うつわ。
どんな器が好きですか?お料理の映える白い器。絵付けされた華やかな器。薄くて繊細な器。ぽてっと温かみのある器。組み合わせるお料理によって何通りにも変化する器は、なんだか人のようでもある。
今週も週末、浅草に行っておりました。韓国の友人で陶磁器キュレータのナギョンちゃんによるクッキングクラス。前日にふたりで野菜を切ったり、器や調理器具を準備しながらめずらしく「あ〜緊張する〜」と何度も言っていたナギョンちゃん。
一月前に打ち合わせでお邪魔した時は、営業が終わっている時間だったので「梅と星」自慢の羽釜ごはんは食べられず。今回は早めに行って梅と星のごはんで、イベントのためのパワーをつける。18年日本に住んでいたナギョンちゃんはもちろん日本食も好き。お供みくじの定食をチョイスするかな?と思いきや「わたしは韓国定食にします」。
ナギョンちゃんと順平さんとの打合せ。順平さんがすぐにたのしいアイディアを足してくれました。「器ですか!それなら僕らがずっとやりたかった陶器市をナギョンさんのイベントの日から開始するっていうのはどうかなと。ソラマチにある『立ち喰い梅干屋』で陶器市をやろうと思って、豆皿とお茶の湯呑みや急須を集めていたんです。ナギョンさんセレクトの器と一緒に販売できたらすごく楽しいと思って。あと、ぜひお昼の定食で韓国定食やりましょう!」クッキングクラスでレシピをお伝えするプルコギをメインに、韓国でよく食べるおうちご飯て何があるかな。
「家庭料理のことは韓国語でなんて言うんでしょう。」
「집밥(チッパップ)というんです。집(チッ)は家、밥(パップ)はごはんのことです。」
「집밥(チッパップ)にあるメニューでプルコギ以外に2品選んでナギョンさんのイベントの前後に韓国定食やりたいです。」
「そうしたら梅干しに合うメニューがいいですよね。ほうれん草のナムルと두부조림(トゥブチョリム)というお豆腐の煮物にしましょうか。」
ナギョンちゃんの作ってくれたレシピを試作。作りやすい分量に変えて梅と星の料理長たくみくんにも作ってみてもらう。トゥブチョリムは少し日本人向けに辛さを控えさせてもらって韓国定食が完成。
ナギョンちゃんが実食するのはこの日が初めて。ドキドキしながら見守る。「おいしいです!」気を使って言ってくれているのではない証拠に真ん中にキムチ梅の乗っていたご飯のお茶碗は空っぽに。
「おかわりする?」
「はい!ほんとにおいしいです。」
ほっとして、わたしもごはんをおかわり。
ご飯を食べて落ち着いた後。2階の陶器市の棚を見に行くと。ポスターや棚を準備してくれたバンブーカットのカットこと瑶太くんが、事務所から降りてきてくれました。ちなみにバンブーは順平さん。順平さんの苗字である竹内の「竹」と瑶太くんの苗字・切替の「切」でバンブーカット。梅と星、オーナーの二人。
同世代のバンブーカットとナギョンちゃん。この器がいい、あの器もいいですねと会話が弾みます。
お腹もいっぱいになって、準備の時間までまだ少しある。浅草寺の奥側にあるフグレンに、コーヒーを飲みに行くことにしました。浅草寺の境内を通過している間にも、たくさんの外国の方とすれ違う。
「浅草寺にもみなさん初詣に来るんですか?初詣は神社ですかね。」
「いやいや、浅草寺は初詣にいらっしゃいますね。お正月も人でいっぱいになります。」
浅草寺では翌日から開催する予定の羽子板市の準備が進んでいて、鮮やかな朱色が次々と目に留まる。1659年、両国橋が架橋された頃から毎年かかさずに行われている羽子板市。360年もこの地で行われているお祭り。厄災をはねのけるという意味の羽子板。お正月に羽子板をついた記憶。幼稚園の年長さんが最後だったかもしれません。
コーヒーを飲みながら、それぞれの仕事について話す二人。大学で建築やインテリアを勉強したあと、LINEで社内インテリアのデザインを担当していたナギョンちゃんは、ずっと好きだった器を仕事にすることになった。韓国や日本の同世代の作家さんたちを探して、自ら声をかけ器を制作してもらったり、買い付けをしてそれぞれの国に紹介する仕事をしている。ほぼ日で仕事をしたあと、大学の友人である瑶太くんと会社を立ち上げた順平さん。梅農家さんを回って、梅干しの加工会社さんと交渉して。梅干しを「おいしい」と同時に「楽しんでもらう形」に次々と変化させている。
これから二人の器にどんな人たちが組み合わさって、新しいおいしいや楽しいが生まれていくのか。お客さんとしても楽しみでしかたありません。
おしゃべりに花を咲かせているとあっという間に当たりが暗くなってきました。そろそろ戻って会場の準備をしますか。
「梅と星」に戻ってクッキングクラスの準備を進めていると目に入ってきたクリスマスツリーには、星の代わりに梅干しが乗っている。もう来週の週末はクリスマスか!あと少しで今年も終わるね。
2022年。みなさんの器には、どんな出来事が盛り付けられた1年だったでしょうか。
準備がばっちり整って、19時05分にレッスンが始まりました。直前まで「緊張する〜」と柱に抱きついていたナギョンちゃん。ぱきっと先生の顔に変わりました。「SAKRA.JP毎日楽しみに読んでいるんです。スナックも行きたかったんですけれど」とおっしゃって、このクラスに参加してくださった生徒さんもいらしてくださいました。嬉しいです〜、SAKRAのみんな〜!
ラー油、韓国産の唐辛子、牛のひき肉、塩、ネギで作るスンドゥブの素。味噌の発酵臭ような香りのする旨味たっぷりの素。「コチュジャンを入れると、全然別の味になってしまうんです」合わせだしの中でおぼろ豆腐を静かにくずして、玉ねぎとズッキーニをいれて、先に作ったスンドゥブの素を溶かしていく。辛さはお好みで調整できる。野菜からも甘いだしが出る。最後にエノキと玉子を割り入れて、玉子の白身の部分が固まったら出来上がり。スンドゥブの素を多めに作っておけば、食べたい時にいつでもさっと食べられる。半熟の黄身をくずしてながら食べる。
「辛さは大丈夫ですか?」
「辛い、です!けれど、食べ進めると辛いだけじゃなくなるのが不思議。」
ナギョンちゃんセレクトによる韓国の陶磁器作家ユニット「陶藝堂」のお茶碗にごはんとキムチ梅。お客様の前にならぶぽてっと温かみのあるまぁるいお茶碗の中身は、みるみる空っぽになっていく。
「おかわりいいですか。」
「もちろんです!ごはんは一升炊きましたから。」
ニンニクのきいたプルコギもごはん泥棒。お肉もおかわりありますよ。すみません。控えめに手をあげる生徒さん。
「お肉のおかわりがこんなにあるとは予測していなかったですね。喜んでもらえてよかった!」
やっと顔のほぐれたナギョンちゃん。うんうん、嬉しいね、嬉しいね。
デザートにと持ってきてくれた「약과(ヤックァ)」とお茶で締め。シナモンのきいた菊の花のかたちのお菓子。歴史物のドラマにも登場する薬菓。みなさま満腹でも、甘いものはしっかりおなかにおさめる。
片付けが終わって、スタッフでごはん。よく冷えた梅と星の生ビール。隣に座っているナギョンちゃんの喉もクックッとなっている。今日のビール、めちゃくちゃおいしいね。
『韓国定食』は明日18日の日曜日まで、『ちいさな陶器市』は12月31日まで「梅と星」の2階のスペースで開催されています。ぜひ、お立ち寄りください。
器と料理の組み合わせ。会場という箱とイベントという中身の組み合わせ。国と国、人と人の組み合わせ。無限にあっておもしろい。2023年は、自分の器にどんな料理を盛っていけるのかも楽しみに。足と手を止めずに、いろんな場所に旅に出られますように。
年末に向けてお忙しい日々が続いていると思いますが、いい1年の締めくくりと新しい年をお迎えいただけますように。まだちょっと気が早いか。まずはよい週末をお過ごしくださいませ。