必ず「それは楽しそうですね」とおっしゃって全力でこちら側のアイディアを受け止めてくださり、もっとお客様が喜ぶ形にできないか、こんなアイディアはどうでしょうと、真っ白なショートケーキのクリームの上におおぶりの苺をぽんぽんと乗っけてくださることばかりだった。アイディアが出てくる時には、それをどうやったら実行可能にできるか、その道筋がすでに何本も走っている。そんな和枝さんが新しいことをスタートされる時、いつもどんな気持ちでいらっしゃるのかふと伺ってみたくなった。
「うったず、って言葉が気仙沼にあるんだけれど。自分でこれはいい!とうたっておいていつもスタートするのだけれど。何か新しい商品の発売やイベントの間際になると、どんなに準備していてもやっぱり心配になるじゃないですか。自分の経験値からすると心配や怖いの先に面白いがあるのもわかっているんだけれど、大事なことがスタートする日の前の日は眠れなかったりしているんですよ。始まっちゃえば、ゆっくり眠れるんだけれどね」
これはいいと思ったらやらないではいられないし、その先に何か失敗があったとしても、やるやらないで考えたらもちろん「やる」のほうになるのだけれど、いつも怖いという感情はあって緊張もしっかりするしおぇっともなりますよ、という話をしてくださった。
良くも悪くも全部思っていた通りにはならないのはよく分かっているし、それでももっとよくできないか、トータルでそのものごとの設計をぜんぶやり直すこともある。具体的な例をあげて、笑いながら話してくださる和枝さんを見ていると、心にふつふつとこみ上げてくるものがあった。そんな風に緊張していらっしゃるようにはいつも見えていなかったし、笑顔で「やっぺ!」と、いつも背中を押していただいてばかりだった記憶しかなかったのだけれど。その緊張感は、真剣なものづくりの裏側にそれはきっと必ずあるものだ。
この旅で和枝さんがどんなことを感じて、新しい味を味わって、どんな商品を作って行かれるのか。和枝さんの目線の先に、新しく生まれていくものを実際に手にとることができる日を楽しみに。いい緊張感とともに、旅のお手伝いができたらと思う土曜の朝です。
みなさま、今週も1週間おつかれさまでした。どうぞよい週末をお過ごしくださいませ。