超人たちのレース裏方編
自らの存在を苦しみの中に投じられる。それは人間の持ちうる特異な性質です。
痛み、眠気、空腹、寒さ、そして心身の疲労。本能としては、避けるべき苦しみのはずなのに、進んで自分たちを苦しみに向かわせます。それがトレイルランナーです。時には笑顔すら見せながら駆ける、恐るべき存在。揃いも揃ってどうかしています。
そんなことを改めて思ったのは、週末に開催された100マイルレースに、スタッフとして参加してきたから。九州で初めての100マイル=160kmという超長距離レースです。トレイルランニングの大会では、山の中でフルマラソンより長い距離を走ることはざらにありますが、100マイルとなると別格です。
多くのランナーが丸一日以上、コース上に立ち続けることになります。体力だけでなく、精神力をも極限まですり減らしながら、それでも前へ。
「24時間戦えますか」という往年のCMを優に超えてくるタフな選手ばかり。超ブラックな2日間が過ごせることは必至です。
スタッフも長丁場。半日以上、暴風が吹きすさぶ山頂にて選手を待ち、誘導することも。体を動かして熱をつくることもできない分、スタッフの方が大変かも。頭が下がります。
僕はコースを逆走しながら、選手の様子を見回る役目でした。担当の区間は、九州の背骨である脊梁山地。熊本と宮崎の県境に連なる山域です。とても山深く、登山者が気軽に行けないので、ルートが不明瞭なエリアもあります。リタイアしようにも下山できる場所は限られ、水場もわずか。
こう書くと大変そうな山なのですが、手付かずの自然の美しさを堪能できる場所でもあります。落ち葉や苔の堆積した道はフカフカのじゅうたん。巨木の自然林や苔むした森が広がり、独特の雰囲気を生み出しています。
そんな区間を走るのだから役得、役得。楽しみながら逆走するものの、選手の表情が気になります。不調だったら、どうしようと。この日は風速15mの予報、午前は標高の低いところでも気温が0度前後というコンディション。ケガや低体温症。自分で動けなくなるトラブルが起きても、ヘリコプターでの搬送はムリです。
やってくるランナーと談笑しては、元気そうでよかったと胸を撫で下ろすのでした。自分が走るだけなら、気にするのは自分の体調だけ。スタッフ側に回ると、すべての選手が気がかりに。走り続けるのもキツいですが、裏方には裏方のキツさがあります。
人知れずハラハラしていたこともあり、無事に全選手が脊梁山地を通過したと聞いた時は、わがことのように喜べました。普段は逆の立場。心配をおかけしていることを知ったのでした。
面白いというか興味深いのは、上位のランナーでも、下位でも、楽しそうな表情と苦しそうな顔つきのどちらもいるということ。体力に比例しません。楽しそうでも、キツいのは確か。しかし、どこかに喜びを見出しているからか、足取りは軽く、前向きでした。
自分が置かれている状況をいかにして感受できるか。つらい、思い通りにならない。それがいい。と、思考できるようになれば、大半の逆境は乗り切れます。たぶん。
天然素材のストックを使うランナーもいました。ないから探す楽しみが増えるわけです。折れても、またいい木を探すという楽しみが生まれます。木の持ちようも、気の持ちようなわけです。
ここまで、なんやかんやと書いてきたものの、さらに長くなりそうな予感。時間が足りないので、いろいろ割愛して本日はここで終了です。2日目も勝手に逆走しながら写真撮影して、普段とは違う山とランニングを楽しめた週末になりました。おつかれ山でした。