誰かの好きな気になるもの。

神田にあるポートビルにて、写真家の池ちゃんこと池田晶紀さんとの打ち合わせ。「今日もこのあとボルツにカレー食べに行くんだ」池ちゃんのフェイスブックやツイッターでものすごい回数登場するあさり山盛りのカレーが、前々から気になってはいたんです。「先週はほぼ毎日食べに行っちゃった」何かの機会にボルツさんに寄って池ちゃんスペシャルを注文したいと思っていました。

ほぼ日のTOBICHIで、7月1日からスタートする電鍋と台湾雑貨のPOP UPショップ「ハオチー! 電鍋。クーアイ! 台湾。」の準備で神田にお邪魔する機会に食べて帰ろう。

今週は月曜日からそう決めて、週末を楽しみにしていました。

買い出しなど、準備が終わった時間は15時前。飲食店は夜の営業に合わせて、仕込みの時間。あぁ、ボルツさんの営業時間を調べるのを忘れていた。楽しみにしていた割には、事前準備がすっぽり抜けている。これもうだるような暑さのせい。TOBICHIのある神田錦町3-17から、ボルツのある神田錦町3-18までは徒歩4分ほど。ちょっと歩けば汗の吹き出す日差しの強い時間だけれど、スマホで営業時間を調べるより前にお店に向かってしまおう。いやいや、調べるのに大して時間かからないんじゃない?もうとりあえず行っちゃう。あのカレーをものすごく楽しみにしていたんだもの。

アイスコーヒーのカップから落ちる水滴が、じゅっと一瞬で乾いてしまうようなあっつ熱のアスファルトの上を足早に進み始めました。街路樹を射す光が白くてまぶしい。

距離にして300mちょっとのご近所。なるべく日陰を探して歩く。暑さにいろんなものが吸い取られていく。さっきの自動販売機で水を買えばよかった。あぁ、頭が溶けていく。あの角を曲がればどこか別の世界〜じゃなくってボルツ。

赤い看板までの道のりが近くて遠い。

丸っこい書体のかわいい看板まであと少し。「辛さの元祖はボルツです」アサリのカレーがずっと気になっていたボルツさんに到着しました。

現在の時間はランチを大幅にすぎた15時すぎ。ふーっと深呼吸をしてお店をのぞくと営業中の文字。やったー!ついにあのアサリカレーが食べられる。

「こんにちは。」

静かにドアを開けると池ちゃんの写真で見ていた店長の倉田さん。

「いらっしゃい。どうぞどうぞ。」

常連さんとお話中だった倉田さん。おしゃべりは続けながら、グラスに氷水を注いでくれる。ぐびぐびと冷たいお水を飲み干して、カレーを注文。しようと思ったのだけれど、メニューを見るとチキン、ビーフ、トマト、野菜。

もちろん池ちゃんのカレーという文字はない。

福神漬けと大根の酢漬け、玉ねぎのヨーグルト漬けのセットをカウンターに届けてくださった倉田さん。

「あ、カメラ。そっちの仕事?」「いえいえ!カメラマンではないんです」

もごもごしながら、小さな声で聞いてみる。「あのー。池ちゃんカレーをお願いしたいのですが…。」

「あぁ!池ちゃんカレーだとアサリ、アサリ、エビの大盛りだけどいい?」

「はい!お願いします。あああ、ごはんは普通盛りで。あとアイスコーヒーをください。いつでもいいです。」

池ちゃんスペシャルを注文したであろう知り合いの人たちの顔が浮かぶ。写真を撮らせてもらうOKももらってしばし待機。

アサリアサリエビ。アサリアサリエビ。呪文のように海産物を唱えながらメニューをもう一度見る。アサリとトマト、アサリと野菜、アサリと玉子、アサリとベーコン。どこを見てもアサリとアサリとエビというメニューはない。辛さの説明の下を見てみると「お好みの具」というところにアサリやエビが単独でもトッピングできることが判明した。アサリ増し増しのカレーにエビ。池ちゃんの写真に写るカレーには、いつもこれでもかというくらいアサリが乗っている。

すぐに厨房に入ってアイスコーヒーを入れてくださる倉田さん。「はい、どうぞ。」カウンター越しにアイスコーヒーのグラスとコーヒーフレッシュを受け取る。シロップがないということは少し甘さのついたコーヒーなんだ。氷水ですでに潤してある喉にアイスコーヒーを流し込む。ほんのり甘い、疲れを吹き飛ばしてくれるコーヒー。

厨房に入った倉田さん。小鍋にカレーのソースを注ぎ、たっぷりのアサリとエビを入れて火にかける。店内には池ちゃんが撮影したテレビ東京のドラマ「サ道」や「鉄オタ道子」のポスターが。ポスターの中にいる玉城ティナさん、原田泰造さん、磯村勇斗さん、三宅弘城さん。みんな笑っている。池ちゃんの写真だなぁと思う。まだ息子が2歳になる前に、池ちゃんに写真を撮ってもらったことがある。まだ言葉を発する前の息子にも、この人は楽しい人だと会ってすぐに伝わったようで、終始ごきげんで撮影が終了した。池ちゃんを前にすると、人は自然と笑顔になってしまう。

「はい、どうぞ。もう今日最後だからエビ多めにしといたよ」

池ちゃんマジックでエビをおまけしてもらった魔法のカレーポットがやってきた。エビとアサリがソースから飛び出る量。

南インドバンガロールがルーツのボルツのカレー。10種類のスパイスがブレンドされたカレーソース。池ちゃんカレーの辛さはマイルドだったのだけれど、暑さを吹き飛ばすために今日は辛さを一段階上げてもらった。小麦粉を使わないカレーソースはサラッとしていて、灼熱の今日のような日にぴったりでした。

福神漬けは多め。大根の酢漬けと玉ねぎのヨーグルト漬けはスプーン二杯ずつ。ごはんの上に乗せてから、ソースをかける時間がやってきました。カレーポットの底までアサリ、そしてエビ。うっひゃー!おいしそう。

最初の一口目はソースがたっぷりスプーンにのるように慎重にすくう。これでもかという量のアサリ。玉ねぎも忘れずに。いただきます。

この暑い日に池ちゃんカレーを食べにきたのは正解でした。さらりと口に入っていく。二口目、三口目。食べ進めると時折、お腹から小さな太鼓の音がドコドコ、ドコドコとしてくる。辛さを足したスパイスカレーを食べた時のいつものあの感じ。ドコドコ、ドコドコ。いい刺激で、さらにスプーンが進む。

次は大根の酢漬けを足して、アサリ多め。その次は玉ねぎのヨーグルと漬けを足してエビ多め。食べても食べても海産物が目の前からなくならない。池ちゃんカレーおそるべし。

「カレーは飲み物です。」というウガンダさんの声が聞こえきそうなくらい、どんどこと口の中に運んでしまうカレー。ソースを吸ってもべちゃっとならないご飯の炊き方も手伝って、するすると口を通過して胃袋に流れていく感覚。お皿と口の連続運動でスプーンを忙しく行ったり来たりさせていると、ケトルを持った倉田さんがこちらにやってきてくれた。

「今日ね、錦町の会合があって少し店を早く閉めるからアイスコーヒーもこれで最後。お代わり飲む?」

これまた池ちゃんマジックでコーヒーのお代わりまで頂いてしまいました。ありがとう池ちゃん。ありがとうございます、倉田さん。

ははぁとアイスコーヒーのグラスをカウンターから献上して、冷えたアイスコーヒーをケトルから注いでもらう。よく冷えたアイスコーヒー。たくさん作ってケトルのまま冷蔵庫に入れてあるのかな。なんたる幸せ、ごちそうさまです。ぐっと飲み干したはずのグラスは、また魔法でいっぱいになりました。

さらさら、さらさらとカレーを口に運ぶたびに、胃の中では小さな太鼓がドコドコ、ドコドコ。合間に冷たいアイスコーヒーをチューっと飲んで、またカレーをさらさら、さらさら。夏だー!夏がきた!

注文してからカレーが出てくるまでも早い。すっきりとおいしいカレーはどんどん口に運んでしまうから、あっという間に食べ終わってしまった。

「ごちそうさまでした!」控えめに注文していた時とはうってかわって、大きな声でお礼を言いたくなる味。

次はアサリアサリエビにトマトもトッピングしてみよう。さらさらとカレーを口に運びながら、もう次に来た時のことを考えてしまうそんなカレーでした。

ゆっくりと扉を閉めて外にでるとやっぱり暑い。幸福な気持ちで心はいっぱい、あっという間に食べてしまったカレーでお腹もいっぱいだけれど、少し歩いて氷しるこかなぁ。1週間がんばったご褒美をもうひとつ追加。

池ちゃんカレーも誰かの好きなものが気になった食べ物なのだけれど、思えば氷しるこもそうだった。去年SAKRAJPにかき氷のことを書いたら、「僕も今日は竹むらさんで氷しるこです」と、ほぼ日の永田さんがあげてくれたツイートの写真がとってもおいしそうで一年越しで気になっていたのです。

今日は誰かの好きな気になるものを食べる日。錦町から須田町まで、また歩く。誰かの好きな食べ物がつまった神田はいつも楽しい。

神田錦町にあるほぼ日のTOBICHIで、7月18日の月曜日まで「ハオチー! 電鍋。クーアイ! 台湾。」開催しております。お近くにお立ち寄りの際にはお越しください。カレーや氷しるこもぜひ、ご一緒に。

体調に気をつけて、みなさまよい週末をお過ごしくださいね。今日も読んでいただき、ありがとうございました。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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