西の果てで飢えを叫ぶ。

久しぶりの居酒屋。

在職中は何度か来ていたこの店は最近改装したらしく。
雰囲気がずいぶん変わってオシャレになったなぁ。

照明で透かしたほのかに明るい和紙風の壁が高級感を醸し出す。ツヤツヤの床を進むと掘り炬燵風の大きなテーブル。

懐かしい顔ぶれがずらり。

あれ、誰もマスクしてないのね。
日本は皆マスクしているって聞いてたけど、もういいのかな。

中に案内してくれた元同僚のY君。Mr.シティボーイ感満載だった彼。もうミドルエイジに差し掛かっているはずだけど全く歳を感じさせない。

「飯塚さん、都会で飲むの久しぶりでしょ。だからって暴飲暴食しないでよ。ちゃんと帰れるくらいにしときなさいよ。」

余計なお世話だよ!君も相変わらず小姑みたいだね。

九州営業所長のHさん、

「おー、久しぶり。帰国中?元気そうだね」

仕事に厳しく人情に厚いHさん。鋭くも優しい眼差しは以前と変わりない。

キャラが全然違うけれど優しくてオシャレで永遠に女子な宣伝部のお姉さん三人衆も揃っている。

仕事帰りに飲みに行くことはあまりなかったけど、ランチは一緒に食べていた先輩達。
自然と自分の頬が緩むのがわかる。

そう、私は職場のこの人たちが好きだった。

出会った人達に恵まれていたんだよなぁ、としみじみ思い返す。

テーブルの上には焼き鳥や枝豆、手羽先唐揚げ、豆腐のサラダ、ポテサラ、だし巻き卵、お刺身の盛り合わせ。カルパッチョみたいなのまで。

くぅ〜、これですよ。こういうのが食べたかったの。
サッパリ、コッテリ、色んな食材、食感、味付けを少しずつ食べる居酒屋。

ジョッキがキンキンに冷えた生ビールも懐かしい。

最高過ぎて泣ける。

「はーい、カンパーイ」

ビール一口飲んだ瞬間、身体の隅々に幸せ感が染み渡る。

嬉し過ぎてテーブルに目を泳がせていたら、店員さんが巨大な四角いステンレスのおでん器まで運んで来た。

ヒェー。今時の居酒屋はこんな風におでんを出すんですか!
大根とはんぺん、はやく食べたいな〜。

あ、でもちょっとお手洗い行ってこなきゃ。
トイレの場所、変わってないよね。ちょっと行ってくる。

手を洗いながら鏡をチェック。もう食欲全開。

子守りをお願いして東京で飲みに行くってこれ以上の贅沢はないわ。
昔はコレが日常だったなんてホント人生の変わり方ハンパないな!

さて、飲むぞー食べるぞー!

あれ?

宴席の部屋へ戻るとテーブルの上は一掃され、皆さん赤ら顔で帰宅のご用意。

「え?もうお開きなの?」

ボーゼンと立ち尽くす私に、Y君

「そうみたい。ボクももうちょっといると思ってたんだけど。ちゃんと食べた?」

そんな〜!私何一つ食べてないんだよ。ビール一口飲んだくらいでさ。
あのおでん、あんなにたくさんあったじゃないの。
まだ帰らなくたっていいじゃん!!

と、ここで目の前は薄暗いベッドルームの天井に。

なんだ、夢だったのか。ってかこれ悪夢だよね。

東の果てからの食テロに悶々とする日々…。

ご挨拶遅れました、おはこんばんちわ。飯塚です。

ホームシックというよりも日本の食べ物シックが過ぎると、こういうリアルな夢を見て朝から何事にも嫌気がさすアイルランド田舎暮らし。

せめて美味しい想いが出来たら夢であろうと文句言わないのですが。

しかも実際には私、おでんが全然好きじゃないのに夢の中でなぜあんなにおでんに心躍らせてたのか。重症ですな。

佐藤家さんの台所を見てはため息をつき、山口フォトさんのインスタ見ては「ズルい」と悪態をつく日々。

大分のムトーさんも田舎暮らしというある意味似た境遇のはずなのに、食の天国JAPANの底力は侮れない。

もはや昨日の若岡さんのカレーカップヌードルですら嫉妬の対象。
あのジャンクの癒し感、ホクホクのポテトも謎の肉も全部ずるっとがっつきたい。

SAKRAの皆さん、食テロが過ぎます。

と言うか、日本はどこを切っても食の国。
そんな国から来た私の脳内もほぼ食まみれ。
だから西の果てで

「美味いもん食わせろーーー。」
と絶叫してるのです。

私はなんでこんな辺境な食の後進国で生きていくことになったんだろう。

熊は日本出国した途端に人間に戻る不思議。

隔週水曜担当の山口君は絶賛ダイエット中らしいけど、

春のダイエット祭り

美味しい物天国の東京でダイエットとは、美女に下着姿で毎晩誘惑されながら禁欲生活送るようなもんです。

山口君、アイルランドの田舎においで。

誘惑皆無。マジで食べたい外食など微塵もないからね。

事実、私はいつも日本一時帰国で冬眠前の熊並みに食いだめするので、日本を経つ時は文字通り熊みたいな体型になる。

それが、アイルランドに戻った途端に、何もしてないのにたった3週間で最大7㎏体重が落ちたことがあるのです。

7kgとは米袋5kgと2kg分、または3.5kgの新生児二人分がスルッと身体からなくなるってこと。
顔つきも変わればパツパツだった服も元通り着られるようになる不思議。

あの痩せ方は我ながらミステリーでしかないので、例えば今同じように痩せたくても再現できないのが惜しい。

おそらくアイルランドに戻ると私の食欲スイッチが一時的にOFFになるのでしょう。

2021結婚記念日ディナー(涙)。

食材も限られているのでレパートリーが増えず食事のことを考えると絶望感に襲われることも少なくない。
またコンビニ弁当や惣菜みたいなのも売ってないので手抜きをしたくても逃げ道がない。

そんな中で先日私たちの7回目の結婚記念日を迎えました。

例年、夫婦でレストランディナーを楽しませてもらうのですがロックダウン中の今は外食したくてもレストランもやってない。

では、毎週金曜日に近所にトレイラーを出すフィッシュ&チップスを食べよう♪

ってね、このご時世我が家の外食は選択肢がコレしかないんだよぉ〜!

買ってきたフィッシュ&チップス。私はエビにしました。これだって十分美味しい、美味しいんだよ。誰だ、緑色が足らないとか言ったのは?!アイリッシュたる者、サラダ不要。

ちなみにシティだと和食やインド料理、イタリアンやタイ料理などまだバラエティはあります。
店内では食べられなくても今はほとんどのレストランでテイクアウト(アイルランドではtake away と言います)は出来ます。

私の住まいから車で15分出せば中華もある事はある。味は保証しないけど、という条件付きで。

2月某日、外食に飢えすぎてファーマーズマーケットでエチオピア人のやっているランチを買う。スパイス効いてて大好き。野菜祭りなベジタリアン。モリモリ野菜の下にご飯が隠れている。

あゝ、夢でいいから、こいけさんとニホンコンさんが行った餃子屋や山口君の行きつけの旨い店に行きたし。今なら冬眠前の熊の食欲全開になる自信があります。

と、本日は悪夢と愚痴の回でした。
日本に住む皆様、これが海外田舎暮らしのダークサイド。

春から夏は自給自足や釣りの自慢話で巻き返しを図ります。
今に見てろーー。

西果て便り

(毎週木曜日更新)
世界放浪の後にヨーロッパの西端アイルランドに辿り着く。海辺の村アイリッシュの夫、と3人の子供達(息子二人、娘一人)と暮らしています。