手土産上手。

手土産上手な人に憧れます。
以前、芸能関係の仕事をしていた時には舞台の差し入れや撮影の差し入れに、何を持って行ったら喜んでもらえて現場の雰囲気が和むかなと、手土産アンテナを張り巡らせていたものなのですが。最近は手土産を持っていく機会がめっきり減って、自分の中のテミヤゲレーダーが錆び付いていると感じていました。アップデートしていかねば、と思っていた時にちょうどレシピ本の撮影があって、私の中の最高の手土産マスターと久しぶりにお仕事をしました。
カメラマンの鈴木泰介さん。泰介さんと撮影の時って、心のどこかで期待してしまっているのです。今日は、どんな手土産と一緒に登場してくださるのだろうと。毎回、見たことのないおいしい手土産を持ってきてくださる方なのです。ここに、こんな風に書いてしまうと、うちの事務所に来るときは、必ず何かを持ってこなければいけなくなるじゃないか!ごめん、泰介さん。

そんな泰介さんが持ってきてくださった数々の手土産の中のとびっきりのひとつが「杉戸煎餅」という青砥にあるお煎餅屋さんの揚げかき餅です。花柄のかわいい、少し懐かしいパッケージにたっぷり揚げ餅。サクサク軽くて、揚げ餅なのに油が身体に残る感じがなく、どんどん口に運んでしまうエンドレスな味です。塩、醤油、青のりなど、いろんな種類がある。泰介さんの地元に近いお店だということで、and recipeで撮影をすると、手土産名人と一緒に弊社に届くのがこの「杉戸煎餅」でした。

京成線の青砥駅。先日お邪魔した哈爾濱餃子のある堀切菖蒲園駅同様、今まで一度も降り立ったことのない駅です。何年か前に、泰介さんが手土産に持ってきてくださった時から、ずっとずっと行ってみたかったお店。SAKRA.JPを理由に、ヒョイっと気になる場所を尋ねられるようになったのが嬉しい。この連載が始まってから、いつかではなく、思い立ったらすぐ尋ねる習慣がついてきた。青砥駅までの道のりは、事務所から片道50分くらい。今日も東東京まで。小さな電車の旅へ、出発です。

レシピ本の撮影で使った食器をリース屋さんに返却して、そのまま千駄ヶ谷駅へ。総武線に乗って浅草橋を目指します。浅草橋で都営浅草線に乗り換え、1本で青砥駅まで。この電車に乗ると、「四つ木」や「千住大橋」など、駅として降りたことのない場所を通過する度、大学生になって免許をとったばかりの頃を思い出します。首都高のあそこの合流がヒヤヒヤしたなとか、まだあの頃はスカイツリーがなかったんだよなとか。首都高の合流、今となってはなんてことないけれど、すごく怖かったんだよなぁ。今でも思い出して、ぞくっとする。

高速道路の灯りがボワッと立ち上がっていく様子を眺めていたら、あっという間に青砥駅に到着しました。3階建てになった駅の急な階段をどんどん降りていきます。まだ5時すぎなのに、あたりはすっかり暗くなってきて、夕飯の買い物をするお母さんたちが、手元に防寒カバーのついた自転車をチリンチリンと鳴らして通り過ぎて行く。

杉戸煎餅は駅から歩いて5分ほどの場所にあるようです。北口を出て右に曲がる。ローソンを越えたら、すぐ左手にあるはず。初めて降り立つ青砥駅。もっと明るい時間に来て、ブラブラしてもよかったな。日が落ちるのが早くなると、寄り道をしないで、直接目的地を目指してしまう。

携帯の地図をみながら、時折顔を上げて周りをキョロキョロ見渡す。まっすぐ進んでいくと、お客さんで賑わっているお店が見えてきました。あ、ここだ!3年前くらいに、泰介さんが手土産に持ってきてくれから、ずっと気になっていた杉戸煎餅!

お店に入ると、夢のような煎餅空間が広がっていました。一体何種類あるんだろう。いつも手土産でもらっていた、このお店の看板娘。揚げかき餅は、右手奥にどっさり鎮座しています。たっぷり150gの揚げかき餅が入った袋は、ひとつ450円。蒸した餅米をつき、カットして乾燥させた後にサラダ油でカラッと揚げたかき餅。揚げたてに醤油がジュっとかかった「醤油揚げかき餅」がわたくし一番のお気に入りです。他にも塩・青のり・ごまなど、種類も豊富にあって、あげかき餅はお客さんがどんどん手にとって行きます。

今日初めてみたお煎餅の全ラインナップ。かき餅よりも少し小さいサイズで、軽く食べられるシリーズもあるようです。これがまた種類が多い。バター、えび、カレー、お砂糖をまぶしたものなど。どうしたらいいんだろう。全部試してみたくなっちゃうじゃないか。

お煎餅で、こんなに興奮したことは人生史上ないかもしれません。あぁ、何を買って帰ろうかな。

入り口に戻って、買い物用のピンクの籠を手に取り、気になるものを入れて行きます。軽めのお煎餅が入ったシリーズは110g入り。無類のカレー煎好きとしては、カレーは捨てがたい。ゴマ花梨もおいしそう〜!バターも間違いないよね。あとはエビに甘辛小丹。揚げかき餅は、もちろん買ってかえらねばならない。塩と醤油は絶対。青のりとごま、どっちにしようかな〜。今日は、青のりで、いや、ごま?いや、青のりで!煎餅に囲まれた幸せな通路を行ったりきたり。合計9袋のお煎餅を籠に入れて、ほくほくとレジに持って行きます。「快気祝に使いたいから、5000円分化粧箱に詰めてもらっていい?のしは無くて大丈夫。揚げかき餅は3個入れて欲しい。あとはお任せで」常連さんと思しきお婆さんが店員さんとやりとりをしています。あぁ、このお店が近くにあったらこんな風に化粧箱にいっぱいお煎餅を詰めて手土産に持っていくの、買っている時の自分も楽しいなぁ。

レジに並んでいるとスーツを着た男性が二人、新たにお店に入ってきました。地元の方なのか、わざわざ買いに来られた方なのか。18時の閉店前も、相変わらずお客さんはひっきりなしです。お店に実際に来てみるまでは、自宅や事務所からは少し遠いのでなかなか買いに行けないなと思っていたけれど、こうやって一度足を運んでみると50分の距離はぐんと近くなる。ただただ想像しているだけじゃなくて、来てみる、1回行ってみることで、また足を運ぼうと思えるようになるんだよなぁ。きっと、どこでも。

パンパンにお煎餅のつまった袋をかかえて、駅を目指す。そういえば、一個手前の駅は「立石」だった。まだ夕飯までに少し時間もあるし、降りたことはなかったけど、気になっていた立石にも寄ってみよう。dancyuや立ち飲み屋さんの特集でちょいちょい見かけていた立石。ここもなかなか足を運んでみることのなかった街です。

駅をひとつ折り返して、下車。いい雰囲気の商店街が眼前に見えてきます。全く下調べなしの立石。下の階から出汁のいい匂いが、漂ってきました。

階段を降り切ると、すぐに行列が見えました。何屋さんがあるんだろう。立派なお肉が並んでいる。「愛知屋」と書かれた看板。あぁ、みんな揚げ物を買っているんだ。揚げたてのお肉屋さんのメンチカツとかハムカツが。夕飯のテーブルに並ぶんだな。

コロッケを待つ少年の後ろ姿を見ていると、自分の顔がニコニコゆるんでいるのがわかります。待ちきれないよね。

商店街の中に入ってみます。しばらく感じていなかったこの雰囲気。ソウルの市場をブラブラしている時の高揚感だ。たくさんの惣菜がお店の前に並んでいて、お母さんがバッサバサと袋に入れてくれるこの感じ。いつになったら旅に出られるのだろうと思っていたけれど、来たことのない場所、行ったことのない場所は日本にも、東京にもまだまだたくさんある。

「たけし君」と書かれたたくあんが気になって気になって。

人気のもつ焼き屋さんは、お客さんがすでにほろ酔い。おいしそうにもつ焼きを頬張っている。ハイボールもいいですね。こんな光景を見ていたら、一杯飲んで帰りたくなっちゃうなぁ。もつ焼き屋さんの目の前には、あ!有名なお店じゃないか。おでんの丸忠さん。おのぼりさん気分でお店を見ていたら、キュキュ、っとお店の目の前にまた防寒カバー付きの自転車がとまった。きっと丸忠さんの常連さんだ。お店のお母さんと忙しそうに話をしながら、おでんだねを選んでいく。「じゃがいも、一個おまけしとくね。家でじゃがいもやるの、難しいのよ。すぐ煮崩れちゃうでしょう。」そうだ。うちも明日は、おでんにしよう。息子さんと思われる店員さんが、「なんにしましょう」と対応してくれる。タコ天、イカ天、ボール5ケ。ちくわぶも1本ください。もち巾も3個!大根とじゃがいもはうちで茹でよう。左手には、出汁がしっかり染みているお持ち帰り用のおでんもあって、あぁ、これを買って帰るのもいいなぁと心が揺れる。

すぐそばには製麺所直営のお店もあって。つけ麺用の太麺と、ラーメン用の細麺を購入。「茹でてある麺は10円引ですよ。」お母さんが声をかけてくれたのだけれど、すみません。今日は生麺を買って帰ります。

ぐるっと商店街を一周して心も満たされたので、さぁ、我が地元に帰るかと改札に向かう直前で。また、愛知屋さんの列に出会ってしまった。丁度、おおきなフライヤーから黄金色のカリカリ衣のコロッケが、がさーっと保温ショーケースに入るタイミング。揚げたてのコロッケを30個くらい手土産に持っていくって最高じゃないか。コロッケを手土産に持っていく現場は、どこのどんなタイミングがいいかな、と妄想するのも楽しい。

目の前でどんどん減っていくコロッケを見ながら、自然と足は列に並ぶ。コロッケ2個、メンチカツ2個。アジフライも1個ください。今日の夕飯はご飯を炊いて、お味噌汁を作って揚げ物ナイトにしよう。コロッケを包んでくれる竹の包み紙。コロッケが余計においしそうに見えるのはなんでだろう。

手土産上手の泰介さんが教えてくれた「杉戸煎餅」。その寄り道で知ることができた、知らない街で出会ういつかの手土産候補。愛知屋さんのコロッケは、揚げたてをがぶっと頬張りたい、やさしい味でした。