2層のチーズケーキ。

今週の半ば。広尾で撮影の予定がありました。撮影後、次の予定まで少しゆっくり時間のある日だったので、心に決めていることがありました。帰りに中目黒までお散歩をしながら、しばらく食べていなかったヨハンのチーズケーキを買って帰ろう。

ヨハンは1978年に開店した、目黒川沿いのチーズケーキ屋さん。スタンダードなチーズケーキの「ナチュラル」、甘みをプラスした「メロー」。甘酸っぱさが魅力の「ブルーベリー」、この日のお目当てにしていたサワークリームとチーズケーキが2層になった「サワーソフト」。4つの味のチーズケーキを販売しているお店です。

広尾、恵比寿、代官山から中目黒までの道のり。新卒で就職した会社のあった溜池山王から、当時住んでいた学芸大学まで。夜中に仕事が終わって、電車のない時間。すぐにタクシーに乗るのが、なんとなく嫌で。歩けるところまで歩いて疲れたらタクシーに乗ろうと、六本木通りから駒沢通りまでずんずん歩く。気がついたら学芸大学まで到着しているということが何度かあった、ちょっと思い出の深い通りたちです。会社を出発する時は、疲れ切っていたはずなのに。学芸大学まで歩ききったら、心がすっきり軽くなっていたことを、この辺りを歩くと思い出します。

この日は、お昼ご飯を食べ逃していた。どこかで遅めのランチと思ったけれど、時間は15時を過ぎている。間違いなくランチ難民タイムだよねと、頭の片隅では気付いていたけれど、おいしそうなお店を覗いて回る。

案の定「準備中」の看板がこちらを向いていて、やっぱりと肩を落としながら歩く。撮影中もグー、キュルキュルと鳴っていたお腹。前から何やらいい匂いのする白い袋をもった人が1人、2人と横を通りすぎていきます。腹ぺこ時のおいしいものレーダーは、我ながらよく働く。この近くに、鯛焼き屋さんの「ひいらぎ」があるじゃないか!チーズケーキを買うと心に決めてきたのに、鯛焼き…と思いつつもダブル甘いモノも悪くないじゃないか。ひいらぎに急ぎます。

2分ほど歩くとありました。ガラスの向こうには、出番を待つ鯛焼きたちがずらりと並んでいる。私の前には2人ほどお客さんがいて、みんなその場で食べる鯛焼きと持って帰る鯛焼きの両方を購入しています。

腹ぺこのお腹。わたしも前の人たちにならって、その場で食べる鯛焼きを1匹と持ち帰り用を2つ購入して、その場でかぶりつく。頭のてっぺんから尻尾の先の先まで、甘さ控えめのあんこがぎっしり。背鰭からは、あんこがちょっとはみ出ています。熱々をぱくり。空っぽのお腹があんこで満たされていきます。中目黒のヨハンまで歩ける元気が一気に沸いてきました。あっという間に鯛焼きを平らげて、駒沢通りを歩く。1999年から2003年ごろ、この辺りに本当によく買い物に来ていました。仲良しの双子の店長がいるセレクトショップに通い詰めたのもこの時期。古着屋さんや、個人のブランドのお店もたくさんあって。現場と現場の合間にヒョイっと立ち寄って洋服を見るのが楽しみかつ、仕事に向かうエネルギーをチャージする場所でもありました。

よく通ったお店のあった場所には、全く違う業種のお店が入っていて。最近はこの辺りに服を買いに来ることもなくなってしまった。恵比寿から代官山に抜ける槍ヶ崎の交差点の辺りまで。歩いていると、少しだけ寂しい気持ちになります。

槍ヶ崎の交差点から中目黒に抜ける道もよく歩きました。代官山、中目黒に点在するハリウッドランチマーケットを運営する聖林公司系列のお店。当時よくはしごをしていたのですけれど、駒沢通り沿いのお店はなくなってしまった。この先にはTOLL FREEがあったはず。久しぶりに覗いてからヨハンに行こうと思ったら、2020年の12月に閉店という看板。ちょっとスパイスになるような服を探しに、よく通ったお店。そうかぁ。そうなのかぁ。

目黒川沿いにあったオーガニックカフェも、今はなくなってしまった。カフェがあちこちに登場した時期。代官山や中目黒の街を特集した雑誌を片手に、お店に通った日々を思い出す。あの頃と随分街の様相は変わったけれど、まだ健在のお店ももちろんある。いろは鮨や大樽を眺めながら川を越える。チーズケーキ屋さんのヨハンもそんなお店のひとつ。

「こんにちは。」

「いらっしゃいませ。」

ガラスケースを眺める。あ、やっぱりこの時間になると売り切れているものもあるよね。

「ごめんなさいね。今日はもうブルーベリーしか残っていないんです」

むむむ。その可能性もあるとは思っていた。けれど、昨日から頭の中は、サワークリームののった2層のチーズケーキ、サワーソフトのことでいっぱいだったんです。

「大きい方のケーキも売り切れですよね」

「そうなんです。ごめんなさいね」

「あ、いえいえ!とんでもないです。そうしたらブルーベリーのケーキを3つください」

「お手提げ有料になりますが、いかがいたしましょうか」

「大丈夫です。ありがとうございます。」

JOHANNのシールが貼られた紙袋に三角のケーキが三つ。ブルーベリーももちろんおいしい。おいしいのだけれど、なんだかこの日の自分は諦めが悪く。ブルーベリーのチーズケーキはぺろりと美味しくいただいて。

でもやっぱり、どうしてもサワークリームののったチーズケーキが食べたくて。翌日、ヨハンのサワーソフトに近いケーキを作るという選択に。グラニュー糖のかわりに、メープルシロップを入れて作る2層のチーズケーキを作ります。

室温にして柔らかく練ったクリームチーズ400gに、メープルシロップ200gを数回に分けて混ぜます。

全卵4個を混ぜ合わせて丁寧に濾す。

3回に分けてクリームチーズに卵を入れて、滑らかになるまで混ぜる。

18cmの丸型にクッキングシートをセットして、生地をゆっくり流し込む。はぁ、メープルシロップのいい香り。

150度に温めておいたオーブンで、じっくり50分焼く。焼いている間に、2層目。食べたい食べたいと願っていたサワークリームの部分を用意。サワークリーム350gに、メープルシロップを30g混ぜ合わせます。ちょっと我慢できなくて、サワークリームをぺろり。この酸味。これこれ。

焼き上がったクリームチーズのケーキが冷めるまで、しばし待機。2層のチーズケーキ。美味しく食べるまで、待つのも大事な仕事。

荒熱がとれたら、先ほどのサワークリームをスプーンですくって少しずつ生地に落とす。そしてのばす、を繰り返す。なるべく手早く。ぽとん、スーッと。

チーズケーキが白く染まってきました。

もう一度、150度のオーブンで5分ほど焼いて、サワークリームが熱で平らになったら焼き上がり。網に乗せて、しっかり冷まします。

焼いた時点で気付いたけれど、これ明日までお預けなんだよね。このまま冷蔵庫でしっかり冷やします。

翌朝、マジックアワータイムの午前6時。念願の2層のチーズケーキがわたしの口の中にやっとこさやってきました。ヨハンのサワーソフトとはちょっと違うけれど、サワークリームの酸味がおいしいケーキができました。しっとり柔らかく、食感はレアチーズケーキとベイクドチーズケーキの間くらい。メープルシロップの甘さって上品でいいな。朝から、お腹いっぱい。ごちそうさまでした。

うん?でもよく考えたら、サワーソフトを買えなかった次の日。早めの時間にお店に行って、チーズケーキを買えばよかったんじゃないか?食べたいと思った日から、口に入るまでにトータル3日かかってるじゃん。まぁ、これも一興。あと2日くらい、ホールのケーキを楽しむことができるし、悪くないか。

今週もお疲れ様でした。皆様、すてきな週末をお過ごしくださいね。

こいけはなえの気になるもの。

(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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