おいしいものが好きな友達のレコメンド。
3年ぶりに会う友人と2年ぶりに会う友人と最近も一緒に仕事をした仲間と、幡ヶ谷にある「名菜館」というお店でとびきりおいしい中華を食べました。自宅は近いし、店の前を何度も通ったことはあるのに初めましてのお店。
「とにかく、まずこれを食べて」
なすを4等分。ヘタの部分を残してさらに4つの切り込みをいれ、片栗粉をまぶして油で揚げたなすに酸っぱさ強めの甘酢がかかった1品。「白いごはん何杯でもいけるやつ!」なすと油の相性は最高だけれど、ほんとに?そこまで?と半信半疑でとろっと甘酢のかかったなすを口にしてびっくり。なんだこれは。この甘酢の正体は。横にいたand recipeの山田に「先生、これ再現できますか」と聞いてみたけれど、すぐには解析できない様子でなんども味見。
「最近、幡ヶ谷がアド街に出て。このお店が紹介されていておいしそうだから来てみたら、もうこのなすにびっくりで。」
確かにこれはすごい。小籠包のような味わいの焼き餃子も上海蟹のみそがまざったチャーハンもレタスのオイスターソース和えも全部おいしい。お酒もスルスル進む。灯台下暗し。おいしいものが好きな友人のレコメンドにハズレなし。
おいしいものが好きな友人のレコメンドといえば。ソウルで再会した陶磁器キュレーターのナギョンちゃんレコメンドもすばらしかった。
ソウル西部に位置する麻浦区にある望遠洞という街に住む彼女と、駅で待ち合わせて市場を歩く。夕方5時の市場は活気に満ちていて、早口で新鮮な渡り蟹をすすめる魚屋のおじさんとお客さんのやりとりにこちらもパワーをもらう。最初にナギョンちゃんがおすすめしてくれたマッコリとティギム(韓国式の天ぷら)のお店は順番待ちで、電話番号と名前を登録して、また市場をブラブラと歩く。ユッケジャンのお店から甘辛いコチュジャンの香りが漂ってくる。大きな鍋から持ち帰り用の容器にスープをうつすお母さんの手元から香ってくる匂い。空腹のお腹がくーとさみしい音を出す。オデンタンにオムクコチ。長い竹串にささった屋台フーズにも心惹かれる。紙コップにはいったオデンタンのスープをゆっくりすするカップル。おだしの香り。あぁ、たまらない。
市場のはしっこまで歩いてきても、いっこうにティギムのお店からの連絡は届かず。「ここもおいしいんですよ」と入った焼肉のお店「망원동고기집(マンウォンドンコギチッ)」。分厚いサムギョプサル。付け合わせのねぎのキムチに舌鼓。「ソメクは妹のほうが作るのが上手で、私はへたなんです」と言いながら、ビールが注がれたcassのグラスに焼酎を入れてチョッカラ(箸)をカンカンと鳴らす。グラスの中のチョッカラから細かい泡がシュワシュワとグラスのふちの向かってのぼっていく。
「눈꽃살(ヌンコッサル)」とかかれた肉。눈は雪、꽃は花。なるほど霜降りの脂が雪のようにきれいに咲いた肉のことをこう呼ぶのだとは知りませんでした。その上に書かれたブリンブリンという形容詞。キラキラしている様を意味しているけれど、キラキラぴかぴかのお肉の味も試してみたくなる。
「二次会は我が家にしましょう。おいしいマカロンとワインを用意してあるんです。」
そういえば私の韓国語の先生もマカロンが大好きだった。望遠洞にある「未完成食卓」という名前のマカロン屋さん。とても人気で、遅い時間に行くと売り切れてしまうそうだ。ナチュラルな白ワインに合うようにチリとチーズのマカロンを用意してくれていた。甘いマカロンにチーズはイメージがわくのだけれど、チリは辛い。甘辛のマカロン。むむむと手を伸ばしにくい味を想像してしまいそうになる。のだけれど、これがびっくり。ワインに合う。
チリチーズのマカロン。口に入れた瞬間「전하(チョナ〜)」と頭を下げたくなるはじめての味。そうですそうです。チョナ〜は、韓国の歴史物のドラマで出てくる「陛下〜」です。マカロンの王様。マカロンワン。甘いだけじゃないマカロンがこんなにおいしいなんて。おいしいものと器が好きなナギョンちゃんのレコメンド、恐れ入りました。
マカロンを片手にナギョンちゃんが今ソウルで行っている活動の話に。お父さんの仕事の関係で、高校生から18年間日本で暮らしたナギョンちゃんがソウルに帰ってからスタートしたクッキングクラス。韓国や日本の若い作家さんたちの器をセレクトし、その器に合う料理を生徒さんたちに教えている。テーブルの上のスタイリングや料理の盛り付けかたのアドバイスも行う。生徒さんの年齢も様々で、韓国で行うクッキングクラスでは日本の料理を教えるほうが人気があるのだそう。朝11時に教室に集合して、料理のデモンストレーション。みんなで一緒にご飯を食べ、デザートとコーヒーを出す頃には時間が14時を過ぎていることもある。料理と器のレッスンのはずの時間が、生徒さんのプライベートな人生の話に及ぶこともしばしば。ある日、20歳の若い生徒さんと6、70代のお母さんが一緒になったクラスで。お母さんがもらした「今までこんなふうに誰かに食事を作ってもらったことがないんです。あたたかいごはん、ほんとにおいしい。家に帰ったらまたご飯を作らなくちゃ。」という一言に、その場にいた生徒さんみんなで涙してしまった。そんなナギョンちゃんの話を聞きながら、なぜかふたりでポロポロ泣く。ソメクとワインのちゃんぽんのせいでも、マカロンのチリが涙腺を刺激したわけでもなく。はじめましての人たちが、心地のよい静かな空間でゆっくりごはんを囲んだ時に生まれる不思議な力。レッスンが終わると、教えていたナギョンちゃんも癒される時間になっている。
仕事で日本に来る予定があると聞いて、ぜひ日本でも料理と器のレッスンをやっていただけないかとお願いをしました。12月16日、いつもお世話になっている浅草の「梅と星」さんでナギョンちゃんのクッキングクラスが開かれます。プルコギとスンドゥブチゲの2品、陶藝堂(DOYEDANG)という二人組の作家さんの器とともに、韓国料理のレシピと器のコーディネートを教えてくださいます。よろしかったらぜひ足をお運びくださいませ。詳細はこちらからどうぞ。
と、最後は宣伝になってしまいましたが、食いしん坊な友人たちのレコメンドのおかげで、今週もおいしい締めくくりをした1週間でした。
急に寒くなってまいりましたね。どうぞあたたかく良い週末をお過ごしください。