道は続く。
7月18日(日)朝8時の代々木上原駅。やってきてしまったHSK新汉语水平考試2級と3級の試験の日。快晴。
梅雨明けの暑い日。電車を待つホームで、太陽がじりじり首と背中に染み込んでいくのがわかる。
日曜日の朝で人もまばらのホーム。代々木上原から千代田線に乗って、表参道まで。半蔵門線に乗り換えて、半蔵門駅に向かう。今回の試験会場は千代田区三番町にある大妻女子大学。会場まで向かう道のり。にHello Chineseのアプリを立ち上げて、神頼みのよう問題を解き続ける。大妻女子といえば。バスケ部だった高校時代。対戦した大妻中野のバスケ部がめっちゃくちゃ強いチームで。自分たちのチームが前に出る機会が圧倒的に少なく、ボールをキープする大妻中野のチームの少し後ろを必死で走っていた姿を思い出す。あの夏の体育館もとても暑くて。自分たちの汗で滑らないように、雑巾の上にバッシュをのせて、テカっと光った床を床を何度も何度もキュッと拭いていた音が耳の奥で鳴る。会場がよりによって大妻女子大学って、げん担ぎ的には完敗の気しかしないのだけれど。当日を迎えてしまったからには、ただ受けるしかない。でもギリギリまで粘る。
SAKRA.JPニホンコン先生とのご縁のおかげで今年始めた中国語。毎月2回の授業は楽しくて、いつもあっという間に時間が過ぎてゆく。ただ、近い地点に言語を学習するモチベーションになることがないと予習復習、日々の語学勉強の継続はなかなか難しく。仕事や家事を言い訳に、つい勉強をさぼってしまう。今は、少し先に旅のチケットを予約して、そこを目指して勉強することが難しい。いつになるかわからない、かの国への旅は、学習の根っこにある一番の動機ではあるのだけれど。いついつまでに、ここまではできているようになりたいという、具体的な目標を立てることがなかなかできずに、日々が過ぎて行ってしまう。
そこに自ら打ったクサビ。のんびりペースで半年続けてきた中国語。試験前の1ヶ月で、慌てて詰め込み。半年という時間があれば、ここまではできたはずなのに。アプリと教科書の復習をしながら、もったいない時間をあそこにも、ここにも落っことしてきてしまったなと後悔する。その数秒後には、後悔するより1個でも単語や新しい文法を覚えて復習しなさいと頭のテッペンから指令が下る。あの時の大妻中野のチームのように、全く歯が立たないものなのか。ちょっとは酬いることができるのか。足取りが、重くなったり、早くなったりしながら半蔵門の駅に到着した。
半蔵門駅五番出口を出て徒歩5分。この道をまっすぐいくと大妻女子大学に到着するはず。試験の受付は9時10分から。9時30分には2級の試験が始まって、1時間ほどで試験が終了する。この時期に試験を受ける人が、どのくらいいるものなのだろうと思っていたけれど、9時前に会場に到着した人たちが正門をくぐって消毒をし、体温を測って各級の試験会場となる教室を探して階段を上がっていく。席の間隔を保つために、同じ級を受ける人たちが、3つの教室に別れて試験を受ける。試験票を机の上に置いて、筆記用具を並べると少し緊張感が増す。しっかりクーラーのきいている教室で、汗がじんわり首元に浮かぶ。ノートを1/4に折ったオリジナルの単語帳で、復習をしている人。過去問の問題集を眺める人。私が入った教室は、男女の比率が半々ぐらい。お母さんの付き添いで試験を受けにきている中学生か高校生くらいの男の子から、お年を召した方まで、年齢層は様々だった。皆さん、どんなきっかけで中国語をスタートしたのかな。これから1時間、同じ山に挑む方々。
試験前の数十分を、それぞれのスタイルで過ごしている背中を見ながら、ここ最近、毎週木曜日に配信を待っている「賢い医師生活」の台詞が浮かぶ。イクチュン、ソンファ、ジョンウォン、ソッキョン、ジュンワンの医師5人が患者さん、患者さんのご家族に言う言葉。최선을 다하겠습니다.(チェソヌル タ ハゲッスンミダ)「最善を尽くします」。
それぞれに最善を尽くせますように!
9時30分。黒板の前に試験官が立ち、これからの試験の流れを説明する。2級は听力(聞き取り)と阅读(読解)の2パート。まず音声のチェック。「後ろの方、この音量で聞こえますか?大丈夫そうですね。では、回答用紙を配ります。」回答用紙に続いて、シールで封をされた試験問題が机の上に置かれる。「それでは、封を開けて試験問題を開いてください。」
中国語で試験のアナウンスが流れる。女性、男性二人の音声。同じ内容が2回流れる。試験の例文が読み上げられた後、「现在开始(シェンツァイカイシ)」の一言を聞いて、いよいよと2Bの鉛筆を握る手に力がこもる。写真を見て、音声の状況と写真の内容があっているか間違っているかを答える問題。2級の内容は優しいはずなのに、思ったより全然聴き取れない。これは大妻女子に完敗か。まだ2級の試験なのに。目を閉じて音に集中する。聞き取れる単語はメモしていく。
聞き取り問題35問。配点は100点。3分のインターバルをはさんで、次は読解問題35問。配点は100点。合計200点の6割、120点が合格ライン。読解問題で挽回できるのだろうか。
読解の試験が始まると、音声はなく、それぞれのペースで受験者が回答をしていく。回答を終えたページをめくる音にズレが出る。周りのカシャカシャという音よりも、目の前の読解問題に集中。思ったより聞き取りができなかった気持ちの落ち込み。読解は、パーッと道が開けたようにわかる問題が続く。最後まで、最善を尽くそう。
マークシートを塗りつぶし、読解パートの22分が終了。2級の試験が終わりました。短くて長い1時間。短くて、濃い1時間。聞き取りと読解の試験の順番が逆だったら、落ち込み度が違っただろうな。だめからの挽回の順番で助かった。後半戦は、なんとか食い下がった。
答案用紙、試験問題が回収され、机ごとに時間差で退出。
こいけ1「は〜!これで終わりだったらどんなによかっただろう。午後の試験、受けないで帰れたらどんなにいいだろう。誰に言われたわけでもない。自分で申し込んだものだから、受けずに帰る選択肢だってある。今日はもうやめちゃう?」
こいけ2「いやいや、クリアできなそうだとしてもここまできたらチャレンジしないで帰るのはないでしょ。」
数分の間に小池1と2が戦う。もちろん、2の圧勝。3級の受付が始まる時間は13時10分。だいぶ時間がある。この時間もアプリで音声をできるだけ聞いて、口に出して身体に音を染み込ませよう。
日曜日ということもあって、空いているお店は少ない。半蔵門と逆に向かって歩いてみたら、何かあるものかな。唯一空いていたセブンイレブンで、オニギリをひとつとチキンのサラダ、麦茶を買って大学の方に戻る。公園があったらベストなんだけれど近くにはなさそうで。試験会場の校舎の前にあった、大学院の校舎のベンチに座る。おにぎりを口に押し込み、アプリを立ち上げる。ギリギリまで、やれることはやろう。
日陰に座って勉強を始めたはずだったのに、首元がじりじり焼けて痛い。2級と3級の試験の間に、太陽は西に向かってゆっくりと移動していた。
かって知ったる会場になった大妻女子大学に戻る。今度の会場は何階かな。3級は13時30分から約100分間。听力(聞き取り)が40問、阅读(読解)が30問に加えて、記述の10問が加わる。聞き取りがまた難関になりそうだけれど、やれるだけやろう。3級試験の教室は圧倒的に若い人たちが多い。同じ大学の同窓生なのか、挨拶を交わす光景を何度も目にする。大学生に囲まれた45歳、背水の陣の試験を受ける。
「现在开始(シェンツァイカイシ)」
2級以上に集中して。諦めずにわかる言葉を拾っていこう。聞き取りはやっぱり高い山。メモを取りながら、確率の高い回答を選ぶ。読解パート。名詞・動詞・形容詞・介詞ごとにバンバン斜線を引いて内容を読み解く。分かるものが多くて、少し落ち着きを取り戻す。記述のパート。ピンインを見て文章にあっている漢字を5つ書く。そうして、長いようであっという間の100分間が終わった。
あぁ〜〜〜!脳味噌の疲労感。階段を一段一段ゆっくりと踏みしめながら、頭を両手でぐわしと掴んでマッサージ。
試験を終えて、半蔵門に向かう道を歩きながら3級の教室で試験を受けていた若い人たちのことを思う。就職に有利なようにとか、単位に必要だとか、合理的な理由があって試験を受けているのかもしれないけれど。こういう時期に新しい言語を学んでいる人たちがたくさんいることは、なんだかとても嬉しいことだった。
言葉はひとつの手段に過ぎないけれど。人間は万国共通、言葉でものを考える生き物だ。その国の文字、単語、文法を学びながら、新たな表現を身体に入れて、その国に生きる人々が大切にしているものを感じて、知る。異なる言語と日本語を行ったり来たり、何度も往復しながら、外国語を学んでいる時間に、鏡のように母国語を眺める。
同じ言語を使っていても、言葉で通じ合うことが簡単ではない時代。自分と自分の国を、少し離れたところから見てみることで、新しく自分と自分の国に出会う、理解をし直す。視点をちょっと道の先に置くために、新しい言語を学ぶ。新たな言語と格闘している時間は、自分と自分の国を知る時間でもある。
どの国の言葉もAIが精度の高い翻訳をしてくれる時代が、もうすぐそこまできているけれど。自分の言葉で、伝えたいことを伝えられるように。自分で決めた旅先で、自分で決めた道を選んで歩き続けられるように。完敗の試合の後も、勉強は続く。面白く、続けていく。
試験はゴールではなくて、一つの区切りに過ぎないけれど、勉強のいいペースメーカーになってくれる。今回の結果は1ヶ月後。8月には、また次にチャレンジする日を決めよう。さぁ、せっせと勉強。
暑い日々が続きますが、皆様よい週末を。よい夏休みをお過ごしくださいませ。