機嫌を良くする場所。

「よりによって、昨日までの3日間のデータが取り込めていない…」

写真の現像をしようとマウスを動かしていた手が、ピタッと止まりました。
更新は明日の8時なんです。SDカードはしっかりとデータ削除済みのクリーンな状態。私の心は全くクリーンではない。
事件です。映画館の写真が、ない。何もこのタイミングじゃなくてよくない?

これから新宿と吉祥寺にもう一度写真を撮りに行くか?
確実に閉館している時間だけど、外観だけ撮影してなんとかするか。

載せたかった写真ではあるけれど、原稿だけでも成立しないわけじゃない。
でもさ、やっぱりなんとかならないものかなぁ。

「SDカード・復元 ・MAC」強いタイピングかつ高速で打ち込む。
このサービスは安心なもの?口コミも検索してDL開始。
アプリのスタンバイができたところから、なかなかの時間がかかっておりまして、すでに3時間半が経過。

「こいけはなえの気になるもの」。

今週は、営業を再開した映画館をテーマにお届けするはずでしたが、ストーリーの軸にするにはあまりにも小さくて映画にはならない「SDカード 復元」という眼前の事態をテーマに、緊急実況中継をお伝えします。

ガッシャーン、ガラガラガラ。
(昭和のまぁるいちゃぶ台をひっくり返す音。ちなみに何遍ちゃぶ台をひっくり返しとんじゃいと思っていた星一徹氏は、なんと1回しかちゃぶ台をひっくり返していないんですって。)

いや、いや、いややーーーー!
せっかく今週、他の仕事を必死で終わらせて映画館のはしごをしてきたのに。
確かに目下一番気になってるのは「SDカードって、復元できるんでっか?」やけど、そんなんでSAKRA .JPの大事な1回を無駄にするのはいややーーーーーーーー!

はぁ、はぁ。額の汗をぬぐって、ちょっと落ち着こう。
イライラして目の前のチョコレートをどんどん口の中に放り込んで次々と片づけてしまう。

写真を載せられなかったら、それはもうしょうがない。
今日撮った紫陽花の写真でお茶を濁すか。
優雅にコーヒーを飲んでいた午後のひと時がうらめしい。

あぁ、それにしてもデータを復元できるかどうなのか、
この先の見えないじっとりした不透明な時間は、何かに似ている。
2月の終わりから5月末までのコロナ禍。
なるようにしかならないかという妙にスカッとした諦め半分、
でも早く収束しないかなの小さな期待半分。
(あたしのデータよ、カムバーック!)

この期間、ずっと気になっていた場所がありました。
もう勢いでテーマを出しちゃったけれど、今週は映画館のことを書きたかったんです。ここ数ヶ月、とても気になっていたミニシアターのこと。

記憶の中にある最初の映画館体験は、吉祥寺にあった東映。
子どもたちのおたのしみ、春・夏・冬の休みごとに公開されていた
東映まんがまつりを見ている幼稚園の年長さんだった自分。

映画好きの父に連れられて、大原麗子さんがマドンナだった「男はつらいよ〜寅次郎 真実一路」を見たのも吉祥寺。まだ小さかったわたしには、自由な寅さんとマドンナの恋模様よりも、粒あんたっぷりの柴又帝釈天の草団子の方がずっと気になる存在だった。

武田鉄矢のハンガーさばきが忘れられない「刑事物語 りんごの詩」を見たのは、吉祥寺のオデヲン座。家に帰ってから、木製のハンガーを探してトレーニングにはげんだことは言うまでもありません。

親なしで友達と初めて映画を見に行ったのは、ティムバートン監督の「ビートルジュース」。すっかりウィノナ・ライダーのとりこになって、一時期、黒い服ばかりを好むようにもなった(影響を受けやすい子ども)。ビートルジュースを見たのも吉祥寺のオデヲン座。幼少期のオデヲン率高すぎ。

大学生になってからは、背伸びしてミニシアターで上映される映画ばかりを見ていました。シネマライズ、六本木シネヴィヴァン、新宿シネマカリテ、池袋新文芸坐、渋谷シネクイント。
サブカル少女たちの話題は、シネマライズで見た「デリカテッセン」で、新文芸坐で見た「ひなぎく」で。これもシネマライズだったかなぁ、アキ・カウリスマキの「愛しのタチアナ」だったのです。本を読むよりも映画を見て、もやもやとうまく言葉にできない何かを感じていた時代。理解して考えるところまではいっていなかったかもしれないけれど、思って感じる大事な2時間とそれぞれの空間だった。

見たい映画を見つけた時に行けることが当たり前だった場所。
映画館に行けなくなる日が来るなんて映画のストーリーでもあるまいしと、実際には想定もしていなかった。映画的展開が現実に起きてしまった2020年。

お正月、韓国でみた「白頭山」この時は、好きな映画を好きな映画館で見ることができた。

今年に入ってからも映画館で見たい映画を見ていました。「白頭山」「傷つけない」(どちらも日本未公開)を韓国で、渋谷のTOHOシネマズでは待ちに待った「パラサイト」を。

映画館で見ることができた最後の作品は、「ジョジョラビット」。
急にスケジュールの空いたその日がレディースデーだったこともあって、シネクイントはほぼ満席。わたしが予約できたチケットは、入り口に一番近いスクリーン目前の右端の席。もうすでにコロナはどうやらやばいらしいぞ、という空気になりつつある時だったけれど映画館はめいいっぱいのお客さんで、だいぶ蜜だった。

日を追うごとに、イベントやコンサート、エンターテイメントに関する企画は次々と延期に。事態は、甘い方向へは進んでくれなかった。映画館に入れるのは、もしかしたら1年先になる可能性だってある。
2020年4月18日、ほぼ日本中の映画館が閉まった。

季節は春を忘れて、気がつくと夏の温度に。
緊急事態宣言が各地で段階的に解除となり、5月25日東京にもその日がやってきた。

おこもり期間中にはホン・サンス監督作品、韓国ノワールなど、NETFLIXやU-NEXTでこれでもかというほど映画を見た(お察しの通り、私は韓国映画がとても好きです)。小さなスマホの画面で映画を見れば見るほど、大きなスクリーンといい音で物語に集中できる2時間の空間が、恋しくなるばかりだった。

「アップリンク、6月1日から営業を再開します。」という映画ナタリーのツイートを見た時は、ちょっとだけ力が抜けた。ここまで踏ん張ってくれたミニシアターの皆さんには敬意しかない。
すぐに予定をチェック。2月に見逃した「スウィングキッズ」が18日まで上映されるようだ。吉祥寺のアップリンクシアター4は通常58席。コロナ対策で席は半分になる。最初に行こうと思った日曜日はチケットが完売。6月8日火曜日の15時台のチケットが取れた。予定が少し先に伸びたけれど、映画館にお客さんが足を運んでいるという事実はとても嬉しい誤算だった。そうだよね、みんな映画館で映画を見られる日を待っていたよね。

もうすでにU-NEXTでも配信が始まっている「スウィングキッズ」、でもやっぱり映画館で見るのが大正解の映画だった。「タチャ2」「サニー」とカン・ヒョンチョル監督の映画を見てきたけれど、「スウィングキッズ」の演出は圧倒的だ。ミュージカル「ロ・ギス」に着想を得て、朝鮮戦争下の捕虜収容所を舞台にした作品。タップダンスが物語の重要な鍵を握る。どのシーンも絵コンテを完璧に仕上げて撮影に臨んだそうだ。あのダンスシーンを全て想定していたなんて。スクリーンから目が離せない瞬間だらけだった。

北VS南、共産主義VS資本主義。「資本主義も共産主義も知らなければ、殺しあうことはなかったのに。Fuck you イデオロギー」というセリフ。「僕には踊る理由がない」と言っていた主人公ギスが、仲間とともに踊ることで、自分にはどうすることもできない現実にさらされることで少しずつ心を変化させていって、「僕はただ踊りたいんだ」と心からの想いをジャクソンに伝えることができたシーンも忘れられない(ジャクソンはマイケル・ジャクソンへのオマージュだそう)。最後は予想外の号泣展開で、帽子にマスクだったコロナ仕様が少しだけ涙対策にも役に立ったというオチがつきました。

映画館で撮影したデータがここに入る予定でした。カムバーック、my データ!

9日水曜日はシネマート新宿に向かう。「暗数殺人」と「未成年」と、キム・ユンソク出演の映画が2本上映している。タイミングが合う方をまずは見ようと、予約をせずに映画館に向かった自分がアホでした。この期間、映画館に行きたくて行きたくてうずうずしていた人たちがいたことは、昨日のアップリンクでも目視済みだったのに。(ソーシャルディスタンスをとったアップリンクの29席は平日15時の回も満席でした)シネマートは映画上映の当日0時になると、サイトからチケットの予約ができるシステムだとスタッフの方が丁寧に教えてくださったので、その日は大人しく家に戻り、0時を待ってすぐに翌日の「未成年」を予約。
自分の準備不足が不甲斐なかったので、映画欲をスマホでうめる。まだ見ていなかった「10人の泥棒たち」を小さな画面で鑑賞し、スタントなし、ジャッキー・チェンばりのワイヤーアクションをこなすキム・ユンソクを堪能。でもこれも映画館で見るべき映画だった。

10日は梅雨らしい、あったかい雨。昨日より人のいない新宿三丁目は、雨粒に反射するネオンでキラキラしている。

※えー、ここにも雨の新宿三丁目の写真が入るはずでした。映画は、想像力!皆様の想像力を拝借したい…。

この日もシネマート新宿のスクリーン2・30席は満席。名優キム・ユンソクの初監督作品「未成年」。「チェイサー」や「哀しき獣」、「1987、ある戦いの真実」では散々人を追いかけまくっていたキム・ユンソクが、「未成年」では娘から、妻から、浮気相手から、現状からとにかく逃げる。
情けない父の芝居もユーモアたっぷりでさすがなのだけれど、何より主人公の高校生2人、ジュリとユナの描き方が監督として素晴らしかった。ジュリが最後、とても重要な場面で「私は私のことが信じられない」というセリフがあって、昨年一番ハマった韓国ドラマ「椿の花の咲く頃」の「私は私を信じる」という主人公ドンベクのセリフと対になって、忘れられない一言になった。(対照的なセリフですが、実はどちらもとてもポジティブな意味なのです)「スウィングキッズ」と同じく、聞き逃したくないセリフがいくつもあって、映画館で見ることができてよかったと頭をぐるぐるさせながら、駅に向かいました。

もうすぐ日本でも公開の「ハチドリ」が表紙のユリイカ。ここにも雨の新宿が入る予定でした。

公開後少しだけ待てば、好きな場所、自分の都合の良い時間に作品を見られる時代。なぜ、自分は映画館に行きたいのか。映画館に行けなくなる日が来るまで、真剣に考えたことはありませんでした。
気を抜いて、面白そうな映画をザッピングする配信鑑賞だって決して悪くない。むしろ、映画を見る機会を増やしてくれている。でも、映画館では“映画とだけ”対峙できるのです。LINEにもメールにも家族にも邪魔されず、2時間ほどの作品と、濃く深く向き合える。

ある映画を見ようと思ったその日から、映画館に向かう途中、映画が終わってゆっくりと歩く帰りの道も含めて、日々のルーティーンから自分を取り戻す時間で。映画の中で初めて知った、思った、そこから考えたことによって街の景色が違って見える。今まで気づくことのできなかった小さな変化に目がいき、鋭く正直な感情を持っている自分に再び会うことができる。

ソウル忠武路にある映画館。1970~80年頃、忠武路周辺には映画会社や映画館が多く集まり、映画の町として知られるようになったそう。現在は映画会社が様々な場所に移転し少なくなったけれど、今でも韓国映画の代名詞といえば、「忠武路」と言われています。名優ソン・ガンホと、左は同じく名優チェ・ミンシク。2004年に日本で公開された「オールドボーイ」は、映画館で見た最初の韓国映画だった。

そして今週見た2作と2つの映画館に、もうひとつ教えてもらいました。

国をまたいだ旅が難しいこの時期に、自分の機嫌を健全に保つための身近で最良の時間が、映画館で好きな映画を見るという行為なのだということを。

更新直前報告:現在、更新日6月13日(土)の朝7:50。結局、アップリンク、シネマートへ足を運んだ3日間のデータは復旧できませんでした。データフッキュウマンが現れて、データがぐいーんと戻ってきてくれる映画のような奇跡は、起きず。むしろこのリアルな現実を突きつけられる感が、現代の映画っぽいか…。