レシピの届け方。

2015年11月2日に料理家の山田英季とand recipe という会社を始めてから、5年が経ちました。この秋にちょうど6年目がスタートしたばかりです。
日常を少し豊かに、少し楽しくしてくれるごはんと旅にまつわるレシピを届けていけたらと試行錯誤してきましたが、今年はand recipeにとって、今一度自分たちにできることは何かを問われる1年でした。

あらゆることが規制された春。お家の中での楽しみを増やしていただけたら、と始めたReizoko ni ALMONDE-冷蔵庫にあるもんでというレシピのページ。現在は週4回、レシピを更新していますが、春から夏までの間は毎日ひとつずつ、冷蔵庫にあるものでできる、おいしいレシピをお届けしてきました。
思いついたらすぐに写真を撮って、記事を用意して。インターネットがあるおかげで、レシピを届けることも受け取ることも簡単になった。文字や動画、写真にイラストと、届け方も様々な方法を選ぶことも容易になった。
会社の名前にも「レシピ」を入れた私たちが、いま届けたい、これから届けていきたいレシピってなんだろう。どんな届け方がいいんだろう。

「いいレシピって?いいレシピの届け方って?」ということ考えながらスタートした会社6年目の11月。近くの古本屋さんで1970年代、80年代の『暮らしの手帖』と『檀流クッキング』の初版本を見つけました。
檀流クッキングは新装版を持っていたのですが、初版本の佇まいがなんともかっこよく、すぐに手に取りました。『暮らしの手帖』は自分が生まれた年の1976年1・2月号を見つけて購入。(『暮らしの手帖』お値段はなんと100円。)

奥付を見てみると、檀流クッキングの初版が発売されたのは昭和45年の7月10日。昭和45年は西暦だと1970年だから、出版されてからもう50年も経っている。そうそう、檀流クッキングのひとつ目のレシピは、「カツオのたたき」だった。カツオの厚みを表す時は。「ザクザクと下駄の歯の厚さぐらいに包丁で切って」と、他のレシピ本ではお目にかかれない言葉で表現されている。「イカのスペイン風・中華風〜墨や肝も混ぜ合わせて」。サブタイトルを読んでいるだけでなになに?とグッと心を掴まれる。次に材料。細かな分量は書かれていない。イカ、サフラン、ニンニク、トウガラシ、ショウガ、カタクリ粉、塩、コショウ、ハーユ、オリーブ油、生ブドウ酒。
その下に出来上がりの写真がポンと1枚。そそられるタイトルに、材料と白黒の写真。1ページ眺めただけで、どんな味なんだろうと想像をかき立てられる。
旅先で食べたものを檀一雄さん流にアレンジしたメニューも多い。「イカのスペイン風、中華風」はまさにそんなレシピのひとつ。「例えば、バルセロナでも、マドリッドでも、イカ・タコの料理は、スペインの至る所に多い。『プルーピトス』といっているが、『プルーピトス』とは、イカ・タコの総称をいうのか、それともイカ・タコの料理をいうのか、私は詳しいことは余り知らない。(中略)実に簡単で、実においしいものだから、日本人も大いにマネをして、大いに作り、食べてみるがよい。どんな種類のイカでも結構…。ヤリイカ、スルメイカ、モンゴウ、ホタルイカ、手当たり次第実験してみるのがよろしいだろう。」(『檀流クッキング』産経新聞社刊より)バルセロナやマドリッドの思い出とともに語られるレシピ。その場所に行って味わってみたくもなるし、旅に出た気分で料理を作る気持ちも弾む。同時に、レシピを読んでいるだけで、自分が台所に立って調理をする姿も目に浮かんでくる。思わず作りたくなるレシピ、ということだ。

自分の生まれた年に発売された『暮らしの手帖』には、大阪・ロイヤルホテルの料理長常原久彌さんの「ボルシチとかきのピラフ」のレシピが載っていました。読み始めたらあまりに美味しそうで、声に出してレシピを読んでみる。
「スープが煮立ってきたら、ブイヨンを取った牛肉の塊を切っていれ、ゆがいたベーコンも入れて、小一時間グツグツ煮続けてゆくと、牛肉とベーコンと野菜のうま味が出てきます。」
長い長いレシピ。まるで常原さんが横で直接料理を教えてくれているように感じる。びっちり3ページのレシピを、映像を見ているように読む。

時代によって、人の生活の仕方も変わる。便利な調理器具に頼ることも、宅配でおいしいものを注文することもわるくない。その時代に合わせて、もちろんその時に合う最適なレシピの届け方がある。そうだとは思うのだけれど、時短や簡単にできるものばかりではなくて、レシピを目でも味わったあとにおいしいご飯ができるってやっぱり素晴らしい。昔のレシピは、横書きではなくて縦書きなことももちろん大きく影響しているのだと思うのだけれど。スマホでレシピを見る時代に、こういう読後感を作ることはできないものか…。

世の中の動きが早く、みんな何かと忙しく過ごしている今の時代に、ご飯を作って食べる時間をどう楽しく過ごしてもらえるのか。

また世界に旅に出て、食べたことのない味を味わえる時がきたら、and recipeなりにそのレシピを再現して皆様にお届けしたい。その時には、どんな伝え方ができるのか。どんな伝え方がおもしろく、一番おいしそうに感じられるのか。檀流クッキングのように50年たってもおもしろく読まれるレシピの形って、どんなものが考えられるのか。

and recipeの「レシピ」とは。すぐに答えは出なそうですが、また実験を重ねて、届けることを重ねて。私たちに考えられる余白がまだまだ、たっぷりとありそうです。