まだ旅の途中です
2週間前に、山口から青森までを自分の足でつなぐ日本山脈縦走を終えたと思っていたのですが、実はまだ終わっていないのかもしれません。そう思うに至りました。
縦走中は、2カ月半にわたり、仕事もせずに日々ひたすらに歩いて、走って、登って下りてを繰り返しました。それがパタリと終わってしまったのです。
人間は同じ習慣に慣れ親しみ、心地よさを感じる生き物です。僕も多分に漏れることなく、毎日の日課となった「移動」がなくなり、戸惑いを感じています。非日常を日常にしていた分、縦走以前の日常をふたたび取り戻すのに時間がかかっているわけです。
苦戦したのがパソコンの立ち上げ。電源を入れたところで、パスワードがわからない。これは驚きでした。思い返してみると、2カ月もの長きに渡ってパソコンに触れないなどという事態は人生においてありませんでした。
それ故に、まさかパスワードを忘れるなどとは夢にも思いません。
四苦八苦して心当たりのある文字列を並べてみるが、いっこうに当たりにたどり着けず。道に迷って藪の中を右往左往しているかのようです。
そうこうしていると、所定の回数を間違えてしまい、ロックがかかり、いよいよニッチもサッチもいきません。なんだよ、ロックって。パスワードで鍵をかけてるのに、さらにロックとは、なんなのだ。ロックを解除するためのパスワードみたいなやつを要求されるも、そちらもよく分かりません。ヘッドライトなしで夜の山に身を置き、帰れなくなったかのように心許ない状態です。なす術なし。
もはや、これまで。そう思っていたのですが、データをクラウドで保存していたことを思い出し、初期化して難なくログインに成功。山頂を踏まずとも、迂回路から山を越えていくようなやり方です。手段になどこだわっている場合ではないのです。そう、大切なのは無事に進むこと。それでいいんです。
ひとまずホッとしていたものの、その翌日にパソコンを電車の中に置き忘れてみたり、うまく先々の予定が立てられなかったり。特に後者はマズかったです。予定を勘違いしていて、友人を怒らせてしまう始末でした。そのほか、大小さまざまな忘れ物が普段以上に多発、ニュース編集の仕事を再開したら、ノーベル賞受賞の一報が入っててんやわんやな日々を過ごしています。
下山するまでが登山といわれるように、日常生活に帰るまでが日本山脈縦走なのだとしたら、なかなか平穏な日常に帰れていない現状は、まだ旅の途中なのでしょう。社会復帰という最後のひと山はなかなかに手強いです。
まだ下山途中ですが、今回もおつかれ山でした。