荻窪ラーメン散歩。
やってしまった。
今日の気になる場所、1カ所目。荻窪のラーメン屋さん「迂直」の閉店時間が迫っているのに。おいしいラーメン屋さんが集まっている荻窪の中でも、特別に行ってみたかったつけ麺の店。連日、行列らしい。携帯の中には、お腹のすくレビューが並んでいる。平日の閉店に近い時間なら、タイミングがよければ入店できるんじゃないか。
そう思い立って、新宿から中央線に乗ったのが15:00すぎ。小田急線からJRへの乗り換え口で、一瞬総武線に乗ってのんびり荻窪を目指すことも考えたけれど、麺がなくなり次第、お店は終了してしまう。少しでも早く到着できる方がいいと、12番線に停車している青梅行に飛び乗った。平打ちの麺が鰹昆布出汁にひたひたつかっている。醤油ベースのつけダレ。分厚めに切ってある特性チャーシュー。味玉付き。まだ麺が残ってくれているか、今日がダメならまた別の日に並んで食べればいいか、でも今日食べることができたらいいな…と、お目当ての鰹昆布出汁醤油つけ麺が写る携帯の画面を人差し指でトントン叩きながら電車に揺られていた。
新宿の次の停車駅は中野。思ったより多くの人が降車していく。高円寺、阿佐ヶ谷、三つ目が荻窪。閉店時間前には間に合いそうだ。電車の扉が閉まって、もう一度携帯の中の醤油つけ麺に目をやる。あぁ、お腹が空いてきた。今日は朝からまともに食べていなかったんだった。その時、耳を疑う女性の声が天井から降ってきた。「次は三鷹、三鷹です。」アァーーーーーーーー!!!
中央特快トラップ!!!!!!扉を掌でベタっと押しながら、高架の線路から見える武蔵野の台地をぼーっと眺める。停車しているはずの高円寺をとうに通り過ぎて、中央線は阿佐ヶ谷も通り越していく。こんなに三鷹駅までの時間が長かったのは、はじめてかもしれない。そりゃそうだ。いつもは目的地か、三鷹よりも先の駅に行くための通過点なのだから。今日は、嬉しくない折り返し地点になってしまった。三鷹駅は何も悪くないのに。反対側のホームに向かうために、恨めしく階段を登る。
吉祥寺、西荻窪、もっと早く到着していたはずの荻窪に到着。急ぎ足で、荻窪の北口を出て、「迂直」のある天沼3丁目方面に向かう。荻窪は、小学校1年生から6年生まで高円寺の学校まで通う通学路だった。駅の構造はあの時とそんなに変わっていない。すいすい移動できる。
朝6時すぎ、埼玉の実家から40分間、長久保発・阿佐ヶ谷行の西武バスに揺られて、荻窪で下車。乗車するのは始発に近いバス停だったので、大概は座ることができた。ランドセルを膝の上に置くと、この季節は足元のヒーターがあったかくていつもウトウト。荻窪駅から丸の内線に乗って新高円寺まで行くのが通学路なのに、乗り過ごしそうになることもしばしばだった。荻窪駅手前の「天沼」という地名がついたバス停で、いつもはっと目を覚ます。実家のある埼玉の、家から一番近いバス停の名前が「天沼マーケット」だったからだ。子供の時は、なぜこんなに離れた場所に同じ天沼という地名があるのか、とても不思議だった。
明治24年にできた荻窪の駅。それまでこの辺りは天沼村と呼ばれていて、世帯数は江戸時代73戸。明治時代のはじめになっても77戸しかなく、杉が生茂る武蔵野の原野だったそうだ。その後大正11年に高円寺、阿佐ヶ谷、西荻窪と駅が増えていって、荻窪にも人が増えていった。
そうそう、荻窪駅の直前でいつも私を起こしてくれた「天沼」という地名のこと。
ここ荻窪の地にある天沼、神奈川県にある天沼、そして我が故郷の埼玉には11カ所の天沼があるそうで。天沼という文字からも想像できる通り、その全ての場所が池や沼、流水の傍らにある高地だった。池や沼に隣接する高い場所=天沼となったようだ。
ラーメンを食べるために荻窪に来て、小学生の時に疑問だったことが解明されてしまった。ありがとうございます、ラーメンの神様。
はっ、天沼という地名に寄り道をしている場合ではなかった!
閉店時間の迫る「迂直」にわたしは急がねばならない。地図では駅の北口を出て、お店まで徒歩5分ほど。セブンイレブンを過ぎたら右折。静かな住宅街に入っていく。おいしいお店がありそうな気配のする小道をまっすぐ進む。お店はこの先の左手にあるようだ。キョロキョロしながら道を進むと、少し先にスーッとロープが1本垂れてきて、はっと足を止める。斜め上を見上げると屋上から荷物をおろしている人が。今日は夕暮れ前の空がきれいな日だ。
ロープのすぐ先の左手にお店を発見。滑らかな木の看板に「迂直」と潔い文字が書かれている。お店の前の待機椅子には男性が1人。もしかして、まだ間に合うかな?と少し勇気を出してのれんをくぐり、「まだ入れるものでしょうか…」と声をかける。右側に立っていた店主(の方と思われる)の方が少し間をおいて「お肉が…なくなっちゃったんですよね。あ、でもちょっと待ってください」そう言って、目の前の麺箱の蓋をかたっと少しだけ開け、中を覗く。もしかして!ほんのり期待を持ちながら、麺箱の中を透視する。チャーシューなしでも私は大丈夫ですと心の声が喉元をすぎた時に、「ごめんなさい、全部材料が終わってしまって。」という優しい店主の方の声が聞こえた。「ありがとうございました。また来ます」頭をペコっと下げ、少し名残惜しかったけれどお店を出る。そう、荻窪にはもう1軒行ってみかったラーメン屋さんがあるのだ。そのラーメン屋さんがある場所も、住所は天沼。少し散歩をしながら、かき氷とラーメンのあるそのお店に向かおう。
荻窪は商店街も楽しい街だ。教会通りにある次のお店を目指しながらブラブラしよう。
というわけで、今週は食べられなかったけれど、来週も荻窪ラーメン散歩です。