自由だ。
イベントの試食会用にタコスを仕込む。料理をナリワイのひとつにしているand recipe。この仕事を始めるまでは、家庭で作ったことのないレシピを作ることも多い。タコスもそんな料理のひとつ。
日本は縄文時代の頃。約6000年前のメキシコ。農耕集落の先住民が畑仕事の途中で手軽に食事をとれるよう、とうもろこしの粉を練って焼いたトルティーヤに挟んで食べ始めたものがタコスの起源なのだそうです。
肉でも魚でも野菜でも。なんでもトルティーヤに挟めばそれはタコスになる。「タコスは自由だ!」長年勤めた会社を卒業して、タコス屋さんを始める友人が放った言葉がとても良い。とうもろこしの粉を計っている時も、粉に塩をふっている時も、少しずつぬるま湯と油を垂らしながら生地を練っている時も「自由」という単語が頭に浮かんでいました。
どんな料理を作るときでも、ここがおいしそうなとこ、ここがたのしいところという「感情ポイント」があるのですが、今日のタコスは2箇所。練り終わってねかせた生地の塊を12個に分けるべくバットをはかりに乗せてひとつ30gにしていくところ。左手で塊を持ち、右手の5本の指で「30」と念じながらまあるくちぎる。
はかりの表示する数字がぴたっと「30」。よしっ。この後も「30」のミッションは続く。大きくガッツポーズをキメている暇はない。「29」あぁー。複数人の機械的な残念!の声。生地を少しちぎって「30」にする。次、「30」おおー。「30」。おおー。これはわたしの天職か。タコスの生地をぴったり30gはかる選手権があったら上位に食い込めると思う。メキシコの乾いた太陽の下で、ストローハットをかぶって「30」をくり出していく選手権。出場したい。
タコスを作っている時の「感情ポイント」その2。丸めた生地を薄く伸ばして鉄板で焼き始めて数分。生地がぷくーっと膨れて美味しそうな焦げ目がつくところ。おいしそうに焼けていくタコスの生地は、多くの人の感情を刺激するポイントになるはず、なのですが。ここはわたしの「感情ポイント」ではなかったんですねぇ。どうでもええわ、というツッコミ。受け付けます。
おいしそうに焼けるところよりも身震いする瞬間。丸めた生地をタコスのプレスマシンに置き、生地をまん丸ではない、程よい「丸」に伸ばせた時。本日2度目の「よし」連発。
「30」と「程よい丸」。どこがおいしそうな、たのしい感情ポイントになるのかも自由。タコスは自由だ!
なんでもトルティーヤで挟めばタコスになる。そんなタコスの楽しさとおいしさを広げるサルサ。スペイン語の表記は「salsa」。ラテン語で「塩味の」を意味する「salsus」の女性形が「salsa」。サルサの意味は「ソース」。醤油は「salsa de soya」大豆のソースと呼ばれているんですね。つい言ってしまう「サルサソース」は、ソースソースになってしまうからどちらか一つにしないといけなかった。「チゲ鍋」が鍋鍋と言ってしまってるみたいなものですね。
そうそう。サルサを作っている時にも感情ポイント、ありました。サルサの主役、トマトをダイス状にカットする時。トマトが潰れずすっと果肉に包丁が入って、ツヤツヤの角切りトマトがまな板の上に誕生していく瞬間。あぁ、おいしそう。
自由で懐の深いタコスだけれど、作っている道のりにたくさんの感情ポイントがあると、おいしくなる法則があります。
夏野菜山盛り。
豚肉をハーブとオレンジと一緒に蒸し焼きにしたカルニータス。1519年スペインが入植して、南アメリカ大陸もたらされた豚。トルティーヤに挟んだ時のうまさゆえ、メキシコで豚の飼育が一気に広まったんだそうです。
おいしく食べたい人間の欲望。一番の感情ポイント。
具材もサルサもいくつか用意。次はライムをしぼって食べよう。次はサーモンに辛めのトマトのサルサをトッピング。食卓に出されたあとの食べ方も自由なたのしいタコス。いただきまーす。
また暑くなりそうな7月の後半戦。何か気分のアップするごはんとともに。皆様、よい週末をお過ごしください。