スパイスがたのしい。

昨年末府中の市場に行き、アジア食材を扱うアジアンミールさんで「セロリシード」に出会ってからというもの。食材の買い物に出ても、本屋さんでも「スパイス」という文字が頻繁に目に入るようになりました。

「セロリシードはマヨネーズと混ぜてディップにするとおいしいですよ。」アジアンミールのようこさんに教えて頂いたセロリシードの気軽な使い方。フライを揚げた時のタルタルソースの代わりに、マヨ+セロリシードで食べるのにハマる日々。パラパラかけるだけで、劇的に味のかわるセロリシード。敷居の高そうなスパイス。だけどセロリシードは、かんたんでおいしい。

スパイスを使った料理といえば、ぱっと頭に浮かぶのはインドとネパール。

カレーはもちろんですが、ネパールを旅した時に何度もおかわりをしたスパイス料理がありました。「サーグ」と呼ばれる青菜炒めのようなもの。クミンがほんのり香る塩味の青菜炒め。ニンニクの香りがする時もあったけれど、とにかくやさしい味でずっと食べ続けられてしまう不思議なおかず。
ネパールの代表的な食事「ダルバート」。ダルと呼ばれる豆のスープとカレー、サーグとごはんと漬物のような存在の「アチャール」や野菜のおかず「タルカリ」がワンプレートにおさまっている。1日2回、ダルバートを食べるのがネパールの人たちの毎日の食のスタイル。泊まっていたコタンのホテルのダルバートに、どかっとのっていたサーグ。今まで食べたサーグの中で、一番印象深くおいしかった。
「おかわりどうですか?」大皿にのったサーグを店員さんがテーブルに持ってきてくれる度、手を上げてしてしまうほど。

久しぶりに経堂の雑貨屋さんstockへ。またチャイグラスを購入してしまった。

先週、何が食べたいかわからない日が続いていたのとはうってかわって、今週は無償にあのサーグが食べたくなりました。緑の野菜をいっぱい食べたい。お浸しでもなく、ナムルでもなく、スパイス香りのする野菜が食べたい。そんなことを思っていたからか、HMV&BOOKS SHIBUYAで『ダルバートとネパール料理』という本が目にはいりました。大阪で「ダルバート食堂」と「スパイス堂」東京の豪徳寺で「OLD NEPAL」というネパール料理屋さんを経営する本田遼さんの本。パラパラめくるとサーグやタルカリのレシピも載っている。ワクワクしながらレジに直行。自宅に帰ってメモを取りながら本を読んでいると、ブーメランのようにまたスパイスのことが気になり始めました。

その翌日、食材の買い出しの帰り。またもや本屋さんに足がむく。スパイス料理の棚を目で追っていくと水野仁輔さんの本がずらり。『スパイスカレー辞典』と『スパイスカレー』の2冊を何度も迷う。最終的に、スパイスの知識とスパイスカレーのメソッドが学べる『スパイスカレー』のほうを購入。そもそもおいしいカレーってなんだ?カレーを構成する具、ソース、スパイスのこと。スパイスの基本から組み合わせの比率のこと。玉ねぎの炒め方のこと。食材の切り方、合わせ方のことなどなど。スパイスカレーを美味しく作るまでに10年かかったという水野さんのたどりついたゴールデンルールが、順を追ってわかりやすく、びっちりと解説されている。

本田さんのネパール料理の本も、水野さんのスパイスカレーの本も、食材・調理その背景にある文化に至るまで。現在の調理の理論にたどり着くまでの時間と食に対する愛が溢れていて、ものすごい熱量でずっと話しかけられているような気持ちになりました。そして読み終えると、すぐに作ってみたくなる。

本日の参考文献。『スパイスカレー』水野仁輔さん著 発行元:パイ インターナショナル
『ダルバートとネパール料理』本田遼さん著 発行元:柴田書店

ネパール料理の基本のスパイスは6つ。フェヌグリークシード、チリパウダー、ターメリックパウダー、クミンパウダー、コリアンダーパウダー、クミンシード。
でもってこのスパイスがどんなスパイスなのかを知りたくなったら、水野さんの本を開くとスパイスについての細かな説明が載っている。

「フェヌグリークシード」
【科目】マメ科フェヌグリーク属・一年生草本
【別名】メティ、メッチ
【原産】中近東、アフリカ、インド
【部位】種
【風味】ほのかに甘い香りと苦味
【効能】食欲不振、不眠、ストレス
タンパク質やミネラル、ビタミンを豊富に含む。ベジタリアンの栄養源でもある。フレッシュ、もしくは乾燥した葉と乾燥した種の両方を使う。シードの方は少量を油で炒めると不思議と甘い香りが抽出される。使いすぎたり、加熱が中途半端だと苦味が強まるので注意。

今までスパイスとタンパク質って結びつかなかったけれど、「マメ科」の植物ならば確かにタンパク質になる。小さな驚き。ネパール料理のスタータースパイスになるというフェヌグリークシード。どんなスパイスなのか今まで全く知らずに、ネパール料理がただただおいしい、日本人の口にあうのはなぜなんだろうとぼんやり思ってきたけれど。フェヌグリークと油が融合した時に発するメープルシロップのような甘くこおばしい香りが、もしかしたら醤油がメーラード反応をする時の香りに似ているのかもしれない。そう考えると、日本人である自分がネパール料理に強く惹かれる理由もわかる。もうこれだけで面白い。

他に書かれているネパール料理の特徴は、「スパイスは少なめ」「ニンニク・生姜はたっぷり」「玉ねぎは強火で香ばしく」「塩は最後に全体のバランスをみて調整」。スパイスをたっぷり使っているイメージだったけれど、レシピを見ると、各スパイスの分量は小さじ1/2、小さじ1/3と確かにそう多くはない。

ネパールのおかず「タルカリ」の中心はじゃがいも。今日は冷蔵庫の掃除もかねて、じゃがいも・トマト・エリンギの三つでタルカリの材料決定。

インドもヨーロッパも日本もネパールも。カレーを研究し尽くし、知り尽くした水野さんのスパイスカレーの基本がまた面白い。どんなスパイスを使えばカレーになるのか。「黄、赤、茶」色のスパイスを最低3種とまず考える。黄色はターメリック。土っぽい香りを持つショウガ科ウコン属の多年生草本。原産は熱帯アジア。赤色はレッドチリ。ナス科トウガラシ属の多年生草本。別名唐辛子、カイエンペッパー。原産は南アメリカ。強く刺すような辛みと香りを持つ。茶色はコリアンダー。セリ科コエンドロ属の一年生草本。別名コエンドロ、パクチー。原産は地中海沿岸。コリアンダーの原産は南アジアかと思っていたら地中海沿岸だったことにも驚き。コリアンダーはインド料理に欠かせないスパイスだということも書いてある。「熟した種がペッパーのように刺激的で花のような香りを持ち、一方でどことなく甘い香りも漂う。他のスパイスと合わせた時にバランスを取る役割があり、『調和のスパイス』と呼ばれることがある。コリアンダーを多めの比率で加えると全体の風味のバランスが取れて食べやすいカレーができあがる。」フレッシュなパクチーの個性の強い香りのイメージからは想像できなかった、「調和のスパイス」という特徴にびっくり。今までのコリアンダーのイメージが一変。これから登場回数が増えそうだ。

ここに1種類加えてスパイスのベースが完成する。4つ目がクミン。ツンと刺激的な香りをもつクミンはセリ科クミン属の一年生草本。原産地はエジプト。ガラムマサラ、カレーパウダー、チリパウダーなどのミックススパイスには欠かせない存在。クミンといえばカレー以外ではキャロットラペに入れるのが定番のイメージでしたが、アフリカのクスクス・アメリカのチリコンカン・中東からモンゴル中国内陸部まで。世界の幅広い地域で使われているスパイスだということも改めて知りました。確かに、中華料理でラムとクミンを合わせた炒め物、あるある。そしておいしい。

水野さんのスパイスカレーのベースには、最初にクミンシードが登場します。植物油大さじ2〜4を温め、クミンシードを小さじ1入れて炒める。シュワシュワと泡立ってきたら、さらに炒めてクミンシードが少し濃い目の茶色になるまで炒め続ける。そしてそのあとに玉ねぎを投入。

シュワシュワ泡立ってくるのを見るのも楽しい。同時にほんのりいい香りがしてくる。

水野さんの本と本田さんの本で学んだスパイスの基本を組み合わせて、早速調理。スーパーでお買い得だった手羽元を使ってメインはチキンカレー。そしてじゃがいもとトマトとエリンギのタルカリ、菜の花のサーグを作ります。

じゃがいものタルカリ。今日はターメリック小さじ1/3、コリアンダーとチリパウダーを小さじ1/2ずつ。
にんにくとしょうがも大事なスパイス。たっぷりすって入れます。

鍋でクミンシードを炒めてから、スライスした玉ねぎ1個分を投入。強火で炒めて色が変わったら、塩を振っておいた手羽元500g、賽の目に切ったトマト1個分、みじん切りにしたニンニクとショウガをあわせて炒める。ターメリック、クミンパウダー、チリパウダーを小さじ2ずつ、コリアンダーパウダーは大さじ1と1/3。塩を小さじ1入れてサッと炒めてから、水600ccを注ぐ。煮込んでいる間に、菜の花のサーグを作る。太白ごま油大さじ1、クミンシード小さじ1、つぶしたニンニクをフライパンで炒めて菜の花1パック分を投入。塩をふたつまみとターメリックパウダーを小さじ1/3。途中で口をすっきりさせて味変も楽しめるようにカットレモンも添えて、プレート完成。

思っているより短い時間で、味わいは縦にも横にも広いカレーができました。スパイスってすごい。そして面白い。体型維持を気にしてか、欧風カレーやジャパンのカレーは最近一杯に留めているお年頃の息子もスパイスカレーの味に魅了されたよう。「おかわり!ごはんもいっぱいちょうだい」途中でレモンをかけて、味変も楽しんでくれていました。

本田さん、水野さんの本。そしてアジアンミールさんのおかげですっかりスパイスの虜になった2022年1月。明日には注文したインドのスパイスケースもやってくる。インドにもネパールにもあるスパイスケース。大きな丸い入れ物に小さなケースが7つ収まるようになっていて、それぞれの家庭の基本スパイスを入れて使うのだそう。我が家は、クミンシード、クミンパウダー、ターメリック、チリパウダー、コリアンダー、フェネグリークシードと最後はやっぱりセロリシードかな。

アジアンミールさんで教えてもらったセロリシード。水野さんの本で調べてみるとこんな解説が。「セリ科オランダミツバ属。原産は南ヨーロッパ。ほろ苦さとさわやかな香りが特徴。効能はストレス、不眠、喘息など。小粒だが、早く気よりも強い香りの印象を残す。噛むとパッとはじけるようなスパイシーな刺激があり、後をひく。インド料理ではトマトやじゃがいもなどの野菜と組み合わせることもあるが、肉にも合う。セロリソルトという、すりつぶしたセロリシードと塩を混ぜ合わせた調味料もあるほど。実はカレー全般に使える万能アイテムだ。」

セロリソルト!無類のセロリ好きとしては、たまりません。これも常備するようにしよう。肉にも合いそうだし、白身の魚に振りかけても、めちゃくちゃおいしそう。セロリソルトでナスやじゃがいものタルカリを作るのも旨いに決まってる。くいしんぼうの妄想がとまらなくなってきました。

スパイス初心者。まだまだ勉強することばかりですが、おいしくおもしろく。日常に気軽にスパイスを取り入れていきたいと思います。

まだまだ安心できない日が続きますが、みなさま穏やかな週末をお過ごしいただけますように。

<お知らせ>

2月2日(水)まで、渋谷パルコほぼ日曜日で開催中の「本屋さん、集まる。〜春〜」。and recipe が「旅とごはん」にまつわる5冊を選書させていただいています。山田が選書の2冊はこちら。小川糸さん『ライオンのおやつ』、茂木綾子さん『travelling tree』。小池選書の3冊はこちらです。石川直樹さん『全ての装備を知恵に置き換えること』、平松洋子さん『食べる旅 韓国むかしの味』、長澤信子さん『台所から北京が見える』。

and recipe のすぐ下の棚は、ヤンデル先生こと市原真先生の選書の棚でした。テーマは「料理をヨンデル」。旦部幸博さん『コーヒーの科学』、トーマス・トウェイツさん『ゼロからトースターを作ってみた結果』、太田哲雄さん『アマゾンの料理人』、中村和恵さん『地上の飯』、平松洋子さん『そばですよ』というおいしそうな5冊のラインナップ。

語学に新しいことの勉強時に。小池がことあるごとお世話になっている『独学大全』著者の読書猿さんの棚には、そうそうたる鈍器本が並んでいました。

たのしく散財間違いなしの「本屋さん、集まる。〜春〜」。渋谷にお越しの際にはぜひお立ち寄りくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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