花も団子も。

「東京の桜が満開になりました。」

「気になるもの」にあんみつのことを書こうと、湯島に行く予定の前日。朝のニュースのお天気コーナーで気象予報士の方が話をしていました。

甘味好きなら、ここのあんみつは食べておかないと。なんどとなく聞いていたお店。陸前高田のCAMOCYであんみつの話になった時、CAMOCYクラフトビール屋さんのオーナー克郎さんが、昔ここの店長をしていたことがあったと聞いて、俄然興味がわきました。創業は明治42年。氷業からスタートしたお店「みつばち」。100年続いているお店。「みつばち」のホームページを見ながら、何を食べようかと妄想を続けておりました。

午前中にまとまった時間ができる日に、お邪魔しようと予定していたのが23日。普段は花より団子のわたしも、桜が満開となると、花も団子もと欲張りたくなってしまう。出発の時間を少し早めて、あんみつ、近くでもう一軒気になっていた天ぷら屋さん。そして上野公園を散歩をしながら、桜を見て帰る予定に変更しました。

朝10時30分、代々木上原駅で千代田線に乗車。23分間電車に揺られて湯島に到着しました。湯島、上野、千駄木、本郷三丁目。ぐるっと20分弱の徒歩圏内に気になるお店がひしめいている。地下鉄の階段を上がって、道路の標識を見ているともっと時間をとってここにくればよかったなぁと少しだけ後悔する。

お店に向かう、短い歩数の間の少し先に不忍池があって、白い花が大きなかたまりのように見えている。すぐに桜を見たい気持ちもありながら、まずは花より団子。みつばちに向かいました。

Googleマップに言われるがままに歩を進めると。駅からすぐの天神下の交差点に、豆大福で有名なつる瀬がありました。ガラスのショウウィンドウに並ぶ大福とどら焼きにも目を奪われる。されど今日のお目当てはあんみつ、と心に言い聞かせて、まっすぐ進む。少し歩くとドンキホーテの看板が見えてきました。みつばちはドンキの近くのはず。道の向かい側に目をやると「インド・パキスタン料理専門店デリー」の看板。デリーのカレーかぁ。なんとも魅力的。みつばちの並びには、干物の丸赤もある。なんだ、このおいしいものの密集地帯は。

スナック、歯科医院、飲食店の看板がひしめく中に、ひっそりと流れるような平仮名の文字。「みつばち」を見つけました。駅からお店まで、3分ほどの間の誘惑の多さ。なんとか打ち勝ってここまでたどり着く。ほっとしたのも束の間、甘味処の入り口に直行すると、並んでいます。食品サンプルの甘味たち。あんみつ、栗くるみあんみつ、そしてみつばちの歴史そのものでもある小倉アイス。寒天にたっぷりの黒蜜ときな粉のかかったサハラ(きな粉はサハラ砂漠をイメージしているのだそうです)、お汁粉など。魅力的なメニューがまた、わたしを惑わせます。あんみつと一口に言っても。白玉をのせるのか、あんじゃなくてみつ豆にするのか。小倉アイスは食べなくていいの?う〜ん。ここは、全部盛りでいきたい。

お店に入るとレジで先にお会計をするスタイル。もう迷えない。

「小倉アイスのあんみつをください」

「白玉はのせますか?」

「あ、はい!ぜひ、のせてください」

予想外の注文の速さに、正確なメニュー名を覚えておらず。大事な白玉がぬけていた。危ない危ない。あんみつに白玉は、必須じゃないか。開店からまだ30分ほどしか経っていない店内。一番乗りだったおかげで、あたふたしていた様子は他の誰に見られることもなく。ほっとしながら、一番奥の席に座りました。そうそう、お土産に何を買って帰るかも考えておかないと。甘味処の入り口に「特選 黒蜜」と書かれた商品もあった。蕎麦屋さんで見るような紅漆の入れものが並んでいた。

少しすると常連さんらしきお婆様が御来店。迷うことなく「クリームあんみつをお願いします」と注文して、入り口に近い席にスマートに座った。次回みつばちにお邪魔する時には、あんな風にすっと注文できるかな。いや、きっとまた大いに迷ってしまうんだろうな。

平日の午前中、店内はとても静かな時間が流れている。時折聞こえてくるのは、キッチンの方から金属の入れ物をシャカシャカ混ぜる音。春日通りを通る車が、店を通り過ぎるタイミングのシュン、シュンという音。他に余計な音が何もしない。

「お待たせしました。黒蜜をかけてお召し上がりください」

「ありがとうございます」

蕎麦湯じゃなくて、ここに黒蜜がたっぷり入っているんだ。う、なかなかの重量。右手にカメラ。慣れない左手で、黒蜜をゆっくりあんみつに垂らしていく。あれ?黒蜜ってもっとドバッと出てきちゃうものじゃなかったっけ。傾けても傾けても、チョロチョロとゆっくりとしか落ちてこない黒蜜。大胆に入れ物を斜めにすると、顔を出してくれました。粘度の高い黒蜜。食べるのが楽しみです。

みつばちは元々氷屋さん。甘味処をはじめた時。余った小豆がもったいないと創業者の嶋田当与さんが、アイスクリームを作る氷の入った桶に小豆を入れておいたところ。小豆の周りが凍って、とてもおいしい食べ物ができた。そこから小倉アイスの歴史が始まっているんだそうです。乳脂肪分0の小倉アイスは、シャクシャクとした爽やかな食べ心地。小豆のほんのりした甘さとさらっとした口あたりの冷たさが、抹茶の求肥とよく合います。小倉アイスの下には、白玉が隠れていました。たっぷり黒蜜をからめて食べる。今度はもちっとした白玉と甘酸っぱい杏を一緒に。一番底には、小さくカットされた寒天と赤エンドウ豆。ここにも黒蜜をたっぷりからめていただきます。バナナと黒蜜も合う。

蜜の濃さ!

夢中であんみつと対峙していたことが急にちょっと恥ずかしくなって。顔を上げると、店内はあいかわらず静かな時間が流れている。キッチンからは金属の入れ物をシャカシャカ混ぜる音。あんみつの入った陶器の入れ物と金属の小さなスプーンがカンカンとあたる小さな音。斜め向かいのお婆様のあんみつは、もう残り少ないようです。最後に紅いさくらんぼうをポンと口に放り込み、するりと種を出して、わたしもファーストみつばちのあんみつ体験を終えました。

春日通りにまわって、みつばちのショウウインドウを眺めると、あんみつと一緒にたくさんのアイスクリームが並んでいました。時折聞こえていたシャカシャカという音。小倉アイスの入った金属の容器を混ぜる音だったんだ。あのシャカシャカのおかげで、口の中で滑らかに溶けるアイスを食べることができていたのか。

早口言葉のようですが。お土産にみつばちのあんみつをみっつ購入して。デザート、お昼ごはんと順番は逆になるのだけれど、もうひとつのお目当ての天丼を食べに向かいました。Google マップを見る。楽しみにしていた「天庄」さんはちょうどみつばちの斜め向かい。丸赤といい、デリーといい、天庄さんまで。徒歩2分圏内にこんなにおいしいお店が集まっているとは。天丼のことを書き出すと、長〜くなってしまいそうなので、またいつか。(赤だしの入ったお椀。お椀の下層部2/3くらいの深さまで、しじみが入っていたということはお伝えしておきたい。最後に手を合わせてゆっくり頭を下げ、「ごちそうさま」でした、と言ってしまうほど。大変おいしい天丼でしたということだけ、ここにご報告をしておきます)

お腹もいっぱいになって、腹ごなしに上野公園を歩く。斜め上の方に携帯を傾けながら、桜を携帯にうつす人。長い長いレンズをつけた立派なカメラを肩にぶら下げて、時折銃を構えるように写真を撮る人。ベビーカーを押しながら、きれいだね、あったかくて気持ちがいいねと赤ちゃんに話しかけつつ桜を愛でるお母さん。歩を止める人は少なく、みんな適度に距離を保って、いい顔をしながら頭上の満開の桜と地面や水面にさらさらと落ちていくさくらを眺めている。そんな人たちをニコニコ眺める時間。

今週は息子の小学校の卒業式もあって、穏やかに時の流れる1週間でした。

もうすぐ4月ですね。皆様、素敵な週末をお過ごしくださいませ。

こいけはなえの気になるもの。

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(毎週土曜日更新)
マネージメントを中心に料理家と一緒にand recipeという会社をやってます。とにかく旅が好き。

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