オムライスがいいや。
BGMにうっかり選んでしまった浜田さんと槇原さん「チキンライス」のせいで、泣きながらこれを書いてます。うっかりしてた。松本さんが書いた歌詞、そうだった。そうだったよ。これ以上リピートし続けると涙腺が刺激され続けて画面の文字が滲んでしまう。慌ててYouTubeの一時停止ボタンを押す。
前々回のSAKRAJPに「七面鳥」のことを書いたら、中国語の先生SAKRAJPの火曜日担当ニホンコン先生からメッセージをもらいました。
荻窪繋がり~からの、そこから高円寺に引っ越して、結局10年住んでました!最初は光塩幼稚園のそばに住んでたので、いろいろ懐かしすぎる!七面鳥、実は私も行ったことがなくて最近やたら人に勧められるので気になってました。ちなみにトリアノンのショートケーキは、我が家誕生日には絶対買ってました。素朴で大好きです!!と熱く語ってしまった。もしまだ七面鳥再訪してなかったら、次の韓国語そっち方面にしませんか!ちなみに、私好きな食べものなんですか?って聞かれたら迷わず「オムライス」って言ってるほどオムライスLOVE♡です!
それはもうぜひ。ってことで、今月の中国語韓国語のレッスンは高円寺で行うことになりました。10時に待ち合わせて駅上のデニーズへ。「七面鳥」の開店が11時半なので一旦そこまで韓国語の授業。頭の中をオムライスでいっぱいにしながらも、授業を始めると語学に没頭するタイプの二人。気づくと11時30分を過ぎている。もう人がいっぱい並んでるかな。急ごう!
今年は梅雨入りが早いのか、ここ数日雨や曇りの日が続いていたけれどこの日は快晴。遠くに目をやると少し先の緑が白っぽくみえるくらいの日差し。半袖にオーバーオールがぴったりの陽気。
早口でお喋りをしながらも、店の近くまで来るとちょっと緊張してくる。人が並んでいるかな。まさかのおやすみ、では今日はないはず。あぁ、よかった暖簾がかぜに揺れている。
味自慢中華料理「七面鳥」。思えば真っ白の暖簾が店の外ではためいているのを見るのは、これが初めてでした。時間は12時前。カウンターとテーブル席が3席の店内は半分くらいお客さんがはいっている状態。あぁ嬉しい。やっと七面鳥のオムライスが食べられる。
「いらっしゃいませ。どうぞお好きな席に」
「奥に入っちゃおっか」
見出しが少しずつ見えるようにずらして重ねられたお客さん用の新聞が3紙並んだ角っこの席。混んでくることを予想して、あとから来るお客さんのために奥から詰める。無意識で選んだ席は、2代目が中華鍋を振る後ろ姿の見える特等席でした。
店の外に出ていた本日のサービス品のメニューを見て、強烈に心惹かれた韮菜炒猪肝ライス(ニラレバライス)も捨てがたいと思ったけれど、今日はやっぱり初志貫徹。オムライスだよね。
「すみません、オムライスを二つください。」
注文を完了した後。入り口の方を目をやると、ピカピカと光るドリンク専用の冷蔵庫。ビールの中瓶が私たちを呼んでいる。
「ビール…。いっちゃう?」
「うん!」
「すみません、ビールもひとつ。」
「冷蔵庫からご自由に選んでください。栓抜きは横の台の上に置いてあります。」
ちょっと足を弾ませながら、二人揃ってドリンクの冷蔵庫に向かう。紹興酒まであるね。でも今日はビール。どのビールにする?今日はニホンコン先生の好きな銘柄で。
冷えたグラスをふたつ手に取りながら品定め。
ニホンコン先生、今日はキリンのラガーを選びました。
漫画の並んだ本棚の上に置かれた栓抜きでプシュッと開封。グラスとビールの瓶を持ってそそくさと席に戻る。オムライスを待つ間、ビールのグラスを手に持ちながら、ちょうど視線に入る高さの壁に並ぶメニューを眺める。
「やっぱり、餃子も頼んじゃう?」
別の会話をしながらもずっとそのことを考えていたであろうニホンコン先生。もちろん全力で同意。
「すみません、餃子も追加でお願いします!」
餃子とオムライスを待ちながら、全部の料理の価格の安さに改めて驚く。餃子は一枚380円。横のお客さんの炒飯もめちゃくちゃ美味しそうだね。空きっ腹にしみていくビール。お腹がグーとなったその時、突き出しが運ばれてきた。
予想だにしなかったおまけってこんなに嬉しくなるものなんだね。二人で顔を見合わせながら、会話も弾む。芋の煮っころがしにも見えるまぁるいものは、しっかり味のしみた玉こんにゃくでした。一口噛むとぴりっと唐辛子の味もしておいしい。玉こんにゃく、食べたの何年ぶりかな。
しっかり水分をしぼってあるほうれん草のお浸しには、たっぷり花かつおがかかっていて、醤油をちょこっとたらして食べる。シンプルなお浸しが冷たいビールにこんなに合うってこと、このカウンターの白さと一緒に覚えておきます。
カウンターといえば。以前読んだdancyuの記事にこのカウンターは開店当時から変わらないものなのだと書かれていました。中華料理といえば油。ほうっておいたら、木はどんどん油を吸って真っ黒でテカテカなカウンターになるはず。この木の白さを保つには定期的に削るメンテナンスが必要。ビールのグラスの輪じみが申し訳なくなるきれいさ。
そうこうしている間にも新しいお客さんがどんどんお店に入ってくる。
「オムライスお願いします」
「肉野菜炒めお願いします」
店内に入ってからいろいろ気になって、自分たちの席が厨房の見える特等席だということをすっかり忘れていた。そうだ、オムライス。厨房で中華鍋を振り続ける2代目の横にはどんぶりにもられたごはんと多分玉ねぎのみじん切り。そこに鶏肉が乗っている。左斜め前にはカゴメのトマトケチャップの大きな缶。後ろに溶き卵。油をひいた中華鍋に滑り込んでいくごはんと具材たち。中華鍋の上で何回振られたらオムライス用のチキンライスになるんだろう。今日はそれどころじゃなかったけれど、またいつかこの特等席に座って回数を数えてみたい。
「オムライスの付け合わせのキャベツです」
今度は小皿にのったキャベツの千切りときゅうりのお漬物、たくあんとスープが運ばれてきた。韓国のパンチャンのようにカウンターの上が小皿祭りになる。
「えっと。オムライスっていくらだったっけ。」
「うーんと、650円。」
何をどうしたらこのお値段で提供してもらえるのだろう。家賃がかからないとか、安易に想像できる理由は思いつくけれど、きっとそんなことじゃない。小皿にもられた野菜もこんにゃくも、全部ちゃんとおいしいのだ。最後にはお客さんに喜んでもらいたいという一番シンプルな理由に行きついた。
「はい、餃子お待たせしました。」
ぱりっとおいしそうな焦げ目のついた餃子が6個やってきました。きれいな餃子のひだ。ぎゅっと焼き付けられた餃子の表面。熱々をいただきます!
ひとつ口に頬張った瞬間、もう一枚餃子を頼みたくなってしまう味。いやいや、我らにはオムライスが待っている。
餃子、ビール、餃子、ビールを繰り返しているとすぐにオムライスがやってきました。
あぁ。これがうわさの絶景オムライス。
玉子もぴっかぴか。きっと、おたまで一息でかけられたであろうトマトケチャップもぴっかぴか。「七面鳥のオムライスが食べたい」。そう思う人間がここに二人、新たに誕生しました。
一口目。スプーンにのったケチャップをそのままこぼさないように、慎重にスプーンの頭で玉子に切り込みをいれていく。ちょっと早めの速度でたまごとその下に隠れたチキンライスをすくって口に運ぶ。6歳からこの地に通っていて、12年間もすぐ横の道を歩き続けていたのにこのオムライスの存在を知らなかったなんて。
「そういえば町中華って今は当たり前のように言ってるけれど、いつから言い始めたんだろうね。」
今「町中華」と呼ばれるお店のこと、小さい頃は中華料理屋さんでもなくただ「ラーメン屋さん」と呼んでいた。
「BRUTUSとかdancyuで町中華って特集されるようになったのって、ここ数年の話だもんね」
調べてみると北尾トロさんの名前が出てくる。2014年に「町中華探検隊」を結成されて日本全国の町のラーメン屋さんを巡って、共著で本にして出版されたのが「町中華」っていう言葉が定着した最初なのかな。2014年。思っているより最近だったけれど「町中華」は自分の体にすっかり馴染んでいるおいしい言葉のひとつだ。
「外食でこんな風に幸せな気持ちになるの、なんか久しぶり」
ほんとにそうだね。餃子もオムライスもよく冷えたグラスで飲む瓶ビールも全部おいしいんだけれど、それだけじゃない幸せな食事が七面鳥にはあるね。
餃子、最後に一個ずつ食べよう。
千切りのキャベツも、きゅうりの漬物も沢庵も平らげた。スープも残さず飲み干してごちそうさまが言いたい。カップの底に一口分だけ残ったスープをレンゲですくうのが難しい。カップを傾けて、すべてレンゲにおさめてごくっと飲み込む。
「あぁ、おいしかった。すんごく幸せ。」
カウンターもテーブルもいっぱいの店内。外に並んでいるお客さんはいなそうだけれど、次のお客さんの幸せな時間のために食後はぱっと席を立つ。
「ごちそうさまでした!」
厨房にも聞こえるようにいつもより大きめな声で言いたくなる日。
先週、SAKRAJPのリーダーぐっさんから「これ、おもしろいよ」とメッセージをもらっていたYouTubeのチャンネル。その中でネタになっていた「チキンライス」。バタバタしていて開けていなかったチャンネルを見ていたら、本家本元の浜田さんと槇原さんバージョンを聴きたくなった。2004年の11月17日に発売された「チキンライス」。当時吉本にいて、この歌は散々聞いていたはずなのに、どんな歌詞だったのかをすっかり忘れていた。オムライスならぬチキンライスがテーマなんだけれど、クリスマスソングとして松本さんが書かれた歌詞には七面鳥が登場していた。
今日はクリスマス
街はにぎやか お祭り騒ぎ
七面鳥はやっぱり照れる
俺はまだまだチキンライスでいいや
「チキンライス」
作詞:松本人志 作曲:槇原敬之 YOSHIMOTO MUSIC CO.,LTD.
深く考えずにBGMで「チキンライス」を流しながら今回の原稿を書いたのは失敗だった。いい歌だったのは覚えていたけれど、こんな歌詞だったなんて。正直に言うと親に気をつかってチキンライスを頼む子供時代の自分ではなかったと思う。本人は大した考えもなく12年通った高円寺の女子校。文字通り汗水垂らして働いたお金で通わせてもらったことが、今ならよく分かる。町のラーメン屋さんが大好きな植木屋さんの父。雨で仕事ができない日に、よく車で学校の近くまで送ってくれたことをオムライスを食べながら思い出す。当時、七面鳥がここにあることを知っていたら、学校の帰りに一緒に食べて帰りたかった。
そういえば、もう少ししたらの父の日がやってくる。幸い土曜日が定休日の七面鳥。日曜日は営業日だ。今年は父と一緒にオムライスを食べにくるのもいいかもしれない。
オムライスとチキンライスにやられてしまった5月の4週目でした。またお天気が崩れてきていますが、みなさまどうぞよい週末をお過ごしくださいませ。