哈爾濱餃子

餃子の特集の取材があって、餃子の皮を仕込んでいました。
200gの薄力粉に、140mlの熱湯を少しずつ入れて菜箸で混ぜる。
粉が少しずつまとまって、ポソポソした状態になったら手でこねる。
まな板に打ち粉をして、どんどんこねる。
生地に粉っぽさがなくなって、滑らかになったら30分ほど冷蔵庫で寝かせる。
そのあとは餃子の餡作り。

取材中、ライターさんにおいしい餃子屋さん情報を聞いてみたら、とっても気になる名前のお店を教えてくれました。

堀切菖蒲園駅にある「哈爾濱餃子(ハルビンぎょうざ)」というお店。
中国ご出身のご夫妻が2人で肩を寄せ合って餃子を仕込んでいる後ろ姿に見入ってしまう、トマト餃子のおいしいお店らしい。

今日は朝から餃子を仕込んで、撮影後に、さっき作った餃子を3つ急いでお腹に流し込んだばかりだけれど、その餃子はなんとも気になる。手中にあるiphoneは、代々木上原から堀切菖蒲園までのルートを即座に検索していました。子どもの夕飯を作る時間までに行って、食べて、戻って来られそうだ。

思い立ったが吉日。途中走ることもできるように荷物を軽くして、堀切菖蒲園に向かいました。
小田急線で新宿に向かい、山手線に乗り換えて、日暮里駅を目指します。日暮里駅に降り立つのは、いつぶりだろう。今年最後の海外旅行に向かう成田への道中。2月に京成スカイライナーを利用したのがたぶん最後だ。日暮里は、これから海外に向かうワクワクした気持ちと、あぁ帰ってきちゃった次はどこへ行こうかなと、次回の旅への気持ちを膨らませる、わたしの海外への玄関口でもある。

今日は海外に向かっているわけではないけれど、ハルビンへ旅をしている気分で餃子を食べにいく。思えば日暮里から、普通列車に乗るのも初めての経験です。千葉中央行きの普通列車。
日暮里、新三河島、町屋、千住大橋、京成関屋、5個目の駅が堀切菖蒲園。
移動の間、日が暮れていく空。右手の少し先にはスカイツリーが見えて、天辺が一番星のように白く光っています。左手の空はブルーとグレーとオレンジの色が雲に混ざっている。

堀切菖蒲園の手前の高架下には公園があって、保育園の帰りでしょうか。小さな女の子がブランコに乗って行ったり来たりする背中を、お母さんが優しく押していました。

初めて降り立つ堀切菖蒲園駅。お店は堀切3丁目。駅を左折して徒歩2分ほど。

「おいしい餃子屋さんは角っこにある気がする」と、「哈爾濱餃子(ハルビンぎょうざ)」を教えてくれたライターさんが言っていた言葉が妙に印象的で。お店に向かう間も「角っこ、角っこ」と頭の中で呪文のように唱えていました。

私の中の唯一のハルビンとの繋がりは、7年ほど前。
韓国語を皮切りに、外国語学習にハマった時期に使い始めたitalkiという言語交換のサイトがありまして。自分の母語と習いたい言語、勉強してこのくらいわかる言語をまず登録。授業料を払って講師に新しい言語を習うこともできるし、習いたい言語と母語がかぶっている海外の言語学習者と、お互いに言葉を教え合うことができるというマッチングのサイトでした。
(この原稿を書くのに、久しぶりにitalkiを開けてみたら、現在は授業料を払って習いたい言語の講師を探す機能のみになっているようです)
そこで日本語を習いたい中国の女の子と知り合いました。メッセージのやりとりを何度かしたのみで、スケジュールがなかなか合わず、スカイプでお互いの母語を教え合うところまでは行かなかったのですが、日本のアニメが好きなその女の子がハルビンに住んでいたということは今でも鮮明に覚えています。italkiのおかげで、こんな風に世界中の人と繋がれるんだなと実感した最初がそのハルビンの女の子だったからかもしれません。今でも、ハルビンというとその女の子のこと、外国語を学ぶ楽しさのことがシナプスのようにどんどんつながって、頭の中を駆け巡るのです。

中国の東北部、黒龍江省の首都ハルビン。ロシアと多くの接点がある美しい街。まだ行ったことはないけれど、いつか行ってみたい場所。日本との悲しい歴史も含めて、いつか自分の目できちんと見て、感じてみたい場所。

ウラジオストクからバスに乗って、ウスリースクという中国と国境を接する街までバスで行き、中国側の綏芬河(すいふんが)から鉄道でハルビンまで移動するという、ロシアと中国をまたぐ旅を海外に出られるようになったらしてみたい。頭の中の旅の準備は、ばっちりの街でもあります。

頭がハルビンに向かっている間に、お店が見えてきました。
角っこの赤い看板。白い文字で「哈爾濱餃子」と書いてある。
わたしが訪れたのは17時前。夕飯には少しはやい時間だったので、5席あるカウンターにはまだ誰も座っていませんでした。こんにちは、と声をかけると「いらっしゃい」とお母さんが答えてくれます。電話がなって、中国語で誰かと早口で話をしているお父さん。ブログに記事を書いてもよいかどうか伺ってみると「はい、いいですよ」とお母さんが優しく答えてくれる。席につくとカウンターの上には、ずらりと手書きのメニューが並んでいます。

トマト餃子5つ・400円 焼餃子5つ・350円 パクチー餃子5つ・450円
セロリサラダ、腸詰、味付け搾菜、チャーシュー麺、辛口麺、豚足麺、大肉麺(大肉??気になる!)などなど。

このお値段でいいの?と思うほど安くて、おいしそうなものばかり。
トマト餃子は必ず食べると心に決めてきたので注文。トマト餃子は水餃子なので、焼いた餃子も食べてみたい。焼餃子も注文。無類のセロリ好きとしては、セロリサラダは見逃せない。あとはビールも頼んで、まだ食べられそうだったら、追加で注文しよう。

たくさんのメニューを眺めながら待っていると、すぐにビールが出てきました。
アサヒスーパードライの中瓶とグラス。ビールを飲みながら、餃子を待ちます。
ハルビンて「哈爾濱」と書くんだということも、今回餃子を食べにきて初めて知りました。
ハルビンの「哈」と「蛤(はまぐり)」が頭の中でつながって、お腹がぐーと鳴ります。

少し高さのあるカウンターの向こうではお父さんのセロリをカットする音がトントン、ザクザクとしています。あ、これわたしのサラダかな。

「おまちどうさま。」真っ白なオーバルのお皿に山盛りに盛られたセロリが出てきました。シャッキシャキのセロリとニンジンの千切り。セロリ2本分くらいありそうな量。味付けはちょっと薄味だったので、お醤油とお酢とラー油を少し垂らして和えてからバリバリ食べる。これだけで、ビールが進む。

あまりにお腹が空いていたのでセロリをがっついていたら、「はい、トマト餃子」とお母さんがカウンターに餃子を置いてくれました。
「餃子の皮のおいしい匂いがする」餃子を頼んで、皮の匂いに注目したのは初めてかもしれない。
しっとりした肉厚の皮から湯気がほわほわとのぼっていきます。お皿を鼻に近づけて、もう一度皮の匂いをかぎました。やっぱり、皮の匂いがたまらない。
スマホにメモとかしてないで、熱々を早く食べるべきだ。脳が指令を出してきます。「トマト餃子は何もつけずにそのまま召し上がってくださいね」お母さんの言葉の通り、何もつけずに口に運びます。
頭の中で想像していたトマトの餃子はというと。ざく切りのトマトが入っていて、豚ひき肉と生姜のみじん切りが混ざっているものでした。
「!!!」熱々の水餃子を半分かじって中を見ると、トマトはとても細かく刻まれていて、もう調味料のようになっている。トマトのグルタミン酸とひき肉の旨味がまじわって、口内はおいしいのパレードになっています。黒胡椒の香りもする。もう半分もパクリ。そして、皮。もっちりとした厚みのある皮。これがまたおいしい。パクパクとトマト餃子を3つほど食べ進んだ時に、焼餃子が到着しました。

これがまたきれいな形。しばし見とれてしまう。こちらは、油の香ばしい匂いが最初に鼻にやってきます。トマト餃子が冷めてしまうのももったいないけれど、焼餃子も熱々を食べるべき。また脳から指令が下りました。
搾菜を刻んだものが入ったタレ用の小皿に醤油と酢、ラー油を注ぎます。餃子をちょんちょんとつけて一気に口の中に…いやちょっと待て。餡の部分を確認したいから、丸ごと行きたい気持ちを我慢して、半分かじる。溢れ出る肉汁。おいしいを一滴もこぼさないように、慌ててすすります。こちらはひき肉と細かく刻まれたネギの甘い香りがする。ああ、旨い。ビールをゴクリ。セロリを挟んでまた、焼餃子。
ぷ〜んと鼻をぬけていくスパイスの香り。これはなんのスパイスが入っているんだろう。

二つ隣の席にお客さんが入ってきて、ピータンサラダと焼餃子を注文しています。ピータンサラダもおいしそう。チラッと横のテーブルをのぞく。またもう一人、別のお客さんが入ってきました。

熱いうちに食べなければ、失礼だとばかりに、いつもより早いスピードで餃子2皿を平らげる。余韻を味わっていたい気持ちもあるけれど、ここはさっとひくべき。

近所にあったら週に3回は通いたいお店、って海外を旅しているとよく思うのですが。「哈爾濱餃子」さんはまさに、そんなお店でした。
お土産の餃子も購入することができるので、今日食べられなかったパクチー餃子とトマト餃子の冷凍もたくさん買って。「おいしかったです!」と声をかけてお店を後にしました。

堀切菖蒲駅の階段を上っている間、「うまかった」と2度つぶやいている自分に、自分でびっくりする。いやぁ、本当に旨かった。

今度は友だちと一緒に来て、今日食べられなかった麺も食べよう。
東京の中の小さな海外。哈爾濱餃子、また来ます。