まちのカレー屋さん。

京王線幡ヶ谷駅から、事務所のある代々木上原までの道すがら。仲通り商店街の中にずっと気になっていたカレー屋さんがありました。
カレー屋さんと書いておきながら、ここが果たしてカレー専門店なのか、カレーが名物の喫茶店なのか。商店街を通るたび漂ってくるスパイスの香りに、いつか機会があったら食べに来よう。そう思ったまま、もう6年ぐらいが経過していました。仕事場も自宅も近所なのに、今までなんで足を運ばなかったんだろう。6年越しで、気になるカレーを食べた今はそう思っています。

美味しいカレー屋さんが集まる街といえば神保町。中高、共立女子に通っていた大学の友人が連れていってくれたボンディ。迷路のように本屋さんを抜けてカレー屋さんに向かう道も楽しく、メークインのじゃがいもが食べ放題。どっしり存在感のあるとろけたチーズを、スプーンでいい塩梅にすくいながら、カレーをライスのお皿にかける。甘酸っぱいらっきょうをひとつと福神漬を少し。完璧なカレーライスがスプーンの上にできあがったところで頬張る。欧風カレーといえば、ボンディ。資生堂パーラーのカレーも精養軒のカレーもおいしいけれど、定期的に食べたくなるのはボンディのカレーです。
ゴロゴロした具材とスパイスのパンチにやられてしまうエチオピアのカリーライス。カレーライスではなくて、カリーライス専門店なんですよね。よく注文するのは、3倍の辛さのチキンカレー。玉ねぎのアチャールも欠かせない。カルダモン、クミンシード、コリアンダー、ターメリック、ショウガ、コショウ、トウガラシ、ニンニク、シナモン、クローブ、キャラウェイ、フェンネル。そして、辛さが1倍上がるごとに0.1g増量されていくというカイエンペッパー。カイエンペッパーって書くだけで、じんわり額に汗が吹き出てくるのは、体があの辛さを覚えているからでしょうか。スパイスを羅列しているだけでも、無性に食べたくなる不思議なカリーライス。

神保町とまで行かなくても、自分の住む街や仕事をする場所の近くにおいしいカレー屋さんがある喜びは大きい。町中華のおいしいお店はいくつかあるけれど、町カレーと呼べるお店が近くにあったらいいのにな。


そう思っていたはずなのに。今まで長い間、なぜこのお店を訪れなかったんだろう、わたしは。あぁ、もったいない時間を過ごしてしまった。

ここ数日、春の気温で、近所の小学校・コーヒーショップの前にある桜の木も花が咲き始めました。

朝からの撮影。予定の時間よりも早く終わったので、ブラブラと散歩をしながら幡ヶ谷の駅向こうの本屋さんに向かいました。その途中で、ふんわりとただよってくるスパイスのいい香り。

きゅうっとお腹がなって、前を見る。お店の花壇の花にも、おいでおいでと誘われているようです。朝から何にも食べていないし、ずっと気になっていたお店だから入ってみよう。

「こんにちわー。1人です」店内は、入り口近くの席を残して満席。

「こちら少し狭いんですが、どうぞ。広い席が空いたら、またご案内しますね。」

若い女性の店員さんが席に案内してくれる。
入り口から一番近い席は、コロナになってからおそらく増設した席で、テーブルの前には仕切りの壁。勉強机のように、一人っきりで集中してカレーと向き合える空間になっていた。

ちょうど勉強机の本棚の位置にメニューがピタッと貼ってある。ようやくここがカレーの美味しい喫茶店ではなく、カレー専門店だということが、メニューを見てわかった。

エッグカレーも気になるけれど、やっぱりあいがけにしようかな。

「ポークとチキンのミックスカレーください。」
コーラも、と言いかけて声に出さずに飲み込んだ。また散歩をしながら、パドラーズでコーヒーを買って帰ろう。

カレーを待つ間、壁の向こうからひっきりなしに声が聞こえてくる。

「お冷やいかが?」

「ごはんは大盛りにする?うちのライスは普通のお店の2倍くらいあるからそのままの量で一度食べてみる?」

カレー屋さんのそばにはゴルフの打ちっぱなし練習場があるので、その帰りのお客さんがやってくるようです。入り口の扉の横を見ると、ゴルフバックが置いてある。

「お腹ペコペコなんだけど、普通盛りでいいかな」

「はい、おまちどおさま。エッグカレーのチキンね。そちらのお客さんのポークとビーフのカレー。いっぱい食べてね」

先ほどの若い女性の店員さんとは違うお母さんの声。

「はい、お待たせしました。ポークとチキンのカレーね。熱いから、気をつけて食べてね。」

ひっきりなしに、聞こえていたお母さんの優しい声に顔を上げるとポークとチキンのカレーがやってきた。ポークは甘口、チキンは辛口らしい。普段から辛いものが好きな舌。チキンのルーにはプチプチしたスパイスが見える。

アーモンドの型にぎゅーっとつまったたっぷりのライスの土手のおかげで、あいがけでもカレーが混ざらない。まずは、辛口のチキンカレーを食べてみる。ううう〜ん!想像していたよりピリピリきます。おおお〜辛い。カイエンペッパーの辛さ。鼻の頭に、汗がゆっくり吹き出していくのがわかる。ツンと縦に辛いカレー。ふた口食べると背筋が伸びて、ポークにいく前に一度座り直す。

お隣さんのポークカレーは色味もやさしく、ねっとりしたルー。手前の福神漬けをまずスプーンですくって、ごはんの土手を少しくずす。豚肉のかたまりにスプーンをスライドさせて肉とルーを乗せる。ベストな状態のスプーンを口に運ぶ。う〜ん!美味しい!辛口のチキンカレーが先に運ばれてきたこともあって、口内からは、まったく辛くありません〜という声が聞こえてくる。でも、甘々の甘口ではなく、ルーに溶け込んだ野菜の味もおいしくて。またひと口、もうひと口とどんどん食べたくなる味でした。

ポーク、チキン、チキン、ポーク。チキン、水。休まず口にスプーンを運び続けているはずなのに、お皿にはまだまだカレーが残っている。さっき聞こえてきた「うちのライスは普通のお店の2倍くらいある」というお母さんの声が脳内でリピートする。

「お冷やいかが?いっぱい食べて、いっぱい飲んでいってね」

「ありがとうございます。」

「その緑のお漬物ね、ピーマンなの。高知から取り寄せてるピーマンのお漬物。よかったら食べてみてね」

きゅうりのキュウちゃんにしては、色が鮮やかだなぁと思っていたまま、まだ手をつけていなかった緑のお漬物。ピーマンの漬物だったのか。
後から検索をしてみると、無発酵の当座漬け。お醤油で漬けてあるお漬物のようだった。ピーマンと聞いたら、なぜかより美味しそうに感じて、そこからはピーマンの漬物とチキンのカレーを何度も一緒に口に運びました。ピーマンを微塵切りにして、醤油と塩昆布と一緒に漬けても美味しそうだな。晩ご飯の副菜に作ってみよう。あぁ、ごはんの土手の終わりがだいぶ見えてきた。

「はい、お冷や入れとくね」

「ありがとうございました!」

「あぁ、うまかった。ごはん大盛りにしてたら、食べきれなかったかも」

最後のひとすくいを平らげて、ふーっと息をついてからレジに向かう。

「ごはん多かったかな。次に来てくださる時は、少なめにしてくださいって言ってもらったら、その分小さいサラダもつけられるからね。ありがとう。また来てくださいね。」

予想よりも大盛りのカレーを次々と口に運んでいる間、お冷やを何度も追加しにに来てくれるお母さん。(チキンの辛さに、みんなお冷やをどんどん飲むから、いっぱい食べてねの後に「いっぱい飲んでね」だったのか)わたしに向けられた声ではない会話が、ひっきりなしに壁の向こうから聞こえてくる。お客さんを常に気遣うお母さんの声、お客さんの笑う声。残さず食べきりたい、と思いながら口にスプーンを運んでいる自分。壁の向こうで聞こえる声が、途中からずっと応援のように聞こえてくるから不思議だった。

カレーのおいしさ。そしてメニューをご覧になってくださった方はお気づきかもしれませんが、その安さもさることながら。あのお母さんの気遣いに、最初はびっくりして、チキンカレーのピリリとした辛さが恋しくなって。時々、また来たよ〜ただいまと帰ってきたくなる、そんなお店でした。お客さんがひっきりなしにやってくる理由が、今ではわかる。
幡ヶ谷にあるカレー屋さん「SPICE」。幡ヶ谷、代々木上原あたりでカレーが食べたくなったら。ぜひ、足を運んでみてください。お腹いっぱい。そして心も元気に満たされるお店です。

おしらせ

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