手の仕事。
7月18日にHSK漢語水平考試を受けてから、ちょっと燃え尽き症候群のような状態になって、ガムシャラに勉強していた中国語の勉強のペースが、ここ最近明らかに落ちていました。
試験を受けて、足りていなかったヒヤリング。そのために有効な「Hello Chinese」のアプリでの勉強も、1日おきぐらいのペースに。毎月2回、ニホンコン先生の文化と言葉の両面がギュッと詰まった中国語の授業は、相変わらず面白く。いつもあっという間に、時間が過ぎていくのですが。
語学の勉強って、自分とやりとりをする、短くても濃く深い時間が必要で。わからないことがあったら辞書を引いて、そこから新しい発見をすることも大事だし、「あぁ、最近勉強サボってるなぁ。」みたいな独り言を、さっと今学んでいる国の言葉に変換してみたり。わからなければ、調べてノートに書く。そんな身近なところから、コツコツ勉強を重ねる時間が、かなり減っていました。
「だいたい1ヶ月後に、ホームページで合否の確認ができます。」
試験官の方が、テストの最後に言っていた言葉。もうすぐ、1回目のチャレンジの結果を知ることができる。クリアできていようが、再チャレンジになろうが、自分の思うことを自分の言葉で伝えられるようになるまでは、まだまだ遠い道のり。いつまでも燃え尽きている場合じゃない。そろそろ、リスタートしなければ。今週からまた、1日の勉強の時間と範囲を決めて、コツコツ積み重ねることを始めました。
毎日中国語に触れる時間を増やしたら、やっぱり語学の勉強は面白く。その先にあるいつかの旅に備えて、行ってみたい場所に出会えそうな本を手に取りました。
縫い物はもちろん、布や糸、ボタンなどの素材自体が好きなこともあって、世界のどこに旅をする時でも、その国の手仕事に触れることができる場面は、いつも嬉しい時間でした。2020年の1月29日に出版された奥村忍さんの『中国手仕事紀行』(青幻社刊)。日本や世界各地から集めた民藝・手仕事の生活道具のセレクトショップ「みんげい おくむら」を営む奥村さんが、足繁く通っている中国。その中でも訪れた回数の最も多いという、雲南省と貴州省の手仕事に出会う旅の記録です。生活の中にある道具を、その道具が使われている場面と共に知ることができ、その土地の匂いがぷ〜んと香り、山あいの民と会話をしている声が実際に聞こえてくるような本です。
本の最後の方に、「酸っぱくて辛くて香り高い料理」というタイトルで、貴州省の餃子とつけダレのお話が出てくるのですが。俄然、貴州のハーブやスパイスに興味がわきました。貴州の餃子のつけダレに必ず入るのは、折耳根(ヂューアールグン)というドクダミの根っこ。そして煳辣(フウラ)という焦がし唐辛子。折耳根の癖の強い香り。初めは驚いてしまうけれど、パクチーのように慣れてしまうと、これがないと物足りないと思わせる不思議なハーブ。小さい頃、家の庭に生えたドクダミを引っこ抜いたあと。思わず嗅いでしまった手の匂いが、45歳の鼻の先に現れました。一瞬、背けたくなる香り。慣れると美味しくなる食べ物には往々にして、ファーストタッチはごめんなさいと言いたくなる節が大いにある。その他にも、香菜、茴香(フェンネル)、芹菜(セロリ)、蓼(タデ)などがよく使われるのだそう。
そして、日本で聴き慣れない「木姜子(ムージャンズー)」というスパイス。山椒の実に似た形で、山胡椒とも呼ばれているそうです。その香りは、山椒と胡椒にレモングラスを足したようなものなのだとか。柑橘っぽい香りのする、ピリッとした山椒や胡椒のようなスパイス。う〜ん、おいしそう。羊の肉に塩と木姜子をふって、シンプルに焼くのもよさそうだなぁ。味の妄想が、ぼあぼあと膨らんでいきます。木姜子、現地では川魚や牛もつを煮込んだ「紅酸湯(ホンスアンタン)」という発酵トマト鍋にも、よく入っているスパイスなのだとか。紅酸湯という発酵トマト鍋も気になって、レシピをあさっていたら調べ物が止まらなくなってしまいました。(料理王国のページに、日本でできる貴州の発酵トマト鍋のレシピを発見。トマト、唐辛子、生姜、ニンニクを中国式の甘酒で発酵させる鍋の素。日本では、ミニトマトをオーブンで焼き切って、塩麹とナンプラーを使うと近い味になるのだそう。近々、必ず試してみよう。)
旅の記憶と共にある食べ物の記録は、もちろん大変魅力的で入り込んでしまうのですが、本のタイトルは手仕事紀行。雲南省や貴州省に住む少数民族の方々が作る美しい刺繍や染物の民芸品が、本の中にたくさん登場します。この本と同じ時期に購入した『世界の可愛い刺繍』(誠文堂新光社刊)で見てから、気になっていたラオスのモン族の刺繍。モン族を調べていくと、貴州省や雲南省に多く居住しているミャオ族に行きつきます。タイ・ミャンマー・ラオス・ベトナムそして中国に分散する山岳地帯に住む人々。「苗=ミャオ」は漢民族による他称で、自称はHmong(モン)族になる。『中国手仕事紀行』にもミャオ族のよだれかけや、松桃(ソンタオ)ミャオ族の前かけやスカートが登場します。
以前、旅をした上海・豫園の雑貨市場でも、色鮮やかな刺繍が施されたミャオ族のピアスが売られていて(『中国手仕事紀行』を読むと、あの時のピアスは観光客向けに作られたミャオ族風のものだったのかもしれないけれど)、刺繍の美しさに惹かれて購入したことがありました。王侯貴族のためでなく、庶民のため。自分たちのための刺繍。そして、身近な人を守る魔除の意味も持った刺繍。ミャオ族といっても、住む地域によって服装や施される刺繍にも違いがあって、その全ての刺繍を辿る旅をしようと思ったら、何年の月日がかかることになるのか。その中のいくつかでも、実際に布に針を刺していく現地の人々の姿も見ることができたら…。そう思うと、また中国語を勉強するエンジンがかかります。(勉強している中国の標準語「普通話」が、どの地域まで通じるかはともかく。)
コツコツ勉強を再開した数日後、谷中方面に用事があって訪れた the ETHNORTH GALLERY。キレイだなと手にとったバングルと指輪がミャオ族とつながりました。
「同じ柄がないんです。ぜひ、いろいろ試してみてください」
いつか貴州省や雲南省に、旅ができますように。このバングルを見るたび、指輪を見るたび、勉強を頑張るスイッチが入りますようにと祈りながら、最初に一目惚れしたものを購入しました。
美しい手仕事の施されたもの。思えば料理も手の仕事。おいしくなあれ、おいしくなあれと祈りながら食べる人のことを思って作るおふくろの味を韓国語で「손맛=ソンマッ」といいます。손は手、맛は味の意味。韓国語を勉強し始めて出会った言葉の中で、とても大切にしている言葉のひとつです。
ひと針、ひと針チクチクと針を進めることも、ひとつひとつもやしのヒゲを丁寧にとってから茹でて、ごま油と塩で和えることも。丁寧な手の仕事。料理に関わる仕事を始めてから、世界の手仕事により惹かれる理由。こんなところで繋がってしまった。
the ETHNORTH GALLERYで彼の国の手仕事に触れた後、斜め向かいの宝家さんでおいなりさんとかんぴょう巻を買いました。
先客は抱っこ紐をしたお父さん。たくさんのお寿司を注文されているようです。静かにお父さんの買い物を待つ赤ちゃんの足が、時折ぶらぶらしているのがかわいい。今日はまだ、赤ちゃんの口にお寿司は入らないのだろうけれど、いつか宝家のお父さんとお母さんのソンマッ、手の仕事をおいしいって頬張る日が楽しみだねと、心の中でそっと思う。
雨の被害がひどくなりませんように。お盆休みの最後、皆様どうか安全にゆっくりお過ごしいただけますように。