組み合わせの妙。

月曜日に2回目のワクチン接種を終えて、翌日は大事をとって休みました。接種当日は、1回目同様、腕が筋肉痛程度の痛み。熱は平熱。24時に体温は37.1度になりましたが、さほどしんどくなく翌日を迎えました。昼を過ぎても体温は37度前半を行ったり来たり。左半身がズドンと重い感じがありましたが、夏休みが延長になった子どものために、昼食を作らなければらない。買い出しは済ませていたので、ささっとあさりのパスタを作って一緒にお昼を済ませました。夕方16時ごろ、少ししんどく感じて熱を測ると38.6度。何年ぶりかに見る体温計の数字。そこから少し眠る。18時半、晩ご飯を作るために起きて体温を測ってみると36.9度。倦怠感は抜けないものの、咳も鼻水もない。ずっと横になっている方がしんどいようにも感じる。ちょっと動いている方が、気が紛れるかな。夕飯の片付けの流れで目についたガス台の油汚れがきっかけで、キッチンを磨き始めてしまいました。

元気な時にやればいいものを、なぜこのタイミングで始めるのか。自分でもやれやれと思いましたが。身体の怠さに反して、ピカピカになっていくキッチンを見ていると気分がいい。たまり過ぎたタッパーを処分したり、調味料の引き出しを入れ替えたりしていたらそこからノンストップ。20時頃から24時前まで掃除をし続けていました。

ものをあれこれ整理していたら、布巾をいれる籠が欲しくなって検索。先週の土曜日から今週日曜日まで。イデーが「FROM THE WAREHOUSE MUJI AND IDÉE STORE」という期間限定ショップを、蔵前にあるスペースで開いているという記事を発見しました。世界中から集めた食器や籠のストック品、お店の展示品、手仕事の一点ものなどが並ぶらしい。倦怠感も熱もすっかり抜けた翌々日の夕方。蔵前まで足を運びました。

整理したキッチンの棚におさまる、ちょうどいいサイズの籠をすぐに発見。さっと選んで店を出ました。時間は、夕方17時前。このまま、夕飯を食べて帰ってしまおうと、はたと思いついたのが人形町の松浪。だいぶご無沙汰しているけれど、お好み焼きが頭に浮かぶ度、「あぁ松浪に行きたい」と必ず思い出すお店。こういう時期だし、開いているかなと思いながら電話をしてみると、17時半に開店とのこと。予約を入れて電話を切りました。

蔵前から人形町まで都営浅草線だと3駅。電車だと開店前に到着してしまうけれど、ぼちぼち歩いて行ったらいい時間に到着できるんじゃないか。グーグル先生を開く。蔵前から隅田川に並行して歩くとすぐに浅草橋。馬喰町、東日本橋を通って、20分ほどで人形町に着くようです。雨が降ったり止んだりしているけれど、ちょうどいい涼しさ。人通りのほとんどない裏通りをしばらく歩いて、江戸通りに出る。梱包用品を購入するのにしょっちゅうお世話になっているシモジマが見えて、あっという間に浅草橋に到着しました。

浅草橋と馬喰町は目と鼻の先。馬喰町駅のすぐ近く。神田川が隅田川に流れこむ少し手前の交差点に、なんとも佇まいのかっこいいビルを発見して思わずシャッターを切る。

イーグルビル。関東大震災後、東京市からの助成金で建てられた本格的な耐震耐火建築のビル。イーグルノート株式会社という表札も残る。大学ノートなどの卸問屋だったイーグルノート。店舗と住居を併設したビルだったそうです。

大正の終わりから昭和にかけて建てられたビルの中にあるコーヒー店。調べてみると、代々木公園のLittle Nap Coffee Roasterのコーヒー豆を使ったラテやコーヒーが提供されているお店でした。Little Nap Coffeeは事務所のそばにあって、夏はここのアイスラテにお世話になりっぱなしのand recipe。グッと親近感が湧く。

少し離れたところから、改めてビルを眺めてみる。「イーグルビル」6文字のカタカナの横に、「COFFEE」6文字のアルファベット。歴史あるビルと、新しいコーヒーの店。組み合わせの妙。心惹かれるものには、組み合わせの絶妙なバランスがある。

馬喰町、東日本橋を抜けて人形町に到着。時間は17時37分。だいぶ久しぶりにお邪魔した松浪でも、組み合わせの妙にうなることになりました。

「松浪」さん、お店が新しくなっていました。

鉄板焼き、お好み焼きの松浪。前職で、会社のみんなとここに来ると、必ず頼んでいた鉄板焼きのしいたけ。残念ながら今日は仕入れがないとのこと。三つ葉としいたけのバター焼きが絶品だった記憶。今日はしいたけの代わりにホタテを頼む。

まずこんもり盛られた三つ葉が到着。温まった鉄板にバターを落とす。一瞬で溶け出して、黒い鉄板の上をジュワジュワとすべっていく。

広がったバターの上に三つ葉の茎を乗せ、少し経ってから葉の部分を乗せて2本のフライ返しでバターと和える。醤油を数滴垂らして、少量お皿に取る。小皿に鼻を近づけて、まずは三つ葉だけの香りをかいだ後、まだシャキッとした食感の残る三つ葉を噛む。爽やかな香りが口の中にふわっと広がる。

バターのよく絡んだ三つ葉を端に寄せて、今度は少し遅れて到着した帆立を焼く。片面に程よい焼き目がついたら、ひっくり返してもう片方の面に焼き色がつくのを待つ。

三つ葉と帆立の間に醤油を垂らす。帆立から出た水分とバター、醤油がジュジュジュジューっと鉄板の熱で混ざっていく。フライ返しでた帆立を半分に切る。火が通り過ぎないように、重ねた三つ葉の上に乗せてから、帆立と三つ葉を一緒に口に運ぶ。はぁ。一気に力が抜ける。

三つ葉だけをバターと醤油で炒めたものも、美味だった。そもそも三つ葉のバターソテーを家で作ることは、ない。松浪に来てこそ知ることのできた味。もちろんそれだけでも美味しかったのだけれど。三つ葉と帆立にバターと醤油の組み合わせには、参ってしまった。ノックアウト。恐れ入りました。

松浪に来るとあさりと青ネギの入った松浪焼きは、メインディッシュ。まず鉄板で炒められるのは、しいたけだった。バター醤油で炒めたしいたけに三つ葉をのせると、やわらかい肉とハーブを一緒に食べているような感覚があって、記憶の中の味のベスト10上位に位置する存在だったのだけれど。帆立と三つ葉が口の中にやってきた時の驚きと言ったら。味の記憶ランキングがパタンとひっくり返ってしまった。バターと醤油の絡んだ三つ葉だけでも、バターと醤油の絡んだ帆立だけでも、こうはならない。そして、家のフライパンだとこうはならない。鉄板の温度も重要だ。この後、松浪焼もお腹の中におさめて帰ってきたのですが。今日の味のナンバー1は、ダントツ帆立と三つ葉の鉄板焼きでした。組み合わせの妙。ベストすぎた味のバランス。

帆立と三つ葉とバターと醤油。余韻を噛み締めながら、19時すぎに家に到着。前回、松浪にお邪魔したのはいつ頃だったのか、振り返ってみると7年ほど前まで遡りました。そんなに時が経っていたのか。語学院で猛烈に韓国語を勉強していた頃。毎週土曜日3時間の集中講座を共にしていたクラスメート翔씨(씨「シ」=さん)が、シンガポールに赴任になる前の送別会。おいしいものが好きな韓国人のインジョン先生と、日本食から暫し離れてしまう翔씨(シ)が喜んでくれるもの。そこで選択したのが、松浪の鉄板焼きとお好み焼き。あの時もやっぱり、最初にしいたけを頼んだ気がします。

仕事で海外を飛び回ることの多かった翔씨は、英語はもちろん、フランス語、中国語もペラペラ。もう1カ国語、話せる言語を増やそうかなと思った翔씨が、韓国語の語学院に入学。時を同じくして、小池も学校に通い始めました。最初はもう一人女性の方がいて、3人でレッスンをスタート。数ヶ月後、そのクラスの生徒は翔씨とこいけの2人になりました。語学に堪能。軽やかに新しい単語や文法を覚えて、流れるように韓国語で会話ができるようになっていく翔씨。向かいで教科書を開いている当時のこいけは、切実に思いました。私のせいで授業の進度を遅らせて、足を引っ張るわけにはいかないと。自ずと勉強を頑張る日々に。翔씨と二人だけのクラスでなければ、韓国語を勉強する日々の回数もスピードも、あそこまで上がっていなかったかもしれない。インジョン先生、こいけのヌナ(お姉さん)二人。当時まだ独身だった翔씨。恋愛ネタを突っ込まれても笑顔で、時にちょっとムキになったりして、よく笑わせてもらった韓国語のクラス。組み合わせの妙、というより組み合わせてくれた縁に感謝をしたくなる日々。

歴史のあるビルに新しいお店が入ってその場に命を吹き込むことも、またとない味の組み合わせも、人との縁とタイミングも。これだと思えるものに出会えることは、幸せなことですね。

雨続きで気温が急に下がっていますが、あたたかくして良い週末をお過ごしください。

こいけはなえの気になるもの。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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