1泊2日。
一昨日、昨日と熱海に行ってきました。
and recipeの山田がプロデュースしている「Himono Dining かまなり」に気仙沼斉吉商店の和枝さんとご一緒する予定を2月ごろから組んでいたのですが。旅の直前、写真家幡野広志さんと行っている写真のワークショップ中に思いついた新しい企画を、和枝さんにご参加いただけたらすごく面白くなりそうですねという話に。そこで、来週和枝さんと熱海に行くのですがよかったら熱海で打ち合わせはどうですか?とお誘いをしたところ。ぜひということになり、ワークショップを手伝ってくれている狩野くんも先日お財布を探してもらったお礼に行きますかと声をかけ、わいわい熱海で1泊2日を過ごすことになりました。
熱海はちょうどソメイヨシノが満開。新幹線を降りるとすぐ、右からも左からも桜の歓迎を受けます。平日なのに新幹線もほぼ満席。久しぶりに訪れた熱海は、活気に満ち溢れていました。
お店のオープンまで、何ヶ月も熱海に通い詰めた山田が案内をしてくれるので、他のメンバーはリーダーにただただついていく。熱海駅前平和通り商店街にも美味しそうなものが並んで、ぐーぐーとお腹がすいてきますが、どんどん歩を進めます。
熱海は温泉の街。あちこちに源泉が湧き出している。ある源泉の向かいにある酒屋さんに入っていく山田。パックに入った卵を手にしています。勘の良い方はもうお分かりかもしれませんが、街中の源泉で蒸した卵を食べられるんです。
熱々の卵。熱いものが苦手な幡野さんは水で卵を冷やしてから殻を剥いています。
「あちち、あちち」それでもだいぶ熱いよう。「熱いと味、わかんなくないですか?」
確かにそれはあるかも。「うんまいねぇ」和枝さんは正座の状態で卵をほおばっています。それぞれのスタイルで熱海ウェルカム蒸し卵を食べる。
1964年開業のニューフジヤホテルに到着。ホテルも満室。荷物を下ろして、また街を歩きます。
熱海銀座から少し入った川沿いへ。
東京で観光をしている人たちとの大きな違いはほとんど外国の方を見なかったこと。温泉があるから年配の方がと思いきや、若い人たちがとにかく多い。アイスクリームのように盛られたお刺身やプリンなどの店に列ができている。
われわれそこそこ大人のメンバーは(一人20代の若者もいるけれど)村越魚店さんでお刺身をいただきます。見たことのない魚が並ぶ。沼津港であがるという深海魚の「げほう」。海の深いところから地上にやってきたから、びっくり目も内臓もぷーっとふくれている。「どんな味がするんですかね?」「捌くのが難しそう。」そんなことを話していたら、お魚図鑑をもって店主の方がげほうの説明をしに来てくれました。
げほうは別名「トウジン」と言ってタラ目ソコダラ科のお魚でした。びよんと伸びた魚の外見からは想像のできないプリッとした食感のお刺身。われわれがあまりに興味を持っていたものだから、味見にどうぞといただいてしまう。淡白で美味。煮魚にもぴったりのお魚なんだそうです。
おいしいお刺身を頬張っていると大きなサイズのさぎが飛んでくる。
魚の頭を店主の方がぽんと投げると長いクチバシでナイスキャッチ。
「どこまで寄れるかな」カメラを持って近づく幡野さん。ものすごい至近距離まで行っても、さぎは全く動じない様子。
「ここにビールがあったら長居しちゃうね」おいしいお刺身とお寿司をつまんで、またお散歩。久しぶりのお天気の夕暮れ。ただ歩いているだけで、気分がよくなります。
夕飯にと予定していた洋食屋さんのスコット。三島由紀夫なども訪れていたという、予約ができないお店。開店から少し経った時間に列がどのくらいになっているかなとお店を訪れてみると、3月に数日だけ設定された定休日とどんぴしゃり。みんなすっかり洋食の口だったはずだけれど、明日のお昼にまたチャレンジしますかねと、坂口安吾が愛した五目そばと大きなしゅうまいが有名な「幸華」というお店で中華。「そういえば和枝さんはあんかけ焼きそばに目がないっておっしゃってましたよね!」「しゅうまいは人数分頼もう」「幡野さんが食べたかった鶏皮の唐揚げ、今日は売り切れだそうです」「瓶ビールもう1本頼みますか」中華はやっぱり、大人数で食べるのが楽しい。ぎゅっとあんの詰まったジャンボサイズのしゅうまいは、思い出すと今すぐに食べたくなります。
お腹がいっぱい。腹ごなしにふんわり夜風の通る街を歩く。熱海に移住してワインバーを開業した女性が営む「熱海バル」というワインバーへ。席が空くまで、まずは和枝さんと二人で先に入店。男性陣はお隣の居酒屋さんでお酒を。しょっぱいと甘いが絶妙なおつまみ「ポテチと黒糖」はワインに合うから、必ず頼むようにと山田から指令が出ていたのでまずは1品。和枝さんは赤、コイケはオレンジワインをお願いする。グラスが出てくると「わぁ!」と和枝さんの感嘆の声。なが〜いグラスに注がれていく赤ワイン。
「グラスの底から口に入るまでに距離があるから、ずっといい香りがする。」
お料理も飲み物もお店の方も。和枝さんが見ている、感じている数は私の数十倍。いや、数百倍あるんじゃないかと思う。くるくる変わる和枝さんのお顔や声のトーンを見たり聞いたりしていると、あ、いまこのポイントに感激されているんだなと分かる。
気仙沼でやるとしたらこんなやり方、あんなやり方。思いを巡らし、アイディアを話してくださる和枝さん。こちらもずーっと勉強になる時間。
最後にもう一軒、バー「コマド」というお店に寄ってハイボール。私は12時直前でウトウトしはじめ、1日目を終えました。
翌日は「Himono Dining かまなり」を経営する熱海で150年ほど続く老舗の干物屋さん「釜鶴」の二見さんが、熱海の魚市場のせりを見学させてくださるとのこと。7時15分に待ち合わせて、歩いて市場へ向かう。魚にまつわるお商売の方々が株主となって運営している「熱海魚市場」。和枝さんの足取りが弾んでいます。この日は魚がたくさんあがっている日だったよう。人気の民宿を営むお父さんがいろいろ教えてくださいます。「昨日のブリよりいいのが来てるな。値段も安くてサイズも大きいよ。1尾買ってかえったらどうだい。甘鯛は一番値がはるけれど、うんまいよ」。おいしそうなまるっとしたブリ。買って帰りたい気持ちはあるけれど、捌く自信が、だいぶ不足しております。
7時半をまわると右手前の魚から順番にせりが始まりました。昨日おせわになった村越魚店さんもせりに参加しています。村越さんの屋号は「山」に「は」。店名と屋号が全然違うのはなぜなんですか?「昔はせりで魚をおとす時に手で紙に屋号を書かないといけなかったから、さっと書ける屋号ってことでこれになったんですよ。」
キロ数の書かれた魚の上に、様々な屋号の札が置かれていく。
昨日あんなにお腹いっぱい食べたのに、もうはらぺこ。ちゃんとお腹が空いているのは、私だけではなさそうです。朝10時から開店というお店の多い熱海の街の中で、8時からオープンしている「Himono Dining かまなり」。ホテルの朝ごはんビュッフェも楽しいけれど、こちらほんとうにおすすめでございます。和枝さん、幡野さん、コイケはひものデリプレート。狩野くんはひものカレー、山田はひものバーガーとひものボウルをそれぞれ頼んで、みんなペロリと朝ごはんを平らげる。
カリカリ、ちょうどいい焼き加減の豆鯵は頭から尻尾まできれいに食べられるんです。左に見えるのはひものコロッケ、釜鶴さんのアンチョビが入ったサラダのドレッシングも絶妙な塩味でおいしいんです。
朝ごはんのあとは釜鶴さんでみんな思い思いに干物をおかいもの。ちょうど金目鯛の干物が店頭に運ばれてきました。わたしはエビとかますと豆鯵の干物を購入。気づけば子供が好きな種類の魚ばかり買っていました。金目の干物も買えばよかった。
食事もお土産の購入もばっちりすませてホテルをチェックアウト。
お茶でもしに行きますかということで、車で10分のAKAOフォレストまで。スイーツやお土産物のお店、ピザ窯のあるカフェが海の見えるひとつの建物の中に集合している。
昨日バー「コマド」で偶然お会いした方たちがプロデュースしているカフェ。昨日会ったお二人もたまたま店頭に立っていて、昨晩はどうもどうもと挨拶。
静岡の磐田で採れた苺。キャラメル練乳をつけて食べるとお菓子のようで新しかった。
熱海サンビーチに戻って喫茶「nagisa」のテラスでお昼ご飯。エビフライとクリームコロッケのランチを仲良く頼んだ幡野さんと狩野くん。先にクリームコロッケを口にいれた幡野さんが「アチッ!」という一言のあと、一気にお冷やを飲み干した。「僕が先に熱さチェックをすればよかったのに、一歩遅かったです」「いやいやいや。」幡野さんの猫舌な場面はいろんな場所で出会ってきたけれど、この日のクリームコロッケは本当に熱かったようです。
旅のシメは平和通り商店街手前にある干物バー。つぼ鯛の焼き加減に感動する和枝さん。「骨までカリカリなのに身はふわふわ。コイケさん、ほらこの部分食べて食べて」つぼ鯛の香ばしさにやられて、ずっと骨をしゃぶっていたら、すっかり写真を撮ることを忘れていました。
1泊2日の熱海旅。よく食べて、よく笑って、あっという間の時間でした。今回の旅が、それぞれのメンバーのどんなものにつながっていくのか。少し時間がたった後に、あの時のあれ!と気がつく日も楽しみに。
旅の最後。駅でみんなの新幹線のチケットを買って、干物バーのお店に戻る時。おばあさまとお孫さんが「何買ってかえろっか」と楽しそうに肩を並べて歩く姿に出会いました。お孫さんの身長がおばあさまより少しだけ高い後ろ姿。春休みでおばあちゃんのお家に遊びに来ているのか、はたまた一緒にお住まいなのかはわからないけれど。腕を組むおばあさまのやわらかな表情の横顔。なんだか嬉しい旅の締めくくりとなりました。
本日も読んでいただき、ありがとうございました。どうぞよい週末をお過ごしください。