インセンニッコ。

お尻に火がボーボーについている小池です。締め切りを過ぎ、お待たせをしてしまっている原稿を五月雨で送り続ける。enterボタンを押して送信をする度、パソコンのトラックパッドに額を擦り付けてお詫び。そのようにメールが送られていることを、優しい優しい編集の方はもちろん知る由もないのだけれど。

送信ボタンを押した瞬間に、あのエピソードを追加したかったとまた送信済みのファイルを開いてしまうから、次の原稿を送る時間は少しずつ後ろにずれていく。あとふたつ。Uさん、もう少しだけお待ちください。(額はトラックパッド)

正確な値段や名称を書くために、現場でパシャパシャと撮影していたスナップを見返す。必要な情報だけを取り出して、すぐに書くべき原稿に戻ればいいのだけれど。マインドマップを広げるように次の写真を見てしまう。ひとエピソード600字の原稿に込めるために絞ったはずの要素はアメーバのように増えていく。行ったり来たり。来たり行ったり。入れたい要素を全部書くのって文字数が多くても楽なことだったんだ。ありがたいご縁でつながったお仕事で、初めて気づく。この年になっても知らないことだらけなのだ、ほんとうに。

釜山の影島(ヨンド)で撮影したスナップを見返す。天気のいい日で、気温も暖かく散歩道を歩く人たちの顔はみんなニコニコしていた。またのんびり歩きたい。いや、君は今のんびりしている場合ではない。探すべき写真はどれだった?

ポンポンキーを押していく。とある写真のところでキーを押す手が止まる。

「인생네것」

インセンニッコ。

韓国語を勉強していらっしゃる方は小池と同じように「はっ」とされるでしょうし、なんのこっちゃな方の方が多いかしれません。

インセンニッコ。

そんな名前のついたカフェがあったんです。取材となんの関係もないのに、思わずシャッターを押していた。

インセンニッコ。

인생=インセンは音もちょっと似ているんですけれど、日本語の「人生」ですね。
네=ニは「君、あなた、おまえ」です。
것=コッは「もの」。

インセンニッコ。

人生は君のもの。

この「君」はもちろん自分自身、わたしのことであるのは大前提なのですけれども、そのわたしには子供や家族、友達やお世話になっている大切な人たちも含まれるかもしれない。そう考えると、また意味が変わってくる。

先日、久しぶりにSAKRA.JP火曜日を担当しているニホンコンと韓国語のレッスンという名目のロングティータイムをしました。

あ、もちろん授業もぎゅっと二人で真剣にやりましたよ。

「インセンニッコ」というカフェの写真をみながら、3人の娘さんを持つニホンコンが話した言葉が耳の先っちょのほうに戻ってきました。

「今年からもう少し外に出させてもらおうかなと思って。わたし、3人合わせて10数年子育てしてきたんだよなぁって」中国語の先生として忙しく活動しているニホンコン。おうちに遊びにいかせてもらうとかわいい娘さんたちと順番に会話をして、一人一人と学校のことを話している姿にこちらが微笑んでしまった。旦那さんも協力的。でもニホンコンだけの「ニッコ」があるんだよね、きっと。

インセンニッコ。

人生は君のもの。

今日この文章を読んでくださったみなさんの「ニッコ」にはどんなことがあるでしょうか。どんなものが含まれるのでしょうか。そしてこれからどんなものを「ニッコ」にして行かれるのでしょうか。今日が明日を作るし、未来に「ニッコ」にしたいものを描くから今日やるべき新しい「ネッコ(私のもの)」が生まれるのだけれど、とりあえず小池は早くお待たせしている原稿をあげなければいけません。(額はトラックパッド)

インセンニッコ。

雪、やみましたね。みなさま、よい週末をお迎えください。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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