樹になるゼリー。
「樹になるゼリー。ぷるんぷるんの果肉。包丁を入れるとじゅわっと溢れ出る果汁。」愛媛県だけで栽培することが許されている「紅まどんな」を形容する言葉たちを並べてみました。
マネージャーをしている写真家の幡野広志さんからはじめて紅まどんなのことを聞いたのは、たしか2019年の年末か2020年の年始。生産地の愛媛県から遠く離れた北海道のセイコーマートで幡野さんが出会ったという紅まどんな。皮が薄くて剥くのが大変なんだけれど、果肉のプルプル感と果汁の多さ、甘みと酸味のバランスに驚いた。こんなにおいしいみかんがあるんだ、そこから紅まどんなをずっと追いかけているんですというお話を、何度となく聞いていました。
2020年の2月に、渋谷パルコのほぼ日曜日のスペースで行われたしいたけ.さんと幡野さんのトークショーの中で語られた「いつかみかんの仲買人になりたい」という幡野さんの夢。1 月16日からほぼ日曜日で開催される「ほぼ日のおやつ展」で叶うことになりました。題して、「みかん屋 ハタノ」と申します。
おいしい紅まどんなを探すため、愛媛を旅して幡野さんがたどり着いた柑橘直売店「一国屋」さん。おいしいみかんを作る生産者さんとつながって、珍しい柑橘を各種取り扱うお店。今回のイベントでは、紅まどんな・愛果28号をこちらから仕入れさせていただけることになりました。
ご挨拶と仕入れの相談のため、少し前に愛媛にお邪魔してきました。松山市内から車で1時間ほど。柑橘や柿の有名な産地である西条市にある一国屋さん。
お邪魔した日はなかなかの強風と、時折雪やあられの降る日で。「こんな寒い日に大変でしたね」と、一国屋を営む越智さんご一家が、優しく迎えてくださいました。
紅まどんなの開発が始まったのは、1990年。南香と天草という品種を交配したのがスタートです。少しずつ改良が重ねられ、2005年3月23日に正式に品種登録がされ、2009年7月17日に商標登録が行われました。
「紅まどんな」という名前が一番ポピュラーなのですけれども、品種名は「愛媛果試28号」といいます。一国屋さんの看板にも「紅まどんな・愛果28号」と大きく書かれていますが、「愛媛果試28号」を略して「愛果28号」と呼ばれています。記号のような名前が出てきてややこしいですね。えー、一番お伝えしたかったことは、「紅まどんな」と「愛果28号」実は全く同じものってことです。「紅まどんな」という名前はJA全農えひめの登録商標で、JAを通したものだけが「紅まどんな」という名前で出荷ができるのだそうです。
紅まどんなの出荷時期は11月の後半から1月の初旬まで。ちょうどお歳暮の時期と重なることもあって、ここ数年、知る人ぞ知るというところから、じわじわと人気が高まってきたのだそうです。
「どんなにいいものを作っても売れるタイミングと重ならないと人気って出ないでしょう。タレントさんも一緒だよね。紅まどんなは出荷のタイミングがいいからここ最近、どんどん人気になっていったんだよね。人気が出ずに作らなくなっていく品種もあるんだよ」
紅まどんなこと愛果28号の後には、こちらも愛媛県のオリジナル商品である甘平が1月中旬から出荷を控えているのですが、こちらはお歳暮の時期と重ならなかったことから、まだまだ出荷の量は少ないのだそう。出荷のタイミングも人気の大事な要素。もちろんおいしいことが前提なのですが。むむむ、なるほど。
「うちに来たお客さんが教えてくれたんだけれど、某有名な東京の果物屋さんでは、ひとつ3000円で売られている紅まどんながあるみたいだね」
なんと!3000円!それはかなりお高い価格ですが、今回はお手頃な価格でお届けしたいです。
紅まどんな(愛果28号)は、全てハウスで栽培をしているそうです。温度管理がしやすく、商品のクオリティを保つことができるハウスの栽培。希少な柑橘を作る際には、一番向いているとのこと。ハウスにも2種類あって、石油を使って加温するタイプと、日照時間を最大限に利用した無加温のタイプ。どちらもハウスの温かい時間と朝晩のぐっと冷え込む時間の寒暖の差が決め手で、おいしい柑橘ができるのだそうです。ハウスに2種類あることも、今回初めて知りました。
「温州みかんといしじという品種、そして紅まどんなを食べ比べしてみてください。」
食べ比べ、楽しくて嬉しい。まずは温州みかんからいただきます。間違いない味。おいしいです。まるっと一個、すぐに食べてしまいました。
紅まどんな(愛果28号)は最後にとっておいて、次はいしじという品種を。少しこぶりだけれど、紅まどんなより皮が向きやすい。味はというと、これがとっても好みの味だったんです。わたくし、母が愛媛出身。ちっちゃな頃から悪ガキでじゃなくて、小さな頃から愛媛にもよく行きましたし、12月になると毎年御近所さんに配るほど親戚からみかんが届く。中には珍しい柑橘がぽんぽんと入っていて、新しい品種を食べるのも毎冬の楽しみでした。みかんを買うという行為を我が家ではほとんどしていなかったんじゃないかなぁ。コタツでみかん生活の冬場の私の掌はかなり黄色かった。という、柑橘全般が大好きな人間ですが、いしじはおいしかった。酸味が強めのすっきりしたみかんです。
で、登場しましたよ。お目当ての紅まどんな(愛果28号)。外皮が薄く、とても柔らかいのですが、果肉とぴったりくっついているため皮が剥きにくい。紅まどんなを食べる時は「スマイルカット」が一番です。みかんを横にして2等分。紅まどんなのサイズによって、そこから3等分ずつか4等分ずつにして食べる櫛切りが一番きれいに、果肉を余すところなく食べられます。
まず香りがいい。柑橘全般、匂いをかぐと幸せになりますが紅まどんなはとにかく香りがいい。「浅い味のみかんはダメなんだ。この紅まどんなは深さと濃ゆさがあるでしょう」確かに、味の浅いみかんに当たって、少し残念な思いをすることありますよね。
一口かじると口の中にプシュッとはじける果汁の分量がすごい。そして、さすが樹になるゼリーといわれるだけあって、果肉がぷるぷるです。ぺろっと1個、あっという間にお腹におさまってしまいました。
「紅まどんな(愛果28号)の等級には4つあるんですよ。箱の横を見るとわかるんだけれど、上から『秀 赤』『秀 青』『良』『有』。スーパーでひとつひとつ売られていたら、どの等級が売られているかってなかなかわからないもんね」
「階級っていうのはサイズのことね。Mから4Lまでがポピュラーかな。一番手頃で、見栄えもあっておいしいのは、この『秀 赤』の2Lです」(ちなみに購入してきたLサイズの紅まどんなの大きさを測ってみたところだいたい直径7.5cmくらい、4Lサイズが直径10cmくらいでした。)
そういえば、幡野さんが紅まどんなを語る時、「手触りがよくてしばらく触っていたくなるんですよ」っておっしゃっていた。おいしい紅まどんな、触って見分けることってできるものなんでしょうか。
「幡野さん、すごいね。ねっとり柔らかくて手触りがいい紅まどんなは食べ頃のおいしいサインなんだよね。知らない人は、触って柔らかいともう熟しすぎて痛んでいるんじゃないかって思うかもしれないんだけれど、ねっとり柔らかいの手触りのものほどおいしいんですよ」
これは、いいことを聞きました。やっぱりもぎたてのものがおいしいのでしょうか?
「紅まどんな(愛果28号)や甘平みたいな品種は、収穫してから1週間以上寝かさないとおいしくない。これもなかなか知らない人が多いかもしれないね」
みかんのお話は尽きるはことなく、気が付いたら3時間弱一国屋さんで過ごしていました。いやぁ、楽しかった。
愛媛には、代表的な柑橘が17種類あります。温州みかん、伊予柑、せとか、清見、はれひめ、ポンカン、八朔、不知火、カラ、天草、甘夏、河内晩柑、はるみ、はるか、レモン。そして紅まどんな(愛果28号)と甘平。
今回のイベント(1月16日〜31日開催)では、紅まどんなこと愛果28号は、常時購入頂けます。加えて、出荷のタイミングが合う柑橘(例えば甘平など)をその日のお楽しみで仕入れる予定ですので、ぜひ食べ比べ味比べも楽しんでもらえると嬉しいです。目利きの越智さんが仕入れる柑橘はどれも抜群においしいです。
おっと。最後は思いっきり宣伝になってしまいましたが、樹になるゼリー紅まどんなに逢いに行く道のりは、終始いい景色といい香りの旅路でした。みかんを食べた後の手の香りが、ハンドルに移って、車中もずっといい香り。またゆっくり旅ができる日常が戻ってきたら、西条からしまなみ街道を通って、尾道の方まで行きたいな。尾道には、いつかお邪魔したい思っている紙片さんという本屋さんもあるんです。あぁ、未来の旅の妄想が止まらなくなってきた。
それでは皆様、良い週末をお過ごしください!